クマちゃんからの便り

月仙人

暖冬といっても甲斐駒のふもとはやっぱし寒い。
この一月は<岐阜の窯場>に出掛ける以外は、
寒い山岳地帯で蟄居していた。
もう少し暖かくなり啓蟄の頃になれば、
薄っすく薄っすくした磁器の土を焼き始めたり、
<不動明王>を陶板に焼き上げたりする。

相変わらず<ぬか漬け>と玄米、
村人からの差し入れ冬野菜を蒸しては
岩塩か、自家製のニンニク味噌などで食いつなぐ。

たまに三宅島で釣った青鯛を解凍して
アクセントにするのだが、
テレビもラジオも入らない山岳で新聞も読まず、
たまにパソコンでニュースを見るくらいで、
だんだん仙人に近くなっていくようだ。

三〇代、四〇代はだいたいこんな風なシンプルな暮らし
(マ、ビンボーとも言うが)だったから、
いまさらなんの違和感もない。

却って具合はイイようだ。
しかし、そうこうするうち二月になっていた。

掌のスパーリングを兼ねて、
ひと針一針ひたすら刺し続けていた
<縫うこと>にも飽きてきて、
疲れた目を外にやると妙に明るい。
ヒカリに誘われて窓を開ければ
甲斐駒下ろしの強い風が吹きこんきて、
真夜中のアカマツ林は大騒ぎだった。

梢のシルエットが
激しく宙を引っ掻くよう揺れているから、
満月も揺れて見えた。
<中心も果てもない宇宙に>
風も樹も月もオレも揺れていた。

もう立春らしい。
それにしても雨なり雪なりが降って
大地に水分を含ませにゃなぁ。

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2007-02-06-TUE
KUMA
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