さよならドラゴン
朝になって、次のロケ先に向かう前に
もう一度<たけし小学校>に寄ってもらった。
もう記憶の中でしか会えないドラゴンを、
もう一度見ておきたくなったのだ。
モンゴル草原の<天外天風>、
サハラ砂漠の<風の樹>こんなコトはなかった。
いつも完成と共に振り返らず去ってきた。
少し土が乾いてヒビも走り
<ドラゴン>に迫力が増していた。
大きくなったマンゴーの実がブル下がっている。
オレはエスカルゴのラセンを何度も往復して記憶した。
「ヨシッ、往くぞ」
もう大丈夫だ。次の取材地に向かった。
もっとも貧しい地域。大きめの灰色の溜め池だ。
大量の牛がザブザブと入って水を飲みだした。
山羊が水を飲む。
牛飼いが飛び込んで水を飲み、泳ぎまわる。
子どもが泳いでから洗濯だ。
トンボや蝶々が水を飲む。
午後六時まで。
朝には近隣の集落から五、六キロの道程を歩いて
女や子ども等が、少しは澄んだ上澄みをすくっては
大きなボールに溜める。
飲み水に家まで運ぶのだ。
二時間走りそこからなお凸凹のジャングルを往く。
ゾマホンの山羊牧場を訪ねた。
去年、十メートルほどの柵で囲った大型犬の小屋を見た。
そこに二〇頭ほど飼っていたという。
「そんなに詰め込んだらノイローゼになるだろうさ」
今は草ボウボウ。
「もう喰っちまったのか」
「冗談じゃないよ。今はもっとデカイよ」
専任の農夫一家もいて300ヘクタールあるという。
今度は大違い。まさに<地山羊>の牧場でる。
近くのニジェール川を見にいった。
乾期で水量もなく溜まり水状態だ。
ここの集落には、ドラム缶に炭や灰や植物で作った
濾過装置があった。
ホテルに戻る途中、
ゾマホンが幼少のオフクロと過ごした
粗末な家に案内してくれた。
今は崩れ落ち、ノート代わりの板が落ちていた。
小さな100戸ほどの集まり。
ゾマホンはそんな集落の英雄だ。
オレはマンゴーを大量に貰った。
「部屋で全部食べてください、ボクのカカが言ってます」
もうとっくのムカシに死んだ彼のお母さんだ。
一生分を喰った。
ムカシ、土建の社長にキャバレーに連れて行かれて
喰った水っぽいのとは大違い。濃い大地の味だ。
ニッポンでは一個二万円のマンゴーが話題になったが、
やっぱりマンゴーはアフリカだろう。
貧乏人も金持ちも喜ぶ大地からの恵みの果実だ。
二万円のマンゴーを喰うヒトはどんな欲望なのか。
「カカのマンゴー食べてくれて嬉しいよ」
「オレも出発の前日オフクロが肺炎で入院したんだよ」
「エーッツ、どうしましょ」
「医者の言うこと聞いて、気でなおすんだ。
オレはアフリカから戻ったら、
会いに行くから治ってなよ」と言い聞かせたんだ。
無理矢理笑って「アンタも気をつけて」。
<ドラゴン>の朝、マネージャーからデレクターの
<直線パパ>に連絡が入った。無事切り抜けたと。
これでやっと入れた介護老人ホームを出されないで済んだ。
何より生還したことがオレの励みになったのだった。
オレはマンゴーをオフクロの分まで喰った。 |