『人間は何を食べてきたか』は
誰が観るのか?
あ、オレか。
小山薫堂さんと、軽めに食を語る。

第2回 失敗というよりは
   良い見本を見せてもらいました

 
  (小山薫堂さんプロフィール)

小山 失敗ですか?(笑)
失敗は…そうですね、
失敗というよりも、
良い見本を見せてもらったっていう。
糸井 うまくやってる人(笑)。
小山 ええ、うまくやってる人。
その方は不慮の事故で亡くなってしまったんですけど
かなり、影響を受けたんですね。
例えばワインを、
良いワインを飲むということの意味とか。
糸井 うんうん。
小山 それまでは、
まだ若かったっていうのもあるんですけど、
ぼくには、1本3万円のワインを飲むなんて、
考えられないわけですよね。
「1本3万円!?」って。
「この人、頭おかしいんじゃないの?」

って思ってたんですけど、
いざ、その世界を知ってしまうと、
非常にそれが…。
糸井 納得のいく(笑)。
小山 ええ。納得のいく。
糸井 1本3万円のワインに、
インパクトを受けたときは、
まだ学生だったんですか?
小山 もう学生ではなかったですね。
学生から、もうちょっと経ったぐらいですね。
それまでは
サントリー・マテウス・ロゼ
※註1)、1,350円」
とか、そういうものが、ワインなんだと。
ワインというだけでもう、
ハイカラな感じがあって。


※註1 サントリー・マテウス・ロゼ
1942年より販売されている
ポルトガル産のロゼワイン。
ほのかに甘い口当たりで、
軽く炭酸を含んでいるのが特徴。
ちなみに現在は750mlで950円と
当時よりも安くなってたりもする。
糸井 うんうん、悪くないぞ、みたいな。
小山 ええ。だったんですけど。
糸井 それがもう、
今まで飲んでいた物が
これはワインじゃないとさえ
思っちゃったりするわけだ。
それは、ショックですよね。
小山 ええ。
糸井 価値観、変わっちゃいますよね。
小山 そうですね。
糸井 そこで、考え続けるのが嫌だと思った人は、
その「デートな世界」から降りてしまうわけですよね。
ここ、いま女性にこうやって囲まれてるから(※註2)
言いにくいけども、
めんどくさいデートのノウハウなんか捨てて、
一気に風俗に行って帰って来るみたいな。


※註2 女性にこうやって囲まれてるから…
アルバイトも含めて
東京糸井重里事務所で働く、男女比率は
女子12名に対して男子が7名と
圧倒的に女子が多い。
この対談当日はテープ起こし担当も含め
4名の女性スタッフが同席していたのでした。
「一気に風俗に行って」という発言の前には、
さすがのdarlingでも、いったん間があった。
小山 あははっ!(笑)
糸井 そもそも、俺は何がしたかったんだ?!
って思ったら…。
小山 ええ、なるほど。
糸井 そういう一派もいる、と。
デートの世界の段取りじみたところをショートカットして、
したいことだけをするっていう方に行く「硬派」も、ね。
いるんですよ、やっぱり(笑)。
若い男にとって、かなり大きな分岐点だと思う。
そして、若かりし小山さんとしては
「硬派」じゃないほうの、デートの世界を選んだ。
ゲーム性の方に・・・。
小山 ええ、ゲーム性ですよね。
キャッチ&リリースみたいなもんですよ(笑)。
糸井 うん。要するに、
俺は漁師じゃないと。
小山 ええ、僕もキャッチ&リリースじゃないけど、
食べなくてもいいんですよ、ほんと。
その、相手の心に入ったって思ったら、
僕はそれで満足できるんですよ。
糸井 はいはい。
小山 そういう意味では、
もしかしたら、
恋愛を、恋愛体質でありながら
恋愛体質じゃないところが、
自分でも、あると思うんですけど。
もう相手が自分のことを好きになった瞬間に、
僕はもうこの人のことはどうでもいいやって、
よく思うタイプなんですよ。

生活力そのものの
プレゼンテーションですよね
糸井 見事にキャッチ&リリースですねー。
いま聞いてて、
すごく良くわかったんだけど、
デートっていうものの分析から
見事だと思うんだけど、
ドライブっていうのは、
自分の持っている世界の距離感っていうか、
2次元的な能力を示しますよね。
小山 2次元的な(笑)。ええ。
糸井 つまり、どこかに行こうと思えば行けるっていう、
「このエリアの中で俺は生きてるんだぜっ!」
っていうプレゼンテーションですよね。
小山 平面な感じが。
糸井 そう、平面な。
そこから、
山に登ろうって思って初めて、
そこで俺の行動エリアは、
つまりローマ帝国なのか、
モナコなのかってことが
わかるわけですね。
で、映画を観るっていうことは、
「俺の内面世界」が
プレゼンテーションされるわけですよ。
小山 (笑)なるほど。
糸井 「俺はこういう感情を持っているから、
 お前との関係は、
 エモーションの部分で、このように展開されるであろう」
っていうプレゼンテーションで。
小山 うん、なるほど(笑)。
糸井 で、食の部分っていうのが、
なぜ、クライマックスになるかっていうと、
「俺が獲って食えるものはこれだ」
「おまえに、この獲物を分けてやるんだ!」
っていうことだから、
生活力そのもののプレゼンテーションですよね。
小山 あぁ…。
糸井 で、そこに、あの、臨時ではあるけれども、
召使いが、
「いかがいたしましょう?」って来てくれたり、
料理人がついてくれるわけです。
「俺の力」を表現するのには、
前の方の空間処理だとか、
エモーションだとかはともかく、なんで。
オスの力量見れるのは食いもんですよね(笑)。

小山 あーっ!、そうですね。
その、お店のスタッフとの
やりとりの妙ってありますよね。
糸井 あそこ、上下関係が見えちゃうんですよね(笑)。
店で、客がペコペコしてたら、
それはたまたまそのエリアに迷い込んできた、
ハイエナのような食い物の取り方(※註3)ですよね。

※註3 ハイエナのような食い物の取り方
ハイエナはライオンの
食べ残しをあさることでも有名。
しかも、ライオンが食べ終わるまで
「じっと」待ってたりもする。
小山 はい。
糸井 理想は、ライオンのように食い物を獲る(※註4)っていう、
その、生活力を見せる場面なんだ。
「強いわ」だし「頼りになるわ」だ、と。
そこに!ベッドという・・・
性を含む結婚の儀式が、成立する(笑)。

※註4 ライオンのように食い物を獲る
ライオンは百獣の王だけでなく、
ハイエナを追っ払って
獲物を食べることでも有名。
小山 成立する(笑)。
糸井 それを、若い人だとかデートの達人は、
色々ちりばめながら、
やってるんでしょうね。
「食い物」がクライマックスだって
ところでもう、今日の結論ですよね。
小山 でも、この「人間は何を食べてきたか」を
観たらもう全てが、
「ごめんなさい、
 もう、申し訳ありませんでした」
って言いたくなる(笑)。
僕の考えは間違ってましたって(笑)。
糸井 「いままで自分が言ってたようなことは、
 バーチャルだぞっ!」
って話でしょ?
小山 ええ、
ほんとそうですね。
糸井 例えば、グランドの上で戦争ゴッコをしてる
サッカーの選手と、
現実の戦争をやっている軍人が出会ったような(笑)。
サバイバル・ゲームで、
エアガンをパンパン撃ってるやつだとか。(笑)。
でも、サバイバル・ゲームの中にも、
やっぱり本能のしっぽというか、
生き物性のしっぽがあるような気がするんで、
それはそれで間違ってはいない、と思うんですよね。
命懸けてる職人さんとかを
見ちゃうと、やっぱり
見入っちゃうじゃないですか。
小山 はい、そうですよね。

俺、何のために食べてんだろうなぁ
糸井 この「人間は何を食べてきたか」という
ビデオを見た時、嫌じゃなかったですか?
小山 僕は、最初に観たときに、
むしろ、放送作家なんで、
テレビとしての
作りの方が気になったんですよ、
「うわっ、あおりも何にもなく平坦な
 この、作り」(笑)とか
「なんで、いきなり
 この何とか地方って
 いうとこから入るんだろうなぁ」
とか。
糸井 説明抜きだもんね。
小山 当たり前のように入るじゃないですか。
リマがどうのこうのとか。
糸井 うん、うん。
小山 テロップなんかも
「中途半端な手書きだなぁー」とか。
そういうほうに、僕は最初行ったんですけど。
その、何て言うんでしょうね、
結論は決して、深くは言わないけれども、
考えるきっかけは
与えてくれる作りだなと思ったんですよ。

僕はよく言うんですけども
今のテレビってもう、
視聴者に対して甘すぎるというか…。
糸井 「この1行だけは憶えといてね」、
っていう1行、強調して書きますよね。
小山 ええ。(笑)とか、
とにかく手取り足取りぜんぶ、
やってくれるっていうのが
今のテレビだとすると。
これはどっちかっていうと、
ほったらかしにしといて、
「お父さんのやることを見ていなさい
 お前はいま何を感じたんだ?」

みたいな感じのつくりになってるんで、
それが、いいなっていうか、
こういう番組って大事だなっていう気が、
先ず、そっちの方が先に感じたんですよ。
で、そのあとに、
あの、何でしょうね、
もう、ごめんなさいっていう、
「俺、何のために食べてんだろうなぁ」
っていう、
ちょっと哲学的なほうにいきますよね。
糸井 あの、嫌だっていう思いと、
もっと見たいって思いが、
ずーっと続きますよね。
小山 ええ。
糸井 小山さんが「料理の鉄人」を
やっていた頃っていうのは、
知識がどんどん増えてく時期ですよね。
食の豊饒さみたいなものが、
いちばん手に入れられる場所にいて、
どんどん手に入れてく時代に、
食に対してどんなことを考えていましたか。
先ずは、のめり込んでいったんですか?
小山 そうですね、
やってくうちに、
そのときはどっちかっていうともう、
必然的に勉強しなきゃいけなかったりとか、
あと、何にもやんなくても
色んな情報が入ってくるじゃないですか。
「ここにこんな料理人がいて、
 こんな人生を送ってきて」とか。
番組やってると、
「こういうテクニックがあるんだ」
っていうのがわかるんで、
そういう環境にいたんですけど。
この「人間は何を食べてきたか」を観て
そういうことを知る前に、
「もっと大切なことがたくさんあるんだな」
という気がしましたねぇ、これは。
糸井 うんうん!
小山 だから、
食の文明の速度が
時が経つにつれてだんだん進化しているとすると、
それまで、なだらかに変化してきたものが
ここ20年とか30年の間に
急激なスピードで変化を起こしたような
気がするんですよ。
糸井 うん、そうですね。
小山 急激に変化しだした時の、
それ以降からしか、ぼくは見てないから、
根底に流れる「それ以前」っていうものが
ぜんぜん入ってないっていう・・・。
糸井 よく僕ら、冗談みたいに言うんですけど、
コレステロールの摂りすぎが問題になっているけど、
コレステロールを自由に摂れるようになったのって、
ここ30年以内なんですよね。
小山 あぁ、そうでしょうね。
糸井 それまでは、足りなかったわけで。
そのコレステロール(※註5)が美味しく感じるから
みんな摂るわけですよね。

※註5 コレステロールとテレビ番組
ちなみに「発掘!あるある大事典」において
コレステロールが取り上げられた回数は
24回にも及ぶ。
そのほとんどが「この●●(食品)が
コレステロールの低下に効く」という内容。
小山 ええ。
糸井 コレステロールって必要だし。
それが足りないからって、
みんながガツガツ摂って、
一気にこう、肥満だとか
動脈硬化だとかになってるわけで。
そういう豊かさゆえの問題が起こってきたのは、
ここ、たった30年だっていうのは、確かなんです。

(つづきます。)

ジブリ学術ライブラリー 人間は何を食べてきたか』
「腰を据えて食べることを考える。
 NHKのドキュメンタリー番組が、人々を動かした。」

2003-02-24-MON


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