21世紀の
向田邦子をつくろう。

■「久世塾おぼゑがき」52号
 音響狂騒曲


「あの~、スミマセン。
 スピーカー、壊れちゃったんですけど……」
本番10分前、ノソーっと控え室に顔を出した
音響オペレーターは、のほほんとした顔で
とんでもない事を報告に来ました。

一瞬彼が何をいっているのか分からず、
顔を見合わせる僕らに追い打ちを掛けるように
「音がね、出てこないんですよ」と、
これまたあっさりとおっしゃる。

「えっ…ウソやろ?」
音が出てこないという言葉に反応し、
すぐさま控え室を飛び出した僕らスタッフの頭に、
3週間前の悪夢がよみがえる。

あれは忘れもしない3週間前の7月1日。
記念すべき『久世塾』本講座第一回の特別講演会。
「マイクはバッチリですよ!
 各教室にはスピーカーも設置されているし、
 音響はまかせといてください!」という
会場責任者の力強い言葉を信用し、
すっかり安心して当日会場に行ってみると、
“バッチリ”用意してあるはずのマイクが、
なぜかコードつきの古~いタイプ。
しかもマイクスタンドが壊れていて固定できない。

「ワイヤレスはないんですか?」
「あっ、それならいいのがありますよ」
と、自信たっぷりに出てきたのが、
これまた最近では滅多にお目にかかれない
クラシカルなピン(?)マイク。
そして極めつけがスピーカー。
まるで町内会の宴会で使うようなポータブル・タイプ。
しかも一台のみ。

「教室の壁についてあるスピーカーは使えないんですか?」
「いや~、あれはどうやらチャイムが鳴るヤツみたいでね。
 その横のスピーカーも半年前から壊れているんですよ。
 ワハハハハ!」と、
まるで他人事のような高笑い。
話がちがーう!!!

そりゃ確かに事前にテストしなかった
僕たちが悪いんだけれども、
それにしても当日になって言うなんてあんまりだ。
今からじゃ機材の手配だってできない。

「仕方ない。今ある機材で何とかしよう。」
とりあえず教室に揃えられた
チープな機材をセッティングし、
マイクテストをしてみると
案の定スピーカーからの音が割れてしまう。
仕方なくギリギリまでボリュームを絞ってみると
やはり音が小さい。

「こりゃ後ろの方は聞こえにくいかも」
それでなくてもボソボソトークの久世塾長。
しかも動き回りながら喋られるので、
コードが絡まりハウリングまで起こる始末。

講義終了後はスタッフの心配通り、
塾生からはもちろん久世塾長からもクレームの嵐。
塾生の皆さまには本当にご迷惑をお掛けしました。

こうして第一回の特別講演会は
最悪の音響設備に振り回され、スタッフも冷や汗の連続。
「次からは絶対プロの音響業者を入れよう!」
ということになったのでした。

そして2回目・3回目は無難に乗り切り、
「やっぱりプロに任せてよかったなぁ」
と思っていた矢先の今回のハプニング。

教室にセッティングしてあるマイクを手にとって
「あ~」といってみるが、
スピーカーは「あ~」とはいってくれない。
「またか…」呆然とする僕らは、
横でポンポンとノーテンキにマイクを叩く
オペレーターに噛みつく。
「これどういうこと?」
「何とかしてくれよ」
「何で今頃言ってくるんだ」
「もっと早よ言うてこんかい!」

僕らの(関西弁混じりの)一斉攻撃に、
さすがの彼も事態の重大さに気付いたらしく、
のほほんとした顔から段々と血の気が失せていき、
業を煮やしたスタッフの
「どないすんねん!」という一喝に、
「えっ、あの、どうしたらいいでしょう……」と
こちらに答えを求めてくる始末。
そのあと彼はなぜか突然スピーカーを分解しはじめ、
もうすっかりパニック状態に。

その時教室には、
すでにほとんどの生徒さんたちが座っており、
こちらのやりとりを窺っている様子。
本番まであと5分もない。
「とりあえずスピーカーを探してこよう」
スタッフで手分けして
会場内に使えるスピーカーがないかを探すこと5分、
奇跡的に小型スピーカーが一対見つかった。

少し落ち着きを取り戻したオペレーターが、
震える手でアンプとスピーカーを繋ぐ。
「音、出てくれよ」
スタッフ全員祈るような気持ちで見守る中、
マイクのスイッチを入れ、もう一度「あ~」というが、
やはりスピーカーはウンともスンとも言わない。
奇跡は二度は起こらないのか。

「あかん……」
そのとき控え室でしびれを切らした久世塾長が、
「もうマイクなしでもいいから始めよう」とひとこと。
「仕方ない。またアレでいくか…」
こうして第一回で活躍したアレ、
例のチープな機材が再登板することに。

この時点ですでに定時から約10分の押し。
控え室でずっと待っていただいている竹山洋先生に、
「すいません竹山先生。音響のトラブルで
 用意していた機材が使えなくなりました。」
とご報告。そして
「申し訳ありませんが
 小さなスピーカーしかありませんので、
 できれば大きめの声で話していただけると
 ありがたいんですが…」とお願いすると、
いいですよ、と気持ちよく了承していただき、
胸に怪しげなピンマイクを付けて
会場に入っていかれました。

「ちゃんと聞こえるだろうか?」
心配になった僕は会場の端っこの席に座り、
ヒヤヒヤしながら講演を聞いていましたが、
ところどころ聞こえづらい箇所はあったものの概ね良好。
竹山先生も気を遣って、
少し大きめの声で話してくれていたようです。

竹山先生、ありがとうございました。
そして塾生の皆さん、大変ご迷惑をお掛けいたしました。
来週はキッチリとセッティングいたします。

さて、講演の内容は…といきたいところですが、
音響の話でこんなに長くなってしまったので、
続きはまた今度ということに。
ということで、『久世塾』第三回のレポート、
次回に続きます。

それでは。

文責 さとう

★久世塾正式サイトへのアクセスは
 http://www.kanox.co.jp/へ。

2000-07-25-TUE

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