七十二候【第五十候 菊花開 きくの はな ひらく】

各地で菊の品評会や菊まつりが開かれる頃です。
旧暦九月九日は重陽(ちょうよう)の節句。
別名「菊の節句」といい、中国ではこの日、
菊の花を浸した菊花酒で不老長寿を祝う習慣がありました。
それが平安時代に日本へ伝わり、
宮中では高貴な人々が菊花酒を飲みながら
歌を詠み花を競う「菊合わせ」を楽しみました。
菊の花に真綿をかぶせて夜露と香りを移しとる
「被綿」(きせわた)という風雅な習わしも知られています。

11月ですね、紅葉。
── 紅葉かあ、もう。早いですね。
先日京都に行きましたがまだ紅葉はしていませんでした。
朝晩寒く、適度な雨があって、
というような条件が揃うと
紅葉の当たり年なので
今年は期待できますよと
地元の人がおっしゃってましたよ。


京おとこ おお!
── ということで紅葉を前に旬の食材は、
「旗魚(かじき)」「鯔(ぼら)」「人参」
そして季節の行事は「ふいご祭」。
ふいごまつり?
ふいご祭ってかなりローカルなんで
実はよくわからないんです。
岐阜県垂井町の南宮大社が
全国の鉱山や金属行の総本宮なんですって。
そこで鍛冶の仕事に大切なふいごのお祭りがあって、
刀匠による短刀の鍛練式が奉納される、と。


─── 「この日は京都伏見稲荷大社を
 はじめ、各地で‥‥」。 
京おとこ 「御火焚(おひたき)」ですね。
御火焚の神事。
やっぱり火のお祭りなんですね。
火に親しみを感じる季節だし。
─── 火が危険になってくる
季節でもありますよね。乾燥して。
さて、食材の話題に‥‥。
旗魚なんて、ものすごく
獲るの大変だと思うんですけど、
江戸時代はどうやって
獲ってたんですかね。
旗魚(かじき)は大正以後の話ですね。
江戸の話は文献にございませんでした。
「東京付近では三浦三崎付近で
 ヤスヅキにした」と。
いまで言う「突きん棒漁」ではないかと思います。
── 獲るの大変ですね、それは!
突きん棒漁って、
船の舳(へさき)の突き台から
銛(もり)を打つんですよね。
すごい!
さすが高級食材ですね。ところが
「関西ではナイラギ、
 またはノイラギと称し、
 良い種がないのであまり珍重しない」
って書いてあります。けれども
「突きん棒漁で獲れた旗魚は
 最高の味わい」と。
京おとこ 京都ではあんまり食べたことなかったです‥‥。
─── 高級食材といえば
「鯔(ぼら)の唐墨(からすみ)」ですね。


やっぱり鯔と言えば
唐墨ですよね!
京おとこ 唐墨ですよねえ。
唐墨、焼くのむずかしいんですよ。
うっかりすると火が通りすぎちゃう。
家族が戦中に台湾にいたことがあって、
祖父が日本酒で拭いては
ガーゼにくるみ、ずーっと保存してたんですって。
何回もそうやっていると
だんだんとお酒の風味がついて
おいしいっていうのと保存がきくから。
それを薄く切って炙って食べたんだそうです。
それを真似しようとしたらうまくいかないの!
やっぱりね、炙りの技術って
すごくあると思いました。
京おとこ 炙り甲斐ありますよ。
── 台湾は唐墨が安いですよね。
ひと腹、2つ入ったので
1500円くらいでしょう。
あちらでは、薄切りにして
だいこんと食べるんですが、
他にどんな調理法がありますか、って聞いたら
これ以外で食べないって。
パスタにしたらおいしいですよ、って言ったら
「知らない」って言われました。
京おとこ 唐墨パスタはおいしいですよね。
感動しましたね、
大人になって初めて食べて。
── 鱈子スパゲッティを上回るおいしさ。
ペペロンチーノにかけるのが
一番簡単ですね。
この間、料理屋で
唐墨を炙ったものを
焼いた餅でサンドしたものが‥‥。
京おとこ ああ~~。
あれ、うまかったあ!
─── 伊賀の土楽の餅つき大会では
中にいろんなものを入れるんですね。
丸くしてお正月に食べるんです。
それに唐墨餅がありましたよ。
うわ。ふわふわのー‥‥。
─── たぶん、ご当主の
オリジナルだと思いますけど。
何してもおいしいってことか!
── こういうものを食べつづけるために
痛風にならないようにがんばろうと。
かわいそうなのは鯔ですよ!
── 鯔、食べるの?
京おとこ どうするんでしょうね。
蒲鉾かなんかにするんですかね。
「唐揚げ、刺身、寿司種」とか。
京おとこ あまり見たことがないですね。
─── 千葉の方ではけっこう食べるんですよ。
けっこう歯ごたえがあって
おいしい白身のお魚です。
飲食事典にも
「脂がのって身が締まった寒鯔は泥臭さもぬけて美味」と。
やっぱり昔の人は
ちゃんと大事に食べたんでしょうね。
今のわたしたちは
唐墨に目が行ってしまって‥‥。
ちゃんと書いてありますものね、
おぼこ(鯔の幼魚)は
「せごしなますで食べたり、
 塩焼きで食べたりする」って。
全国的に食べている風ですね。
「高知でも食べる」。
── 西原理恵子さんの漫画に載ってましたね。
いっぱいとって来たらお母さんに
捨てて来いって言われたって。
意外なのは
「甲州山梨では甲府揚げと名付け
 茹でたジャガイモを焙烙に入れて
 水分を取りよくすりつぶしたところへ
 おろした鯔の身を入れ」‥‥。
── ほうほう。
鯔は関西で成魚を指す言葉「とど」から
「とどのつまり」とか、
「おぼこ」なんて言葉があるだけあって、
馴染みがあったんでしょうね。
── 「いなせ」の「イナ」も
若魚の呼び名ですしね。
さて──野菜は「人参」です。
人参って、洋野菜ですか?


金時人参なんてのは東洋種。
いま私たちが食べているのは主に西洋種ですよね。
── 『飲食事典』には「我が国への渡来は17世紀」と。
昭和40年代くらいって、
その西洋人参はまずかったですよね。
京おとこ まずかったですよ!
匂いが強くて!
── それが、今、何、あの甘さ!
本当はもっと厳しいヒトのはずですよ。
あんな甘い顔してるけど!
トマトと人参ですよね。
みょうに臭みが消えた野菜は。
── ピーマンもそう。
もっと苦かったですよ。
以前、人参はまずいものだった。
膾にちょっと入ってるくらいなら
食べられるけどって。
今なんて
ジュースに入れたりしちゃう。
甘いとか言って生でかじるし‥‥。
でも栄養価が高いですよね。
うちは祖母が明治生まれでしたけど
人参はカロテンがあるんだ、って
ほんとに一つ覚えのように言われました。
京おとこ それって語源が「carrot」から
来ているらしいですね。
明治時代の人って
最新の衛生学とか栄養学などに
関心が高かったみたいですね。
明治時代の料理本とか見ていると
そういうことばっかり書いてあります。
── 入ってきたばっかりの文化だから
楽しくてしょうがなかったんでしょうかねえ。
さて次回はもう冬の到来ですよ。
「山茶始開(つばき はじめて ひらく)」、
11月7日にお会いしましょう。
2012-11-02-FRI
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