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(小山薫堂さんプロフィール) |
小山 |
器とかって、そういうのあるかもしんないですね。
100円ショップで買った100円の器で食べるものと
そうでないものってあると思うんです。
「M」っていう、お店があるんです。
ここは席が8席だけなんですよね。 |
糸井 |
銀座のほうにある、
おじいさんとおばあさんがされているお店? |
小山 |
ああ、行かれたこと、あります? |
糸井 |
行ってないんです。
以前、行こうとした日に
オレが、調子が悪くなって行けなかったんです。 |
小山 |
そこは器とかは、
相当いいの使ってるらしいんですよね。 |
糸井 |
あぁ、行きそこなってるんですよ。
やっぱり、行ったほうがいいですか? |
小山 |
あー、そうですか。
僕も実は、何回か誘われて、
いっつもお断りっていうか、
ギリギリ、直前に誘われてしまってて
行きそこなってるんですけど、
聞いた話では、すごいんですって。
で、スペインに「レスグアルド」(※註1)って、
話題のレストランがあって、
そこのシェフがこないだ…。
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糸井 |
ショックを受けた? |
小山 |
ええ、「M」に来られて。 |
糸井 |
はぁー。 |
小山 |
で、「レスグアルド」のシェフが来て食べたら、
5回泣いたっていうんですよ。
何皿か運ばれてきた料理の中で、
ひと皿ひと皿にものすごく、
お茶とおんなじで意味があるらしいんですね。
わびさびというか。
これにはこういう理由があって、
こういうお水を使って、こういう食材で、
だからこうしたんです。というような、
すごく理論的に作られていて。
その心を聞いたシェフが、5皿分泣いたって。
しかも通訳まで、
訳しながら泣いたっていうんですよ(笑)。 |
糸井 |
それ、膨らましてない? |
小山 |
これがホントだって言うんですよ。
そのとき、服部幸應さん(※註2)に誘われて、
いっしょに行こうっていう電話が来たんですよ。
でも、
「ごめんなさい、今日はどうしても行けないんで」
って断ったんですよ。
そしたら、夜、携帯に留守電が入ってて。
「ああ、服部です、
いま終わったんですけど、
彼は5回も泣いてしまいました」
とか残ってるんですよ(笑)。
今のようなことを色々と説明してたんですけど。
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糸井 |
「M」で。 |
小山 |
ええ、「M」で。
泣くっていうほど感激、
食で感激するっていうのは…。
5回泣いたっていうのを聞いて、
ちょっと「M」に行ってみたいなと思ってるんです。 |
糸井 |
魂の話ですよね。
要するに、しかけ全体っていうか、
その夫婦が作ってる世界に
入り込んじゃうらしいんですよ。
さっきのブラジルの呪術師じゃないけど。
そういう力がものすごく、どうもあるみたいで。 |
小山 |
あぁ、なるほど。 |
糸井 |
たぶん「レスグアルド」っていうのも、
僕は本で読んだことしかないけど、
かけ離れたところに世界を構築しますよね。
だから、そういうことも含めて
「レスグアルド」なんだろうな、
とは思うんですけども。
そこまでやっても卑怯じゃないですよね。
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西洋に食のお返しをする人 |
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小山 |
今度、「M」の2人で
「エル・ブジ」(※註3)でフェアーをやるんですよ。
それは、向こうの人が来たときに、
かなり感動したってことがきっかけなのですが
今まで向こうで、そういう前例が
無かったらしいのに、初めて違う国、
しかも日本から呼んでフェアーをやるんです。
ぼくの知りあいに
「料理の鉄人」をずーっとやっていた
テレビのフード・コーディネーターの
女性がいるんですけど
今度、そのスペインでやる「M」のフェアに
その人が、個人でお金をスポンサードするんですよ。
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※註3 エル・ブジ
料理評論家の山本益博さんに
「いままでに食べた4000回は
エル・ブジを食べるための練習試合だった」
とまで言わせた、世界中から注目されている
レストランの一つ。
4月から10月までの半年のみレストランを開店し、
あとの半年は、料理の研究にあてている。
スペイン、バルセロナの近郊にある。
http://www.elbulli.com/ |
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糸井 |
フッフッフッフッ…。 |
小山 |
「M」の器って、
ひとつ300万とか、そういう器なんですけど、
そういうものも、全部持っていくらしいんです。
器や鍋の運搬に保険料入れると
1,000万かかるらしいんですよ。
それに、「M」のご主人と奥さんと
スタッフ全員分と行く渡航費ぜんぶ持って
ひとりで2,000万以上負担するらしいんです。 |
糸井 |
いちフード・コーディネーターが! |
小山 |
ええ。
どうしてそんなにまでして?
と聞いてみたんです。
するとね、
かつて、千利休が和の懐石をつくったとき、
そもそも懐石というものは、
ヨーロッパの教会における
食のシステムを持ってきたものであると、
ポルトガルとかから、料理が来たおかげで
日本では色んな料理が生まれた。
今回は、その生まれた料理を、
また、西洋にお返しする番なんだ。
っていうことらしいんです。
その、食の歴史における意味のあることを、
わたしの貯金の数千万でできるんだったら、
家を買ったりするよりも、
そっちのほうが意味があることなんだ、
って言うんです。 |
糸井 |
それ、小山さんが放送作家として
作ったみたいな話だよね。 |
小山 |
いや、ほんとうに、そういう人なんですよ。 |
糸井 |
…いいねぇー! |
小山 |
いい話なんですよ。
「へぇー!」とかって思って。
それで、そこにスポンサーを付けようとすると、
やっぱり「M」のおじさんは嫌がるわけですよね。
「そんなんじゃ、俺は行かないよ」って。 |
糸井 |
うん。うん。 |
小山 |
だから、どこもスポンサーが付くことなく、
純粋にそのフードコーディネーターの彼女が
お金を払うんですけど。
これを、彼女の人生として
形に残してあげたいんで、
いま本を何とか作ってあげたいなぁ
って思ってるんです。
ちゃんとした、
スペイン料理と日本料理の交流みたいな
立派な本ができないものか?
みたいにちょっと思ってるんですけど、
お金がやっぱり無いんで、
今はちょっと、どうなるかは
わからないという感じなんですよ。 |
糸井 |
うわぁー…それは、すっごいねぇ…。 |
小山 |
すごい話ですよね。 |
糸井 |
詩人になりたかった人としては、
それが詩ですよね。
そういうことは、あるんだよね。 |
小山 |
ええ。
僕はそこまで自分のお金を使えないっていうか。
偉いなと思いますけどね。 |
糸井 |
家を建てるんじゃなくて、
これだ!っていう
そこの思い切りがいいよね。 |
小山 |
だから、「宝石を買うよりも、
こっちのほうが輝いてるんだ」って
感じがしますよね。
(つづきます。)
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