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(小山薫堂さんプロフィール) |
糸井 |
要するに、誰でもわかるものの中に、
高水準っていうものがあるってことがわかって
それで僕の基準ができたんですね。
それとね、とある有名な会社の経営者が
鼻かむときに内ポケットから、
ちり紙を出してたんですよ。
それが、ティッシュペーパーじゃなくて、
内ポケットにすっぽりと、
2つ折りしたちり紙が入ってるんですよ。
これね、粉にもならないし、
鼻かみ具合もいいじゃないですか。 |
小山 |
ふーん(笑)。 |
糸井 |
ちり紙に代表される感覚と、
重役用の食堂でのブリの塩焼き、っていうのが、
どんどんお金使えるようになったときに、
そこにいくんだなっていう、
基準値になったんですよ。 |
小山 |
あー、なるほど。 |
糸井 |
ところで、事務所にシェフを雇うなんていうのは
実際、やってみてどうなんですか? |
小山 |
ご飯がね、美味しいんですよね。
ちゃんと土鍋でご飯を炊いて。 |
糸井 |
それは、そのシェフと小山さんの
深い愛情、とかじゃないの?(笑) |
小山 |
ぜんっぜんないです(笑)。
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糸井 |
凄いですよね。
モーツァルトですよね、要するに(笑)。
宮廷音楽家じゃないですか。 |
小山 |
ええ。 |
糸井 |
何人でその食事を食べるんですか? |
小山 |
シェフ入れて4人で食べるんですよ。 |
糸井 |
4人っていうのは、最低限かもしんないね。 |
小山 |
ええ。 |
糸井 |
ひとりだとイヤなもんだよ。 |
小山 |
ひとりだと、作ってもらうほうもイヤですもんね。 |
糸井 |
いいバランスだねぇ(笑)。
最初、1対1かと思っちゃった。 |
小山 |
(笑)1対1じゃちょっと、
さすがにね、悪いですよ。 |
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箸を使うための食事 |
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糸井 |
今ね、ものすごい裕福なんですよ。
金のかけかたの問題じゃなくて、
たまたま食材と知りあっちゃったもんだから、
米はここの米だっ!
野菜はこれだっ!(※註1)みたいな。
良い日、悪い日あるんですけど、
すっごい地味な、さっきのブリの照焼きの世界が、
家で実現できるようになったんですよね。
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小山 |
へぇー! |
糸井 |
だから、外ですっごい美味しいものって
いうのじゃない限りは、
僕にとってのご馳走って、
午前中や昼前に家で食べるその食事ですね。
極端に言うと、
おかずで3品ぐらいで、
きんぴらがあって干物があって、
みたいなもんなんだけど、
これは、豊かですね。 |
小山 |
ええ。あぁ、そうですか。 |
糸井 |
うん。それは、かみさんも嗜好が同じだったから、
そこに行ったんですけど、
そこで、誰に見られるわけでも、
見栄を張るわけでもないけど、
ほんとうに美味いものっていうのが、
1食あるだけで、あとが我慢できるんですよ。 |
小山 |
あー!なるほどね。
僕ね、すごい上等な箸を買ったんですよ。 |
糸井 |
あー! |
小山 |
それは、15,000円の箸なんですけど。 |
糸井 |
うんうんうん。 |
小山 |
もう、ほんとにこう、
手に吸い付くようで。 |
糸井 |
ああ、いいねぇ!(笑) |
小山 |
で、もう、僕は、ただ食べたいんじゃなくて、
その箸を使うために食べるってくらいの
箸なんですよ。 |
糸井 |
はぁー! |
小山 |
しかも箸なのに、
メンテナンスまでしてくれるんですよ。
これが佃島(※註2)の職人さんが作っている
ものなんですけどね。
このあいだ久しぶりに、ちょっと傷んできたんで、
持ってったら、当然タダなんですけど、
ヒュヒュヒュッてやって、
ちょっとサラダ・オイルでビューッてやったら、
もう、ピカピカの新品みたいになるんですよね。
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※註2 佃島
東京都中央区。
銀座の側にある風情のある下町。
佃煮のふるさとでもある。 |
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糸井 |
聞いてるだけで、ウットリしてくるね。 |
小山 |
(笑)15,000円は高いけれども、
15,000円っていったら、ね?
箸では高いけれども、他のものなら、
そんなに高くないじゃないですか。
で、これを買う、と。
その豊かさたるや、
本当に気持ち良いですよー。 |
糸井 |
買ったときから嬉しくて、使って嬉しいもんねぇ。 |
小山 |
使って嬉しいんですよ。
カレーうどんなんか食べてるときにも、
チュルチュルッとかってこう、
決してはね返りがないんですよ(笑)。 |
糸井 |
ほんとに!? それ、どこーっ!? |
小山 |
そこでね、店頭にいつも、
こんにゃくが置いてあるんですよ。 |
糸井 |
うんうん、「つかんでみなさい」だ。 |
小山 |
こんにゃくをつまみなさいと。
横にはすべり止め付きの箸が
つまんで比べるために置いてあるんですよ。
それでこんにゃくの角をつまむんですけど、
こういうつまみかたって、
ふつう絶対できないんですよね、
やってみるとわかるんですけど。 |
糸井 |
すっごいねぇ…。 |
小山 |
それが、その箸でやると、もう、
こんにゃくが吸い付くように、(笑)。
これはいいですよ。 |
糸井 |
教えて。真似していい? |
小山 |
どうぞ(笑)。佃島の職人さんが
作られているんです。 |
糸井 |
きっとその職人さんは
ずっと住んでるんだよね、佃島に。 |
小山 |
ええ。外から家の中が、
ぜんぶ見えるぐらいな感じのところで
売ってんですけどね。
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糸井 |
その箸は、やっぱりわざわざ、
どっかから買いに来る人がいるのかな? |
小山 |
どうでしょうね。
お客さんの口コミで結構、
増えてんじゃないですかね。
15,000円、10,000円、8,000円、
5,000円っていう値段設定があるんですけど。 |
糸井 |
いちばん良いのが欲しくなるね。 |
小山 |
いちばん良いのを。一生モンですよ、ほんと。 |
糸井 |
ねぇ。箸なくしたら怒りますよ。 |
小山 |
怒りますよ。 |
糸井 |
万年筆だと、そう思わないよね。 |
小山 |
ええ。 |
糸井 |
ね。15,000円の万年筆って、普通だもんね。 |
小山 |
普通ですよ、ほんとそうですね。
万年筆は、使っても
週に2、3回ですよね、きっと。 |
糸井 |
そうですねー。 |
小山 |
箸は、毎日、2回3回使いますからね。 |
糸井 |
そこに食の世界はあるんですね。はぁー。
それ、こけおどかしじゃないってところが
いいねー。 |
小山 |
ええ、それはいいですよ。
ほんと使いやすいですね。 |
糸井 |
それ1コ持ってるだけで、誇りですよね。 |
小山 |
誇り(笑)。ええ。 |
糸井 |
前に、たしか吉本隆明さんが文章の中で
おっしゃっていたんだけど、
コムデギャルソンのことを語るときに、
「自分が進んだ人類じゃないかっていう
表情でモデルが歩いてる」、
っていう言い方をしてて。
上手いでしょう? |
小山 |
あー、なるほど。 |
糸井 |
「進化した人類じゃないかっていう表情で、
モデルたちが闊歩する」って言い方を聞いて、
その言葉がどれだけ、自分の中の服飾史に
影響を与えたか。
値段がもっと高いものを着ても、
進んだ人類になれないときはダメですよね。 |
小山 |
うんうん。 |
糸井 |
「いいや」、って着てるものと、
誇りを持てる服と、ありますよね。 |
小山 |
あー、ありますね。 |
糸井 |
箸でもあるよね。 |
小山 |
箸、ありますね。 |
糸井 |
はぁー。という意味では、
料理食ってるときだってあるよね。
(つづきます。)
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