クマちゃんからの便り |
水の景色 分水嶺を過ぎるとワイパーが忙しくなり、 上北山村を通過した頃には、 怖ろしいほどの土砂降りが車を叩きだす。 KORYA君の車で奈良駅から、 二時間かかけて標高一五〇〇メートル以上ある 大台ヶ原にたどり着いた。 ピッカリ君、カズマ等<森のヒト>たちが待っていた。 彼等に拾い集めてもらった間伐材が今回の素材だ。 事務所の裏にある物置小屋を制作場にすることにした。 彼等は、夢のようだった<ソゾロカゼ>を作った時の メンバーだから、腕のいい手際は実証済みである。 今回のプロジェクトでも オレの手足となってもらうことにした。 ビー玉ほどありそうな雨粒が垂直にトタン屋根を打つ。 お互いの声が聞こえないほどの爆音である。 オレは入り口に立って、 森の水音に向け右耳を集中する。 一枚一枚の葉が受けた天水が溢れて、 下の葉にバウンドして墜ちていく。 森の中は飛沫で蒼く霞んでいた。 幾万幾億‥‥無限枚の葉の落水が 壮大な<滝>の景色になっていた。 鹿もイタチも鳥も高山植物も このなかに身をひそめているのだ。 オレ等も同じだった。 しばらく幻の滝を耳で観ていたが、 全身に柔らかいチカラが入ってきたようだ。 床にチョークで二メートル径の<円>を描いた。 そのなかに森の断片である枝を レイアウトしながら置いていく。 交差する箇所をピッカリ君が細い針金で止めている。 降雨量の多いこのゾーンで生まれ育ったピッカリ君たちは、 黙々とシゴトを続けている。 激しい天水の楽音に覆われていた。 台風に刺激されて梅雨前線が豪雨となり、 ニッポンの大地のあっちこっちが水分の飽和状態で、 終末的な水害のシーンは毎年くり返している。 床には徐々に直径を小さくした<円>が出来ていき、 枝で三次元に繋いでいくとたちまち半球になっていく。 作業場の空間いっぱいに枝でドローイングしたように、 二メートルの<ボール>が出来上がった。 この要領で、三メートル、二メートルを二個、 一メートル三個の<森のボール>を作るのである。 お盆の前夜、二時間かかる山道をトラックで 奈良の都へ運びこむ。 このオブジェ群は、人工の森の樹々に寄生して ロウソクの光りに満たされるのだ。 そしてまた忽然と奥深い森へと還っていく。 自然のジカンに影響を受けながら、 アケビやカボチャやヘチマに覆われて ミドリのボールとなっていく。 やがて森に埋没していくオブジェの変遷を、 写真で記録して誰でもいつでもどこからでも 観ることが出来るようにするのだ。 電車を乗り継いで岐阜の焼き物の町を経由して FACTORYに戻る。 どこまで往ってもアートマーケッティングから程遠い、 水の景色のなかだったが、 これもなかなか<生>に充ちたジカンだったわい。 部屋の中に作った池で、睡蓮が白い花を咲かせていた。 煎茶をゆっくり入れ、 ヒカリを透かすほど薄く作った青白磁の器で飲む。 ホームページの内容が大充実にリニューアル。 充実した作品群をお楽しみください。 http://www.kuma-3.com/ |
クマさんへの激励や感想などを、
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2006-07-28-FRI
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