第2回自分を褒める日記。
- 金沢
- 症状自体は12年前から変わっていないのに、
今は毎日、打席に立っている。
一時は寮の部屋からも出られない状態だったと
いうことですけど、そこから抜け出したとき、
何か大きなきっかけがあったんでしょうか?
- 小谷野
- 2006年、僕が発症した年ですけど、
日ハムが日本シリーズに進出して、
二軍の選手の多くが一軍登録されたんです。
(※注:ペナントレースで
一軍に選手登録できるのは28人。
クライマックスシリーズ、日本シリーズに限り
40人が選手登録可能なため、その時期だけ
二軍選手の多くが一軍に同行する)
で、二軍は、日本シリーズと同時期に、
「みやざきフェニックスリーグ」
というオープン戦に参加したんですけど、
主力のほとんどが一軍に同行しているので、
僕が出なきゃ試合もできないくらいの
状況になったんですね。
それで、もうやるしかなくなって。
僕は来年の契約もないと思っていたので、
「もう、これで終わるんだったら、
どんなに吐いたりとか、
倒れてもやってみようかな」って思って。
- 金沢
- ああー。
- 小谷野
- その時に、当時、
日ハムの二軍コーチだった福良淳一さんが
僕にこう言ってくれたんです。
「何分でも待つから、
とにかく打席に立つことから始めよう」って。
実際、4回も5回もタイムかけてもらって、
トイレ行って吐いたりしたんですが、
福良さんの一言で気分が楽になって、
また打席に立つことができたんです。
- 金沢
- なるほど。
- 小谷野
- そんな感じで何試合か出ていたら、
良い成績を残せたんです。
練習も食事もできていない、
10キロ近く痩せちゃったような体で。
「吐きながらでも野球ができる」と思えたことは、
大きな自信になりました。
その時、自分の中で、
「やれなくなったことをまたできるようにしよう」
じゃなくて、
「1個でもできることを増やしていこう」って、
ちょっと前向きに思えるようになったんです。
- 金沢
- ああ‥‥パニック障害を治さなくても、
野球は続けられる、って思えたんですね。
- 小谷野
- そうですね。
それから、前向きな意識転換するように
なるべく心掛け始めたんです。
たとえば、「今日も野球がやれる」
っていう喜びがあるから、症状が出ても、
「あ、これ、『楽しめ』っていう合図だな」
って思ったりとか。
- 園田
- すごい‥‥。
- 小谷野
- 電車にしても、1駅乗れた自分を褒めるんです。
次の日は電車に乗れなくても、
「2日間、駅に行けた」って思うようにして。
そういうことを、
意識的にやるようにしたんですよ。
自分でできることを、1つずつ増やしていくように。
- 金沢
- 「今日は乗れなかった」じゃなくて、
褒めるところを見つけるんですね。
- 小谷野
- そうですね。「褒めること」を見つけて、
それを毎日、日記に書いていました。
日記は「今日もありがとう」って、
感謝の言葉で終わる文章を書くようにしてたんですよ。
そうしたら、
日記を書くのが楽しくなってきて、
だんだん自分を許せるようにもなったんです。
- 金沢
- それまで、日記をつけたりしたことはあったんですか?
- 小谷野
- 大学の野球部にいた頃、
「野球日記」っていう名前だったんですけど、
毎日、日々の行動や思ったことを書いて、
週に1回、監督に提出するルールがありました。
- 金沢
- じゃあ、日記をつける習慣は元々あったんですね。
- 小谷野
- そうですね。大学時代にやっていたことを思い出して、
もう一度、原点に戻るというか、
「自分らしさ」を見つめ直してみようと思って。
あとは、新聞や本をたくさん読んで、
前向きになるような言葉、
自分にとってプラスになるような言葉を見つけて、
ノートに書き写したりもしました。
- 金沢
- なるほど。
- 小谷野
- 「また野球をやるには、
何か変化をつけなきゃいけない」と思った時に、
それくらいならできると思って、ずっと書いてました。
「書く」って言うことは
すごく大事だなと思いますね。
- 金沢
- 当時書いていたもので、
今も覚えているものってありますか?
- 小谷野
- いや、書きすぎて、覚えてないですね(笑)。
本もアホみたいに買ってあるから、
今もたぶん実家には、本がたくさんあると思いますよ。
- 金沢
- それは、全部読まれたんですか?
- 小谷野
- 全部読んでますね。
そこから、もう、本読む習慣が付いてるから。
何百冊、何千冊あるかわかんないです。
- 金沢
- 僕、パニック障害で病院に通ってるんですけど、
「自分のできたことを記録すること。
苦しくてもその場から逃げないことが大事だ」
って、お医者さんに言われるんです。
小谷野選手は、日記をつけて
少しずつできることを増やしたり、
「吐いても打席に立つ」っていう、
大変なことに取り組んでいて。
それってまさにお医者さんが言っている、
パニック障害への対処法と一緒だなと思いました。
- 小谷野
- いろんなことを試して、
自分に合う方向に持っていきましたね。
たとえば、僕らはドーピングの問題があるんで、
強い安定剤とかは飲めないんです。
- 金沢
- ああ、そうか‥‥。
僕はいつも安定剤を持ち歩いてるんですけど、
「苦しくなったら飲めばいい」って思えるだけで、
だいぶ気が楽になるんですよね。
薬を飲めないって、すごく大変なことだと思います。
- 小谷野
- だから、代わりにガムとかアメを試したんです。
ガムだと、途中で唾液がなくなる感覚があって、
「ガムじゃだめだ」って。
「じゃあ、何のアメがいい?
ピーチ味がいいな」とか(笑)。
- 園田
- (笑)
- 小谷野
- 今もアメを舐めさせてもらってるんですけど。
これが僕の中では安定剤みたいになってますね。
- 金沢
- 僕もフリスク、いつも食べてます。
- 小谷野
- でしょう(笑)?
一緒ですよ。呼吸の仕方忘れるから、どうしてもね。
- 金沢
- そうなんですよね。
- 小谷野
- 「あ、息してないな」みたいになるでしょ、ある時ね。
- 金沢
- はい、なります。
- 小谷野
- それ、毎日なんだから、僕、毎試合。
- 金沢
- アメを舐めるのは、打席でも、守備でも、
こういった取材の時も、
いつもやっていることなんですね。
- 小谷野
- そうですね。
インタビューされてる時、テレビ観てる人は
「アメ舐めながら、しゃべりやがって」
って思うかもしれないけど、
別に恥ずかしいことじゃなくて、
「これで人と同じことできるんだから、いいでしょ」
って、思うようにしています。
(つづきます)
2018年7月13日(金)