糸井 |
忙しさって、処理できないんですよね。
大野さんは難病でクラッシュしたときに、
「わたしにこの問題をさせないで」
と言える理由がいっぱいできたのに、
忙しさについては変わってないはずです。
「こっちに持ってこないで」と
言えば言えるのに、言えないでしょ。
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大野 |
いまの忙しさは、生きるためにはどうしようもない
というところがあります。
まだまだ、わからないことだらけだし。
見通しも道筋もないですが。でも、
健全な好奇心は病に負けないんです。
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糸井 |
それは非常にいいですね。
「健全な好奇心は病に負けない」
うーん、言葉の弾力性があるなぁ。
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大野 |
倒れてのちやむという
中国の昔の言葉があるそうです。
いや、そんなことないんじゃないか。
倒れてのちはじまるかもしれないじゃん、と。
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糸井 |
うん。自分が大きくなってるんですね。
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大野 |
大きくなってるかはわからないんですが‥‥。
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糸井 |
容れ物としては、
あきらかに大きくなってるでしょう。
少なくとも、難病部分でやることが
いっぱいあるわけだから、
その分が加算されてるし。
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大野 |
とにかく、健全な好奇心は
生きていくための技術なんです。
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糸井 |
震災以後、みんないろんな道を
たどってるけど、
「健全な好奇心」でやっていくといいなぁ。
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大野 |
だけど、震災の前から
圧倒的な矛盾を抱えてきた人は、
震災が来ても
それが大きく変わるわけではありません。
寒さをしのぐ家のないの人や、
DVのサバイバー‥‥。
すごく困ってる人ほど、
もともと持っていたものが相対的に少ないので
「失った」とか「激変した」というより、
「さらに困ったな」という
感覚なのではないでしょうか。
「この社会やシステムは頑健だ」と
信じていた人にとってこそ、
今回の震災や数多の事故は
鋭利に突き刺さるものだったのかもしれません。
でも実際には、可視化されていなかっただけで、
慢性疾患患者みたいに、
矛盾はずっとありました。
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糸井 |
隠れてたものが良くも悪くも
あらわれちゃうんですよね。
ぼくは、震災以降
「こういう人に知り合えてよかったな」
という人の数が、ものすごく増えました。
「健全な好奇心」の対象になる人に
たくさん会えたんです。
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大野 |
この春に出た糸井さんの特集号の
「BRUTUS」を見て「ほう!」と思ったのは、
糸井さんは「お金はあとからついてくる」と
この密着特集の中で、
おっしゃってる場面があるんですね。
「信用」というのは、
お金で買えないんだなぁって。
それだけはいくらお金を出しても
買うことはできない。
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糸井 |
広告屋だったぼくが言ってるんですから、
そこは確かですよ。
骨格があって、肉付けすれば
マリリンモンローでも誰でも、
人形を作ることができるんです。
「ほら、できますよ」とやってみせると
感心はされるかもしれないけど、
信用されないんです。
そんなことじゃとっても無理。
やっぱり、つきあったり見てきた時間が大事です。
悪いことをしてきた、と言える勇気も必要です。
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大野 |
悪いことをしてきた、という部分は
人が生きていくのに不可欠なもので、
必要以上に隠したり過敏になったり
しなくてもいいんじゃないかと思うんです、最近。
誰だって、思い出しただけで
赤面するような恥ずかしいことや、
人を裏切ったり、裏切られたと思う
自分に直面したりする。
悪いことをしてきた経験なんて、山ほどしている。
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糸井 |
自分の中でバツの悪いことは、
ぼくにはあります。
じつは、それはぼくの
「健全なる好奇心」の中に含まれてるんですよ。
悪いことしたな、という事実を
好奇心で思い出す。
だましたことあります、逃げたことあります、
裏切ったことあります。
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大野 |
それは、生きてれば当然ありますよね。
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糸井 |
だけど、自分の脳ってあんがい
それをないことにするんですよね。
しょっちゅう忘れていかないといけない。
大野さんがさっき「後ろめたい」と
おっしゃったのも同じことでしょう。
好きなんですよね、
自分が間違ってたことを発見するのが。
趣味、みたいなものなのかなぁ(笑)。
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大野 |
たったひとりになった時間に、
何をどう思ってるか、ということにも
つながっていきますよね。
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糸井 |
ひとりになるとまず俺は寝ちゃうけど(笑)。
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大野 |
(笑)ひとりになってもやることって、
その人の「趣味」だと思います。
「趣味」についても、病室でいっぱい考えました。
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糸井 |
そうだろうね、時間との闘いというような
ところがあるからね。
趣味といえば、
人は誰でも好きなものがありますよ。
それは、おしゃべりです。
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大野 |
うん。
コミュニケーションですね。
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糸井 |
「酒」とか「飲みに」とか「お茶」とか
言ってるのも、
あれは「おしゃべり」でしょ?
釣りもある意味では、
魚とのおしゃべりに似ています。
だから、なんかね‥‥全部おしゃべり!
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大野 |
全部おしゃべり!
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糸井 |
おしゃべりをさせとけば、
人はけっこう機嫌がいいと思います。
おしゃべりの種を得ることが
生活であり、経験である。
そういうことがぼくはいま、仕事ですから
たのしいですよ。
今日は難病の人に会ったよ、すごいよ、
難病なんだよ、おもしろかったよ。
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大野 |
はい。
いやぁなんだか、わたしもすごく、
おもしろかったです。
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糸井 |
いやぁ、とりとめのないままに。
いろんなこと、まだまだ言い足りない気持ち。
今日お会いできて、
ほんとうにおもしろかったです。
改めて言いますが、
『困ってるひと』は
「一家に一冊」と思ってるんですよ。
実用として使えると思います。
今日はありがとうございました。
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大野 |
ほんとうに長いおしゃべりに
おつきあいいただいて、
どうもありがとうございました。 |
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(おしまい) |