クマちゃんからの便り

三宅島無宿者

海に漂いながらラインを通して、
海の中に遊ぶのがオレの釣りジカンだ。
何も釣り自慢をしたいなぞとは思ってはいないのだが、
そのうえ喜ばしい結果が出てしまうから堪らんわい。

今回はオブジェ制作のプロジェクト立ち上げで
三宅島を訪ねた。
役場での村長や教育長らとの打ち合わせの後、
火山ガスで立ち枯れた樹木の森を車でロケハンをした。
立ち枯れながらも天を真っ直ぐに突き刺す
杉の群れが気になった。
防腐加工、樹脂強化‥‥。
島のヒト等のチカラを集めてなんとか。
久しぶりにオレの頭蓋が騒がしくなる。

ここはオレの若き釣り師匠・テツヤの
ホーム・アイランドである。
スケジュールを済ませて
すんなり帰ってくる理由はないから、
<天狗屋>にテツヤを訪ねた。

さっそく彼の案内でグレを狙いに
行こうということになる。
溶岩が押し出されて出来た礒は、
海面まで高さ5メートルはある。
風の吹き上げで糸ふけに往生していると
「礒竿の長竿扱いは大きくゆっくりとね」。
磯釣りのセオリーである。

チャイムが鳴り「子供は早く帰りましょう」の
島内スピーカー。
「こからがグレが喰い出す合図だからネ、
 そろそろ練習はおしまい」
テツヤが叫ぶとオレのウキがすーっと
夕暮れの海に消し込んだ。
なんてこった、大型オナガグレである。

釣り雑誌なぞでもっともらしい思い込みをぶつ
<名人>とやらと違って、
天然を読み解くチカラが備わっているテツヤの、
礒の上から海の大物と交わすときの
無駄がない長竿やラインのさばきは美しい。
<岩の上のダンサー>である。

翌朝、低気圧の通過で風が強い。
泳がせ釣りにはまだ少し早いし、
風裏になる阿古港からショベルハンド・福チャンの
<福美丸>で、テツヤとノッコミ真鯛を狙うことにした。

それまで釣れていた大きなアオダイが、
小さくなりピタリとエサも残るようになっていた。
「海の中の気配が変わったね、油断できないよ」
テツヤが言う。このつかの間の妙なジカンを見逃さない。

胴調子の竿が満月になった。
続いてオレも「小さいねえ」と言われなから、
5.2kg、3kg、2.3kgを釣り上げるのだが、
10kg以上のノッコミ鯛がいるという海では
いかにも小さい。
オレには美味い不味いより大きい魚とのファイトだ。
大きく引き絞った最後に竿に大いに期待したが、
8kgのメダイだった。

大荒れの海を見下ろす岬の〈天狗屋〉。
こんな日はテツヤの釣部屋を借りて、
カンパチの棺箱を作ってくれた棟梁・イシイと、
試案中のオブジェをミニチュアで造って過ごす。
頭蓋内のデッサンはこれに限るわい。
ゲージツ無宿のオレには、
火山の離島のいいジカンが流れていく。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2007-05-08-TUE
KUMA
戻る