第3回理想像と自然体。
- 金沢
- 野球をやめたら楽になるのかなって、
考えたことはありますか?
- 小谷野
- いや、野球はやりたいんで。
むしろ、
「いつかは、やめなきゃいけないのかな」
って想いですね。
- 金沢
- ああ、ずっとやりたくても、
いつかはやめなきゃいけない、っていう。
- 小谷野
- そうですね。
- 金沢
- 小谷野選手がパニック障害を発症した2006年、
練習をすることもままならない状態の時も、
同じように「まだやめたくない」
って思われたんですか?
- 小谷野
- やめたくなかったですねぇ。
先ほど話したフェニックスリーグはシーズン終盤で、
翌年の契約に向けて、本当に後がなかったんですよ。
だから、あの時、覚悟を決めるっていうか、
「死に物狂い」って、ああいうことなんだなって。
結果、ホームランが何本も打てて、
打率も3割近く残せたんですよ。
- 金沢
- 死に物狂いでやった結果が、
翌年の契約につながったんですね。
- 小谷野
- いろんな要因が重なって、運命を変えるのかな‥‥。
翌年、一軍でレギュラーになって、
それから10年以上やれるなんて、
当時の僕は考えもしないですから。
10年以上、吐き続けながら試合に出るとも、
もちろん思いませんでしたけど(笑)。
- 金沢
- (笑)
- 小谷野
- もう「オエー!」と声に出して吐くので、
「今日も応援の音でごまかせてよかったぁ」みたいな、
そんな毎日です(笑)。
- 金沢
- いや、本当にすごいです(笑)。
- 園田
- お話聞いてると、すごく楽しもうとして
やってらっしゃるなということはわかるんですど、
実際、苦しさを感じることはないんですか?
- 小谷野
- それは、苦しいっていう考えは、
僕の中で捨てましたから。
- 園田
- あ、捨てたんですか?
- 小谷野
- 捨てたっすねぇ。
- 園田
- 捨てられるものですか‥‥?
- 小谷野
- 捨てられますね。
「生きてるからこそ、って思えばいい」とか。
わかります?
- 園田
- ああ、はい、わかります。
- 小谷野
- 「これだけ練習してれば、
そりゃこういうことも起きるわ」って思ったりとか。
- 園田
- なるほど。
今はそのように意識転換できるように
なったと思うんですが、
大好きな野球をやれなくなった当時は、
やっぱりすごく苦しかったですか。
- 小谷野
- その当時は最悪です。
最悪でした。もう最悪です。
- 園田
- 最悪ですか‥‥。
- 小谷野
- 最悪です。
まさか自分がそういうふうになると思わなかった。
でも、考えてみると、幼い頃、
国語の授業で本を読まなきゃいけないとかいう時に、
すぐお腹痛くなったりしたことがあって。
- 園田
- 緊張しやすい性格だったんですかね。
- 小谷野
- 緊張しがちでしたね。
今思うと、やっぱり、
元々そういう性格だったかもしれないですね。
- 金沢
- 「チャンスで打てなかったとか、
悔しい思い出ばかりが記憶に残っている」
と、著作の『心で勝つ、技で勝つ』
にも書かれていましたけど、
そんな神経質なところが、
病気にも影響があったんでしょうか?
- 小谷野
- あったと思いますよ。
全部が完璧でいたかったんで。子どもの時から。
勉強も、「全然してないよ」みたいなふりして、
それなりにできるとか。
かっこつけだったんでしょうね(笑)。
- 園田
- で、陰では頑張っている(笑)。
- 小谷野
- 本当は不器用なんですね。
でも、「器用だと思われたい」とか、
そういうのが周りの人より
ちょっと強かったのかもしれないですね。
- 園田
- じゃあ、パニック障害って聞いて、
周りはびっくりしたんじゃないですか?
- 小谷野
- もう、自分自身もびっくりしましたよ。
それまで、
「小谷野栄一」っていう
理想の野球選手を演じてた部分も
あると思うんですよね。
- 園田
- ああ、理想像。
- 小谷野
- それが耐えきれなくなって、
爆発したのかもしれないですね。
- 金沢
- 理想像というのは、
「堂々とした姿」のようなことですか?
- 小谷野
- たぶん「堂々と」もそうですし。
いろんなプレッシャーが重なったんだと思います。
「プロ野球選手になったんだから、
親を養ってあげたい」とか。
勝手に自分を追い込んでたところもあるんで、
パニック障害になったのは
自然体になれる、いい機会だったと思います。
- 園田
- なるほど‥‥。
- 金沢
- 今思い出したんですけど、
僕の出身校、野球が強かったんです。
甲子園に出たりするような学校で。
で、野球部の人たち、それこそ堂々としていて。
- 小谷野
- うんうん(笑)。
- 金沢
- でも、大人になってから会うと、
雰囲気が柔らかくなったなって思うことが多くて。
人って、いろんな経験をして、
変わってくるんだろうなと思うんですけど。
- 小谷野
- いや、本当にそうだと思います。
僕も、それまでは、自分の恥ずかしいところ、
弱い部分を人に見せたくなかったというか
完璧主義だったんです。
- 金沢
- はい。
- 小谷野
- もう、今だったら、
「俺、こんなんだけど!」
ってさらけ出しますけどね。
そうすると、周りも素
の自分を見せてくれるようになって。
そのほうが僕も楽だし、
みんなと付き合いが深くなる
って感じられたんです。
それからは、どんどん素の自分を
見せていいんだと思ってますね。
(つづきます)
2018年7月14日(土)