第7回
「お名前は?」「堀江貴文です」
糸井
あのぅ、今日は「書くこと」についての話を
なるべくしようと思ったんだけど、
まぁ、これでも別にかまわないんだけど‥‥。
田中
すいません。
燃え殻
すいません。
糸井
ひとつ、ご自身のやっている「書くこと」が、
上手になったり、下手になったり、
嫌いになったり、好きになったり、
そういう変化みたいなものって、ありますか?
古賀
僕は去年、会社をつくったんです。
そうしたら、
若い人たちの書く文章をチェックする仕事が、
だんだん増えてきたんですね。
糸井
なるほど。
古賀
すると、
自分に対するハードルも上がったのか、
自分で書いた文章が
嫌で嫌でしょうがないんです、今。
糸井
そうなんですか。
古賀
とくに、本1冊ぶんくらいの分量、
だいたい10万字とか12万字くらいの感覚で
ふだん書いてますので、
「今回1000文字でお願いします」
みたいな短い依頼が来ると、
自分自身、あまり納得いくのが書けなくて。
せめて5万字書かせてくれ、みたいな‥‥。
永田
「せめて5万字」って(笑)。
古賀
それくらい、短いのに苦労してます。最近。
だから、泰延さんも燃え殻さんも、
ツイッターが、おもしろいじゃないですか。
それがもう、悔しくて、悔しくて。
田中
僕は、古賀さんのツイートに関して言うと、
何かつぶやかれるたびに、
あ、今日も誠実やなあ‥‥って感じがして、
すごく好きなんですけど(笑)。
古賀
僕には
140文字でおもしろいことを書けないです。
「1万字、2万字ください」になっちゃう。
糸井
この人たちは、特別なんですよ。ある意味。
田中
でも今回、『小ネタの恩返し。』の解説を
書かせていただくにあたっては、
じつは、僕‥‥ものすごい悩んだんです。
いつもの映画評では、
ダラダラ「1万字」とか書いてるんですが、
本に印刷されるわけだから、
いつもとは違うことをやりたいな、と‥‥。
糸井
ほう。
田中
思いまして、放っといたら、
原稿用紙20枚や25枚は書いてしまう自分が
「5枚でキメよう」と決めたんです。
糸井
なるほど。
田中
さらに「起承転結がメッチャ厳密」とか、
「文章の中に対句をつくる」とか、
そういう、
レトリカルな部分も入れて書こう‥‥と。
糸井
ひえー、そんな重石を課してたんだ。
田中
何しろ、生まれてはじめて
書籍に自分の名前が印刷されるわけなので、
きちんとしたものを納品したいと思って。
糸井
もう、本当に、ありがとうございます。
永田
たしか、いちばん先に書きあげてきたのは、
燃え殻さんでしたよね
糸井
顔つきがいつもの原稿でしたよね、まさに。
どんなことを思って書いたんですか、あれ。
燃え殻
僕、糸井さんから「解説、書かない?」って
誘ってもらったとき、
「ああ、好きなように書こう」と思いました。
糸井
うん、それでいいと思う。
燃え殻
だから、泰延さんとは逆かもしれないけど、
もう、一気にダーッと、
ただ思ったことを書いちゃったんですよね。
きっと永田さんとかは手慣れてるだろうし、
古賀さんはプロだし、
泰延さんは「僕の世間の物差し」ですから、
「自分自身が、いちばん、
どこに着地するかわかんないこと書くな」
と思ったんです。
糸井
うん。
燃え殻
でも、書き終わったときには、
「あ、僕、いいのが書けた」と思っちゃって。
糸井
実際、すごくよかったですよ。
燃え殻
「もしかしたら、いままで
いちばんよく書けたちゃったかもしれない」
とかって思って、
「糸井さんに褒められちゃうんじゃねぇの?」
とまで思いました。
会場
(笑)
燃え殻
そしたら、糸井さんが、「いいね」みたいな。
永田
あれは、糸井的には、けっこういい褒めかた。
燃え殻
あ、そうなんですか? よかったぁ(笑)。
なにしろ、あの原稿のなかで
「解説」とか「あとがき」にあたるのって
最後の1~2行だけだったから、
読んでくれた知り合いにも
「この原稿は解説としては無理っていうか、
‥‥ダメなんじゃないの?」
みたいなことを、言われていたんです。
糸井
いやいや、そんなことない。
もう、これだよっていう解説文でした。
田中
僕は、永田さんの文章に、
ちょっと、びっくりしちゃいましたね。
ここまでフリーな、
グルーヴィな原稿を書く人なんだって。
糸井
永田さんは、アレですよ。
文章を書ければ、楽しい人なんですよ。
永田
唯一、僕だけが身内なので、
ちゃんとした「解説」「あとがき」を
書かなきゃなと思ってました。
田中
うん、きちとしてるし、フリーだった。
永田
たぶん、最初に上がってたのが
燃え殻さんの、
おそろしくフリーな原稿だったから(笑)、
押さえるところは押さえようと。
糸井
それぞれの人に質問なんですけど、
書くことって、
先に頭にあって出てくるんですか?
古賀
僕は完全に「指が先」です。
糸井
指が書いてる。
古賀
感覚的には、まったく、そうですね。
「あ、そっち行くんだ?」みたいな。
糸井
古賀さんの最近の本で『ミライの授業』、
あれは名著だと思いますが、
著者は「瀧本哲史さん」なわけですよね。
古賀
ええ。
糸井
で、ライティングが古賀さんなんです。
でも、あの仕事の場合、
古賀さんは、もう瀧本さんご本人に
成り代わるくらいになってますよね。
古賀
あ、それは本当に、そんな感じです。
重松清さんに教えてもらったやり方を
真似してるだけなんですけど、
パソコンの壁紙とかに、
その人の顔の写真を貼っておくんです。
糸井
へえ。
古賀
で、「いま、この人がしゃべってるんだ」
ということを、
映像として意識しながら書いてます。
田中
そんなやり方があるんですか。
古賀
そうやって書いていると、
だんだん、
意識や口調がその人に近づいていきます。
堀江貴文さんの本を書いていたときは、
徹夜明けのマッサージ屋で
店員さんに「お名前は?」と聞かれたときに
「堀江貴文です」って‥‥。
田中
ほんまかいな!(笑)
糸井
それくらい、入り込んじゃうんだ。
田中
じゃ『嫌われる勇気。』のときは、
マッサージ屋で、「アドラーです」と?
古賀
さすがにアドラーとかはないですけど、
外国人だし(笑)。
でも、そのときそのときで、
その人になっちゃってますね、完全に。
<つづきます>
2016-12-28-WED
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN