『人間は何を食べてきたか』は
誰が観るのか?
あ、オレか。
小山薫堂さんと、軽めに食を語る。

第7回 感激する食、のめりこむ食
 
  (小山薫堂さんプロフィール)
小山 器とかって、そういうのあるかもしんないですね。
100円ショップで買った100円の器で食べるものと
そうでないものってあると思うんです。
「M」っていう、お店があるんです。
ここは席が8席だけなんですよね。
糸井 銀座のほうにある、
おじいさんとおばあさんがされているお店?
小山 ああ、行かれたこと、あります?
糸井 行ってないんです。
以前、行こうとした日に
オレが、調子が悪くなって行けなかったんです。
小山 そこは器とかは、
相当いいの使ってるらしいんですよね。
糸井 あぁ、行きそこなってるんですよ。
やっぱり、行ったほうがいいですか?
小山 あー、そうですか。
僕も実は、何回か誘われて、
いっつもお断りっていうか、
ギリギリ、直前に誘われてしまってて
行きそこなってるんですけど、
聞いた話では、すごいんですって
で、スペインに「レスグアルド」
※註1)って、
話題のレストランがあって、
そこのシェフがこないだ…。

※註1 レスグアルド
スペインで最近、話題のレストラン。
シェフはミゲル・サンチェス・ロメラ氏。
脳内内科医師でありながら、シェフでもある、
今最も話題の料理人です。
http://www.hattori.ac.jp/news/news012.html
糸井 ショックを受けた?
小山 ええ、「M」に来られて。
糸井 はぁー。
小山 で、「レスグアルド」のシェフが来て食べたら、
5回泣いたっていうんですよ。
何皿か運ばれてきた料理の中で、
ひと皿ひと皿にものすごく、
お茶とおんなじで意味があるらしいんですね。
わびさびというか。
これにはこういう理由があって、
こういうお水を使って、こういう食材で、
だからこうしたんです。というような、
すごく理論的に作られていて。
その心を聞いたシェフが、5皿分泣いたって。
しかも通訳まで、
訳しながら泣いたっていうんですよ(笑)。
糸井 それ、膨らましてない?
小山 これがホントだって言うんですよ。
そのとき、服部幸應さん
※註2)に誘われて、
いっしょに行こうっていう電話が来たんですよ。
でも、
「ごめんなさい、今日はどうしても行けないんで」
って断ったんですよ。
そしたら、夜、携帯に留守電が入ってて。
「ああ、服部です、
 いま終わったんですけど、
 彼は5回も泣いてしまいました」
とか残ってるんですよ(笑)。
今のようなことを色々と説明してたんですけど。

※註2 服部幸應さん

「料理の鉄人」のあの人。
服部栄養専門学校校長でもある。
http://www.hattori.ac.jp/
糸井 「M」で。
小山 ええ、「M」で。
泣くっていうほど感激、
食で感激するっていうのは…。
5回泣いたっていうのを聞いて、
ちょっと「M」に行ってみたいなと思ってるんです。
糸井 魂の話ですよね。
要するに、しかけ全体っていうか、
その夫婦が作ってる世界に
入り込んじゃうらしい
んですよ。
さっきのブラジルの呪術師じゃないけど。
そういう力がものすごく、どうもあるみたいで。
小山 あぁ、なるほど。
糸井 たぶん「レスグアルド」っていうのも、
僕は本で読んだことしかないけど、
かけ離れたところに世界を構築しますよね。
だから、そういうことも含めて
「レスグアルド」なんだろうな、
とは思うんですけども。
そこまでやっても卑怯じゃないですよね。


西洋に食のお返しをする人
小山 今度、「M」の2人で
「エル・ブジ」
※註3)でフェアーをやるんですよ。
それは、向こうの人が来たときに、
かなり感動したってことがきっかけなのですが
今まで向こうで、そういう前例が
無かったらしいのに、初めて違う国、
しかも日本から呼んでフェアーをやるんです。

ぼくの知りあいに
「料理の鉄人」をずーっとやっていた
テレビのフード・コーディネーターの
女性がいるんですけど
今度、そのスペインでやる「M」のフェアに
その人が、個人でお金をスポンサードするんですよ。

※註3 エル・ブジ
料理評論家の山本益博さんに
「いままでに食べた4000回は
 エル・ブジを食べるための練習試合だった」
とまで言わせた、世界中から注目されている
レストランの一つ。
4月から10月までの
半年のみレストランを開店し、
あとの半年は、
料理の研究にあてている。
スペイン、バルセロナの近郊にある。
http://www.elbulli.com/
糸井 フッフッフッフッ…。
小山 「M」の器って、
ひとつ300万とか、そういう器なんですけど、
そういうものも、全部持っていくらしいんです。
器や鍋の運搬に保険料入れると
1,000万かかるらしいんですよ。
それに、「M」のご主人と奥さんと
スタッフ全員分と行く渡航費ぜんぶ持って
ひとりで2,000万以上負担するらしいんです。
糸井 いちフード・コーディネーターが!
小山 ええ。
どうしてそんなにまでして?
と聞いてみたんです。
するとね、
かつて、千利休が和の懐石をつくったとき、
そもそも懐石というものは、
ヨーロッパの教会における
食のシステムを持ってきたものであると、
ポルトガルとかから、料理が来たおかげで
日本では色んな料理が生まれた。
今回は、その生まれた料理を、
また、西洋にお返しする番なんだ
っていうことらしいんです。
その、食の歴史における意味のあることを、
わたしの貯金の数千万でできるんだったら、
家を買ったりするよりも、
そっちのほうが意味があることなんだ、
って言うんです。
糸井 それ、小山さんが放送作家として
作ったみたいな話だよね。
小山 いや、ほんとうに、そういう人なんですよ。
糸井 …いいねぇー!
小山 いい話なんですよ。
「へぇー!」とかって思って。
それで、そこにスポンサーを付けようとすると、
やっぱり「M」のおじさんは嫌がるわけですよね。
「そんなんじゃ、俺は行かないよ」って。
糸井 うん。うん。
小山 だから、どこもスポンサーが付くことなく、
純粋にそのフードコーディネーターの彼女が
お金を払うんですけど。
これを、彼女の人生として
形に残してあげたい
んで、
いま本を何とか作ってあげたいなぁ
って思ってるんです。
ちゃんとした、
スペイン料理と日本料理の交流みたいな
立派な本ができないものか?
みたいにちょっと思ってるんですけど、
お金がやっぱり無いんで、
今はちょっと、どうなるかは
わからないという感じなんですよ。
糸井 うわぁー…それは、すっごいねぇ…。
小山 すごい話ですよね。
糸井 詩人になりたかった人としては、
それが詩ですよね。
そういうことは、あるんだよね。
小山 ええ。
僕はそこまで自分のお金を使えないっていうか。
偉いなと思いますけどね。
糸井 家を建てるんじゃなくて、
これだ!っていう
そこの思い切りがいいよね。
小山 だから、「宝石を買うよりも、
こっちのほうが輝いてるんだ」って
感じがしますよね。


(つづきます。)

ジブリ学術ライブラリー 人間は何を食べてきたか』
「腰を据えて食べることを考える。
 NHKのドキュメンタリー番組が、人々を動かした。」

2003-03-07-FRI


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