── 二十四節気が「白露」に変わりましたね。
草木に降りた露が
白濁して見えるのを、
夏が終わって秋になったしるしと
昔の人は考えたそうなんです。


とは言ってもまだまだ
残暑が厳しいですよね。
── 言葉からだけでも涼しさを、
という感じですね。
朝晩は確かにすこしだけ
涼しくなってきたような。
そんな季節の旬はまず‥‥。
「南瓜(かぼちゃ)」ですよ。
南蛮のものが来ましたよ。


── そもそもはポルトガルから
持って来たものなんですね。
南蛮渡来、すごいですねえ。
南蛮以前、南蛮以降で
かなり食生活が変わってるんでしょうね。
なんて呼んでました? 南瓜。
かぼちゃ。
「南京(なんきん)」とは?
ぼくのところでは、
南京とは呼ばなかったですね。
── 関西では一般的にそう呼ぶかと‥‥。
「いもたこなんきん」。
あ! いもたこなんきん!
よく言いますね。
井原西鶴ですね。
「とかく女の好むもの、
 芝居、浄瑠璃、芋蛸南瓜」。
その「南京」でしたか。
京都は「鹿ヶ谷(ししがたに)南瓜」が
有名ですよ。
── あ、おもしろい形の。
置物になってるのね。
「安楽寺かぼちゃ供養」という行事もあって。
ただ、これは、この季節ではなく、
7月25日なんですけれど。
── 南瓜‥‥なぜ供養されるんですか。
食べてごめんね、ってことですか。
いや‥‥、
おそらく「中風封じ(ちゅうぶふうじ)」ですね。
関東では「ちゅうふう」でしょうか。
関西は「ちゅうぶ」って言うんですよ。
中風って病気として古いことばですが、
よくわからないところがある病気ですよね。
手足がしびれるんですよね。
── 祖母の世代くらいだと
「よいよい」と言ってました。
阿弥陀如来のお告げで
鹿ヶ谷南瓜をふるまうと
中風にならないという
言い伝えによるものだそうです。
── いっぽう「南瓜は軽んじられていた」と
古書の『飲食事典』にございますね。
それはいっぱい採れるからだと。
「どてかぼちゃ」とか言って
罵りますよね。
「かぼちゃ野郎」とか
「唐なす野郎」とか。
南瓜っておいしいけれど
硬くて切るのに手をケガしそうですよね。
── ちょっとチンすると
やわらかくなりますよ。
いいこと聞きました。
── 南瓜で時間をとってしまいましたが、
この季節は「秋刀魚(さんま)」ですよ。
秋刀魚、そうですよ!
大事なものを忘れてた。
── 鰯の次が秋刀魚なんですね。
鰯って夏の感じがしますけど、
秋刀魚になるともう
名前に秋がついてるから。
秋刀魚の生って、
お寿司屋とかであるけど
子どもの頃は
なかなか口にしなかったですね。
食べたことなかったですね。
新鮮なものが来るようになったからだと
思うけど。
秋刀魚を家で塩焼き以外で食べるのって‥‥、
あ、そうか、煮付けもあるんだ。
調理法としてはありますが、
やっぱり塩焼きにしちゃいますよね。
── 秋刀魚は京都の人はあんまり
食べないですか。
え!? 秋刀魚食べますよ。
ふつうに塩焼きにして。ええ。
── お魚は加工したものが主流かと。
子どもの頃から、食べました?
食べました、食べました。
── 昭和40年代以降ですものね。
秋刀魚といえば落語の
「目黒の秋刀魚」。
── 『飲食事典』に、目黒の秋刀魚について
おもしろい記述がありますよ。
大名がものを知らないって揶揄している
内容になっているけど、
当時九十九里で捕れたものを
江戸まで持ってくるのには
一昼夜かかった、と。
だからちょっと塩をして運んだ、と。
そのぐらい経つと
味が定まってうまい、と。
運搬中に揺れるからほどよく熟(な)れるから、
それがうまいんだ、と(笑)。
ちょっと殿様を擁護してる感じですね。
── くだものでは「桃」も旬ですね。
最近はうんと早いですけど。


桃は縄文時代の終わりにはすでにあったんですよ。
呪術に使ったっていう話もあって。
── 魔術的なくだもの。
これだけ甘美だったからでしょうか。
ただ、こんなに甘い白桃系って
やっぱり最近なんですよね。
岡山の水蜜桃みたいなのって。
たぶん、黄色くて
きゅっとしまったものの方が
古いパターンだと思うんですが、
だんだん改良されたんでしょうね。
── 『飲食事典』には‥‥ありました。
桃って、昔は花を観賞するもので、
明治のはじめのものでも
果実はちいさく果肉はかたく
甘みが少なく、品質不良だったそうです!
明治初期に支那種が輸入して
そこから普及したけど
環境がうまくいかなかった。
虫がくっちゃったんですね。
昭和20年に至るまでに
だいぶやわらかくなってきた、と。
こんなに甘くした人、
えらいですよね。
── えらーい!
すごいですよね。
くだものでいちばん好きなのは桃、って
言う人も多いですものね。
── そしてみなさん、季節のたのしみは
「中秋の名月」ですよ。


これ聞きたかったんですよ、京おとこさん。
お団子、「京都や大阪は紡錘形で
餡が帯のように巻いてある」って
ほんとですか。
月見団子?
紡錘形‥‥。
見たことなくて。
‥‥あーっ!
確かにありましたよ。
── 見たことがないです。
東京に来てから月見団子って
食べたことがなかったので、
ピラミッド型に積んだ団子に
逆にびっくりです!
この組み体操みたいのが、
おもしろいんですか。
おもしろくてやってるわけじゃないですよ。
── (笑)ありがとうございました。
次回は「鶺鴒鳴(せきれい なく)」です。
9月12日にお会いしましょう!
2012-09-07-THU

前へ   次へ