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 『くせのうた』
 星野源

 
2010年(平成22年)
 アルバム「ばかのうた」収録曲

だから私は、
私の気持ちがどこかから
こぼれないように。
(みづき)

昨日苛立ち汗かいた
その話を聞きたいな


私は20代で、現在進行形のお話になります。

私の大好きな人の飼っていた猫が先日亡くなりました。
その子が亡くなる前日、
彼は目を赤くして、
その子が今とても厳しい状態にいることを話してくれました。
私は彼の肩を遠慮がちに、
そしてつとめて友達らしくさすって
「泣かないで」としか言えませんでした。

なぜなら、彼にはちゃんと、彼が辛いとき、悲しいとき、
そばでなぐさめてあげる人がいるからです。

そのことを私は知らないふりをしてるけど、知っています。
だから私は、私の気持ちがどこかからこぼれないように
いつも気を付けて彼と話したり、メールの文章を書きます。
(でもたぶん、もうすでにたくさん
 こぼれてしまってると思います。)

私は、彼が胸を痛めたこと、眠れない夜があったことを
彼が笑って話すことよりも知りたいと思います。 
でもきっと彼を詳しく知れば知るほど、
同時に彼の大切な人の存在も
ますます思い知らされることになるでしょう。
それがこわくて、
彼の話を聞くことが実は恐る恐るだったりします。

そんな私の臆病さや矛盾、
彼を知る役割のなさに途方に暮れながら、
でも、彼のくせくらいなら、
笑いながら今度聞いてみようかな、とか思いながら
おふろの中やベッドの上でこの歌を流しています。
(みづき)

きれいな(と申し上げるのは変かもしれませんが)、
片思いの投稿が届きました。
全体を通して強く感じたのは、
(みづき)さんがその彼のことを
「できれば治癒してあげたい」と願う純粋さです。

彼もおそらくは、
こぼれたものに気づいていることでしょう。
気づいて、どうなるのかは‥‥
わからないですよね。わからない。

でも、こんなにイノセントな片思いって、
そうそうできないような気がします。
描写されていることが、すべて無垢で正直で。
きれいな片思いだなぁ、
というのが、やっぱり率直な感想なのです。

星野源さんのこの曲を聴きながら読むと
またひとつ、深く切なく響きました。

「くせのうた」の主人公もまた
「君」の癖を知らないことを、
なんだかなー、ちぇっ、と思っていて、
それはたぶん、癖を知るほど近くにいないからで、
近くにいれば聞けるであろう
暗い話や眠れない日々のことを
聞かせてほしいと
もう本気で願っているわけです。

そういうときにいちばんツライのは
「あいつってこんな癖があってさー」とか
「あのひとってこういう暗いところが
 あるんだ」なんて
その片恋の相手の相手
(たいてい自分の友人だったりする)から
聞かされちゃうこと。
「ふーん」と興味のないふりをしつつ
ああ、ああ、そんだけ近くにいれば
そりゃそうでしょうよ! なんて
心の中で毒づいたりして。
もう、もがくもがく。
「くせのうた」ってそういう気持ちが
ほんとにみごとに結実した歌ですよね。
片恋の歌って「奪っちゃえ」系もあるし
「いつかふりむかせてみせる」系もあるし
「いいのいいのよわたしはいいの」系もあって
もう出尽くしたかと思っていたら、
星野源さんすごいなあ。

と、冷静に書けたりするのは
そういう経験がどっさりあるからです、
もちろん。

彼を知りたいという思いを
突き詰めていけばいくほど、
彼に含まれる「彼女」を
知らざるを得ないというもどかしさ。

人を好きになるというのは、
きれいで快いことばかりでなく、
いろんなことを、
もろとも引き受けることなのだなあ、
と思います。

いいところだけじゃなくて
悪いところも好きになるのが、
好きなときの好き。

最後にきれいごと言うわけじゃなくて
ほんとにあり得ると思うんですけど、
泣いている自分の肩を
自然にさすってくれる人は、
さすられる人にとっても
特別な人なのだと思いますよ。

好きな人のつらいことを知りたいですね。
でも、個人的なことを言えば、私はわりと
「つらいなら つらいほうがいい ほととぎす」的な
性格なのでいっそ
「相手の大切な人の存在」も知りたい。
そして、自分もふくめたその全体の状況が
好きなのだと思います。
それはもう、あきらめるとか、遠ざかるとか
そういうことではありません。

こんな恋は、きっと大きな恋です。
そういうことを経て、自分の中にもいつしか
homeと呼べる場所ができあがっていくのでしょう。

そして、男女の関係は
恋愛関係だけではないと思います。
そりゃあ優先順位は下がっちゃうけども、
相手を尊重できる友情ほど
すばらしいものはないです。

気持ちがすでにこぼれおちてしまっているのなら、
相手もわかってるだろうし、いっそ
一線を超えてしまうのもありかもしれません‥‥と
思い切った考えを書きつつ、また来週、
水曜日の恋歌で!

2014-12-06-SAT

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