クマちゃんからの便り |
東京ヴェドウィン 制作過程の写真記録保存、HPの更新やメール、 たまに資料の有無の在処を <グーグル>で調べるぐらいにしか使わないのだが、 何処へ行くにも帯同していたパソコンの不具合が このところ多くなってきた。 この道具の記憶力はすこぶるイイ。 しかし振動や湿気に弱いのが弱点で、 寿命はだいたい五年ぐらいだと聞いた。 そろそろガタがきてもおかしくはない時期ではある。 もともと筆圧が強い方で、 鉛筆で下地を破くこともあったから、 昼間の大きな木を彫る鑿とハンマーづかいの最近、 コントロールもままならない夜の指先が、 キーボードの<K>を圧し潰してしまった。 <グーグル>で調べた本屋を数軒回った。 マイブリッジのヒトや馬の動きを 連続写真で納めた本のほかに 二、三册買って、山のFACTORYに戻る。 途中、秋葉原駅に降りた。 小じゃれたビル街になっている駅前に、 黒いドレスにレースをあしらった メイド姿の若い<萌え>たちが立ち並び 「おかえりなさいませ」 とのお出迎えだからたまげてしまうのであった。 安い食い物屋のチェーン店とか、 オタク御用達のエロショップが 目立つようになってはいた。 それがたちまちのうち、 真昼堂々とメイドどもがはみ出す <虚構>のビル街に気圧される自分が 気恥ずかしくなったのだ。 ぶっ壊れたパソコン抱えたオレは、 脇目をふらず<チチブ電気>へ急いだのだった。 店先先には客が溢れていた。 掻き分けて狭い店に入ると、 <おでん缶>を手にしたオッサンやら 若者やらでごった返していた。 ダース入りの段ボールを掲げている者もいる。 しかもIC機器の棚にさえ<おでん缶>が のさばっているじゃないか。 「どうしたんだ、商売替えかい」 「おかげさまで」 オヤジはウズラの玉子みたいな<おでん顔>で 「近頃はこれがバカにならないんですよ」 と、次々と売れていく山に、 几帳面な手つきでオデン缶を積み上げている。 「若い衆はこんなモノを喰っているのか」 「牛スジ入りも人気なんです」 この店もかつては蛍光灯や冷蔵庫などの 家庭電機を主流にしていたが、 今やコンピュータ機器専門の店になり、 それがいつの間にやら<おでん缶>も IT部品と同列になっているのだ。 土方シゴトで稼いだゼニでやっと買ったテレビに、 最初に映し出されたケネディ暗殺のライブ影像だった。 あの白黒テレビも秋葉原の電気街で買って 電車で運んだものだったし、 真空管やトランジスターを数個探し歩いたのも 迷路のような秋葉原ガード下だった。 経営に参画している一人息子も、 夜になればハードロック小僧だが、 オレのパソコンの主治医でもある。 キーボード部分を外し新品と取り替え あっさり機能が回復した。 「これで当分大丈夫だけど、 液晶とかあっちこちガタがきてます」 「今、ゲージツの新展開がはじまって 当分まわらないんだ。 それよりHPを少し見やすく変えたいんだが」 トップページを高城剛に作ってもらったオレのHPも、 ジカンが経ったというのに変わらない内容を 少し充実させようと思っていた。 海外で発表した時のキュレーターのコトバや オブジェ群のデータを渡した。 そのうちに動画を使って パフォーマンスも載せていけるとイイんだが。 「棚卸しが済めば何とかします」 生真面目なハードロッカーだが、頼りになる青年である。 六月初旬には内容も新たなHPになるだろう。 なんとも不思議なサイバーシチー・アキハバラを後にして 緑が濃くなった山奥行きのアズサに乗る。 北野監督が収録の控え室で話してくれた <数学>に関した本も一冊買った。 無限に続く絶対数<π>の魔力について 読んでいるうちに、 平行な鉄路を刻むリズムと一緒になって 脳が溶けだしていた。 睡いような感覚にリサ・ランドールまで現れて、 五次元のなかの三次元を想像していた。 完全に幸せなアジャパーになっていたのだ。 気がつくとココはやっぱり三次元の甲府駅。 立ち食い蕎麦のスタンドが流れていき 見慣れた景色を眺めていると次が韮崎駅だ。 都会と山奥を往き来するヴェドウィンのようなオレに、 また鑿とハンマーの確かなジカンが訪れるのである。 |
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2006-06-04-SUN
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