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 『ビスケット』
 YUKI

 
2007年
 アルバム『five-star』収録曲

考え考え考え、
たまにきゅんとして、
恋におちました。
(引越は誕生日)

ありふれた毎日を
あなたが束ねてくれた


三年前の初夏の夜でした。

学生だった私は、デパ地下でのバイト帰りに、
バイト先の人と飲んで、
私より3つだけ年上の、友達のような副店長と一緒に、
ほぼ終電に乗って帰りました。
きまずいわけでもなく、
特別楽しいわけでもないまま電車は進み、
私より二駅早く降りる副店長は、
一人でシメのラーメンを食べると言いながら、
先に降りて行きました。
発車して30秒後、電車が急停止。
まさかの人身事故でした。

きっと最初から一人だったら大丈夫だったと思います。

午前2時、一人になった瞬間、
私の座席の下の方で、人が死ぬ。
このことにその日の私は耐えられませんでした。

一時間くらい停車した後、
次の駅までしか行かない電車を降りて、
とっくにラーメンを食べ終わった彼に電話をしました。
家までの簡単に歩ける遠くない距離がどうとかじゃない。
一人じゃいられなかったから。

彼は笑いながら迎えに来て、
軽くパニックになっている私の手を繋いで、
二駅一緒に歩いてくれました。

ずっと、ぽっちゃりというかデブで、
明るいから友達は多いけど、ズバズバ言う性格で、
人と違う個性的なものが好きな私は、
少女漫画が大好きだけど
彼氏なんて現実にはいたことがありません。

次の日から3日、
一体あの夜、何がおきてたんだろう?
と頭を離れずに考え考え考え、たまにきゅんとしては、
思い出し続けて、私は勝手に恋におちました。

仕事に真面目な彼に好かれたくて、
バイトも学業も真剣にやりました。
既にお父さんを亡くし、奨学金を返済しながら、
実家のお母さんにも仕送りをしていて、
それでも休日は積極的に楽しく過ごす、
男の人なのにすごく字の綺麗な彼。
実家暮らしで、甘ちゃんな私にとって、
彼は上司としても、
人生の先輩としてもとても魅力的でした。

二人で遊びに行ったり、
じわじわ距離が近づいているような気がして、
とっくに私の気持ちはバレバレだけれど、
好きだと言いたくなっては、
勝手な勘違いだと気づくような日々が1年半ちょっと続き、
彼は副店長から店長になり、
私はとうとう大学を卒業して、
バイトもやめることになりました。

社会人になる前、最後に二人で遊びに行った日、
もう知っているだろうけど、
とにかく好きだと言わなければと思っていました。
私を大きく成長させてくれたこの恋を
うやむやに終わらせたくなかったし。

その日、彼に手紙を渡されました。

私の好きな、綺麗な字で
付き合ってください、
と書いてありました。

ずっとずっと好きだって言いたかったはずなのに、
うなづいて、嬉しい、と言うのが精一杯でした。

彼を好きになったあの夜から、
勝手にこの歌を、この恋のテーマソングにして、
何度も励まされました。
歌詞の通り、月を味方にしました。
今日は月が綺麗だよって、メールしてみたり。

一途な想いを歌ったこの曲を、
恋歌にしてる人は多いと思います。
好きな人の好きなところ、100個言えるよ、なんて、
恋してたらやっぱりそう思うし。

だけど私の恋歌ポイントは
ありふれた毎日をあなたが束ねてくれた、です。
彼を好きになって、彼に好かれたくて、
彼が好きになるような子はどういう子なのか、
彼がいないところでも考えて、
そうして彼は、私の毎日を束ねてくれました。
終電も関係ないような仕事についた私を
心配する彼のために、
少しでも早く終わらせようと思えるのも、
束ねられた毎日のひとつ。

それからまた一年経って、
来月、私たちは一緒に暮らし始めます。
またリボンをひとつ増やして、
これからの毎日を束ねていきます。

未来はわからないけど、
手を繋いで一緒に歩いて行きたいし、
私の一途な想いに彼が負けたように、想いは強いです!

(引越は誕生日)

おわりは、はじまり。
はじまりは、やがておわりに。
卒業、進学、就職のシーズンまであとすこしですね。
この「恋歌口ずさみ委員会」も、あと1回です。
そんな時期にふさわしい投稿をご紹介しました。

ああ‥‥いい投稿です。
もう、単純な感想しか書けません。
心から「いいなぁ」と思います。
「最後に二人で遊びに行った日」という、
ある意味「締め切り」がもたらした、ハッピーエンド。
「きょう言わなければ、もう後がない」
そう決意をしたまさにその日に、
相手から「つきあってください」という手紙を渡される‥‥
そりゃあ、「嬉しい」を言うので精一杯ですよね。
わかります。サイコーです。
一途に、じわじわと寄り添い‥‥ひとつになる。
「よかったねぇ」としみじみ思います、おめでとう!

「彼が私の毎日を束ねてくれる」
このイメージも、すてきですね。
ありふれた1日も、
まあまあな1日も、
ハッピーな1日も、
いやなことがあった1日でさえも、
それぞれをリボンで束ねて、しまっておく。
ほんと、いいイメージ。

じぶんを成長させてくれる恋。
すばらしいなあ。
薬と毒が紙一重なように、
じぶんをダメにしちゃう恋もあるから。

ドキドキしました、手紙のくだりで。
ああよかった!
綺麗な字というのもいいですよね。
きっとひと文字ひと文字、
思いを込めて書いたんだろうな。
(まあ、たとえ下手な字でも、訥々とした文章でも、
 彼がくれたならばそれは
 「好きな理由100」に入っちゃうんだろうけど)。

こんなふうな恋歌の投稿を読んだあとは、
街を行き交う「つきあっているふたり」たちにも、
人には言わないかもしれない、
いろんなものがたりがあるんだろうなって思います。
ちょっとずつ(あるいは思い切って)
乗り越えてきたことがあるんだろうなって。
ふだんはひとのこと、あまり意識しないし、
ましてや自分のことを振り返る機会もないですが
こっそり思い出してみようかな。

いやぁあ、ホントですね。
行き交うカップル、ご夫婦、みなさんに
ものがたりがあるんだろうなぁ。
ちがう人間がいっしょにいようとすることには、
ほんとうに、いろんなことがあるでしょう。

両思いがわかる瞬間は、最高です。
ほんとうに感動しました。ああ、いいっ!

わたしもこの歌のなかでは
「ありふれた毎日を あなたが束ねてくれた」
がいちばん好きです。
「このままずっと一緒に いられるといいなあ」
というところも好き。

でも、不思議ですね、
「特別楽しいわけでもないまま電車は進み」
だったのになぁ。
恋というのは、わからない。
いつ恋におちるのか、
その正体はいったいなんなのか。
つきつめて考えていくと、
いつも最後は「自分の身勝手である」ということに
結論づいてしまい
ぜんぜんロマンティックじゃなくなっていきます。
だけれども、やっぱり、
なかよくしようとすることって、
すごく人間に向いているんじゃないかなぁと
思うのです。
それって、生きる力をくれるからね!

「彼を好きになって、彼に好かれたくて、
 彼が好きになるような子はどういう子なのか、
 彼がいないところでも考えて」

ああ、それが、まさに恋ですね。

この投稿でぼくが
たまらなく好きなのは、
「好きだと言いたくなっては、
 勝手な勘違いだと気づくような日々」が
たっぷり1年半以上も続くところです。
「わかれよ、自分の恋に」と
笑顔でつっこみたくなります。

そのように、慎重に、懐疑的に、
少しずつ近づいた恋の深淵で、
ようやく決意を固めたと思ったら、
思いがけず手紙を読むことになったのですね。
そこに、きれいな字で、両思いのメッセージ。
わあ、なんて素敵な話だろう!

うれしい話をこんなふうに書き上げて
ぼくらに分けてくださって、
ありがとうございます。
恋は、いいなあ、と心から思いました。
みんなもしよう、恋を。
まだの人も、ご無沙汰の人も、
その回路があることを忘れないようにしよう。

さて、次の更新、水曜日が最終回です。
日付けをそのために整えたりすることはせず、
載せたい投稿を順番に載せていったら
その日が最後になりました。

ああ、このセリフも最後ですね。
それでは、次回の更新で!

2015-02-21-SAT

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