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(小山薫堂さんプロフィール) |
糸井 |
今、食のデータの収集っていうのは、
食いに行くことと、
書かれてあるものを調べるのと
両方やってると思うんですけど、
そうやって知識が増えた上で、
食いに行った時、
びっくりすることって、
増えていくんですか?
それとも減っていくんですか? |
小山 |
増えていくのかも知れないですね。
今まではまったく気づかなかったけれども、
知識を得たことによって、
それが驚きになるってことがあるじゃないですか。
例えばこのうな重(※註1)を、
何も知らなかった頃には、
「うな重、うまいな!」しかなかったのが、
うなぎの種類を知り、
さばき方を知り焼き方を知ることによって、
「おっ、ここはこれやってんだ」
とか、そういう、
気づくチャンスがやっぱり増えますよね。
そういう意味では増えてるんだと思います。
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※註1 このうな重を
この日の夕ご飯は、
お客さま向けに「うな重」をチョイスした
ほぼ日スタッフであった。 |
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糸井 |
それはスポーツ観戦なんかでも、
まったく同じですよね。 |
小山 |
あぁ、そうですね。 |
糸井 |
同時に、その驚きが増えてくんだけど、
からだ全体が震えるような感動っていうのは
やっぱり、減りますよね。 |
小山 |
あぁ!うん。 |
糸井 |
もしかしたら総量としては、
同じなんじゃないか?と思うんです。
性欲に例えたらもっとそうだけど、
「やった!」
ってだけで嬉しい時期があって、
だんだんそうじゃなくなりますよね。
どっちがいいんだろう?
何もしなかった方がいいんじゃないか?
って考えてしまうような。 |
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鑑賞力がないと、感動しない |
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小山 |
(笑)うん。なるほど。
僕、若い人を食べに連れて行くのが好きなんでけど。
「初めて食べるものを食べる人」を見るのが好きなんです。
スキーに行くときに、
初心者のスキーヤー連れて
上に行くの楽しいじゃないですか。
あの要領で、
初めてフグ食べさせるとか、
初めてしゃぶしゃぶを食べさせるとか。
そういうことが好きなんです。
うちのラジオの番組(※註2)のADの女の子が、
肉が大好きな25才なんですけど、
しゃぶしゃぶをまだ食べたことがないらしいんです。
一度、食べてみたいって言うから連れてったんですよ。
で、こうやって肉をつまんで、
こうやって食べるんだよって教えたら、
ものすごく嬉しそうな顔をして、
食べるわけですよね(笑)。
それを見ると、なんか幸せな気分になるんです。
自分が忘れていた何かを、
そこに、発見できたみたいな。
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※註2 うちのラジオの番組
現在、小山さんが出演されているラジオ番組は
FMヨコハマ(土)9:00〜11:00オンエアの
「Future Scape」
J-WAVE(土)18:00〜18:54オンエアの
「AJINOMOTO 6pm」の2つ。
「土曜日の声は小山薫堂に限る」という人も
いるとか、いないとか。 |
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糸井 |
それはもう、ポルノですね。 |
小山 |
(笑)いいですよ。 |
糸井 |
その気持ちは、僕にもわかるわ。
僕も同じようなことしてるんだけど、
一つ気づいたことはやっぱり、
「相手に鑑賞力がないと、感動しない」
っていうことなんです。
よく言うんですけどね、
川久保玲(※註3)が作ったものを、
田舎のおふくろのおみやげに持ってっても、
困るじゃないですか。
そのADの彼女のしゃぶしゃぶでも
「しゃぶしゃぶを食べた」って楽しみだけであって
こっちは
「こないだの肉はどうだ?とか、
今度の肉はこんなこんな肉だ」とか
比べてた上で
「すげーっ!」て言ったときに、
相手はただ、
「旨いっすよね」言われても
その「旨い」に心がこもってないっていうか。
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※註3 川久保玲
69年、"コムデギャルソン"の名で
婦人服の製造販売を開始。
名前の意味は"少年のように"。73年、会社設立。
服飾の既成概念を崩した非構築的で斬新な表現手法は、
多くの外国人デザイナーにも大きな影響を与えた。
洋の内外を問わず、根強い人気を誇る。
darlingの着ている洋服のほとんどは
このブランドであることが多い。。 |
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小山 |
(笑)それ、頭きますよね。 |
糸井 |
うん。頭にくる!
けど、しょうがないですよね。
でも、俺は、どっかに
「あっ!こないだのと違う!」
口先じゃなく言える才能があるやつが
いるんじゃないかと思うんです。 |
小山 |
ええ。 |
糸井 |
打ち震える才能があるやつが、
いるんじゃないかって。 |
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自前で食ってないとダメですね |
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小山 |
そうですね。
若いテレビADの、男の子だったんですけど、
「肉が好きだ!焼き肉が好きだ!」
って言うから、
虎の穴(※註4)に連れてって。
料理長に、
「もうとびっきりのヤツ、出してくれ!」
ってお願いしたら、
「わかりましたーっ!」
って、料理長も張りきって肉を
出してきたわけですよ。
で、食べたら、
「うわっ! うめーっ!」
って感動してて
そいつをパッて見たら、
普通に食べてるんですよ。
「ちょっと待ってくれよ、美味しくないの?」
って尋ねても
「いや、大丈夫です」
って言うわけですよ。
「大丈夫じゃなくって、美味しくないの?」
って言ったら、
「いやっ、あー、大丈夫ですから」
って、言うんですよ。
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※註4 虎の穴
とにかくうまい焼肉屋さん。
中目黒に本店がある。
もちろん、タイガーマスクとは
一切関係がない。 |
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糸井 |
僕の80年代は
その連続でしたね。 |
小山 |
そうですか(笑)。
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糸井 |
80年代の僕はいちばん荒んでた時期で、
ゲーム性の強い暮らしをしてましたから。
若いヤツを、
5万円コースのフグとか、連れていって
ただ、ただ世間話してるんですよ。
「俺も男だマドロス(※註5)だ、
そんなこと俺ぁ、おかまいなしだぜ」
っていうポーズをとっていたけど、
ちょっとさみしかった。
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※註5 俺も男だマドロスだ
ぼくらスタッフはピンとこないのですが
1950年代後半〜1960年代前半の日活映画は
「波止場」もの「マドロス」ものが
全盛だったようです。
石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎らが
マドロスにふんし、いろんな映画に
出ていたようです。
まぁ、「男を売った」ってことであります。 |
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小山 |
何か言ってくれよ、みたいな(笑)。 |
糸井 |
その頃に連れてったメンバーの中に
みうらじゅん(※註6)とかがいたんです。
後に稼ぎのよくなったみうらが、
「糸井さんにフグをおごらせてください」って。
かわいいとこあるわけですね。
連れていってもらったんだけど、
・・・・・(笑)。ま、その・・・・。
「お前、ぜんぜんわかってないな」
ってほんとは言いたいんだけど、
言えないじゃないですか?
いいやつだし、みうら。
…そっか、やっぱ小山さんもやってんだ、
そういうの。
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小山 |
はい。 |
糸井 |
「しゃぶしゃぶ」って行為にもう喜んでる人って、
次のときにもっと美味しい店に行っても、
おんなじように喜ぶだろうし、
その微妙な差をわかるのって
自前で食ってないとダメですね。 |
小山 |
そうですねー。 |
糸井 |
おごられてても身につかない。 |
小山 |
うん、そうかも知れないですね。 |
糸井 |
小山さんだったら、コストとして、
ぜんぶ自分のお金で食いに行くじゃないですか。
社の何かの経費とかじゃなくて。 |
小山 |
ええ。 |
糸井 |
おごられたりってことでもなく。
だから、基準になる何かっていうのが、
贋作を見分ける方法みたいに、
本物を最初に1回だけ食っておくって
いうようなことってありますよね。 |
小山 |
うーん。(深くうなずく) |
糸井 |
小山さんが研究したり
面白がってるゲームを
ぶち壊しにする向こう側の世界っていうのが
あるのと同じように、
素材がね、どうしようもなく旨いとき、
料理を飛び越えて生で食えちゃう、みたいなものに、
僕はまた興味を持っちゃってるんですね。 |
小山 |
うん。 |
糸井 |
それが、農業まわりですよ。
そこがあったので、
ますます、自分をかき立てる
何かになってるんじゃないかなぁと。思うんです。
畑に今なっているものを
その場で取ってきて食べるっていうことの前に、
料理は何ができるか?みたいな。 |
小山 |
うんうんうん。深いですね、それは。 |
糸井 |
深いんですよ〜〜。
(つづきます。)
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