クマちゃんからの便り

寒い朝

『エックスイコール2エー分のマイナスビー
 プラスマイナスルートビーの二乗
 マイナス4エーシィー‥‥』

受験生の苦行ではない。
久しぶりに、a, b, cの値を代入して
エックスの値を求めていると、
西側の窓に嵌っている甲斐駒に朝陽が当たりだした。
快晴続きでここ数日クリアーな夜明けが続いていた。
山奥での一日のはじまりである。

朝五時から写経のように、
中学数学で遊んでいるオレは何者だ。
このところは図書館で借りてきたジョージ・ガモフの
<無限大>についての本が、
想像の領域へ運んでくれている。
今更ながら<素数>や<無限>の
目まいするような不思議に、
朝のつかの間を馳せるのである。

今朝は問題集から二、三問解いてから、
読書に入る予定だったが、
鮮やかなピンク色の変化をする雪の山肌に目を奪われ、
もう数学どころではなくなってしまった。
寒い朝、カメラを持って畦道まで飛び出していた。

しかしつかの間見せていた
妖しいピンク色のジカンはもう過ぎていた。
真っ青な空に白く輝く頂が鋭く突き刺さり、
<現と夢世>を分岐しているようだった。

誰ひとり居ない景色には
まだ光りからの温度が届いてない。
冷たい空気が透き通っていて、
今オレが見ているあの甲斐嶽の頂に、
オレ自身が佇んでこっちを眺めているような
捻れた<無限>を感じていた。

工場に逃げ帰る。
解凍しておいたアオダイは、
去年、三宅島で獲ったものだが、
丁寧に捌きシェフ・三国に頂いた<決め塩>で喰う。
これがダイコンのあさ漬けと合った。


春 の 朝 傾 ぶ く 椀 に 虎 奔 る

嬰 負 う た 脚 萎 え 猿 に 風 旋 る

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2007-01-23-TUE
KUMA
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