塩と砂糖で泣く
ケータイが唸ったので耳に当てると「今日ライブやる」。
渋谷のバーにアコギ・ストリート野郎が12組集まって
2曲ずつくらい歌うというイベントに、
僕のバンドのボーカルが「出るから来い」って叫ぶんです。
ここ1、2週間、渋谷界隈では路上シンガーや露店に対する
取り締まりが厳しくなりました。
そういうこともあって久しぶりに彼のソロを見に行こうかと
重い腰を上げました。
演劇をやっている自分にとって、どちらも「ステージもの」
という共通点でよくライブなんかも勉強しに行くんです。
聴いて少しだけ驚いたのは、みんな歌が上手ってこと。
けど残念ながら、どの演奏者も同じに見えました。
十人三色くらいでしたか。
まず楽器がアコースティックギターと声しかないってのが
大前提なんですけど、逆にそうなると演奏や音楽性よりも
歌詞やその人のスタイルってのが問われるんだなあって。
気取っている人、MCの下手な人、前を見て歌わない人、
客席にばかり気を使う人は見ていて面白くなかったです。
小さな箱でのライブっていうのは、演奏者が出てきてから
演奏が始まるまで準備のために時間が空きますが、
そこをどう使うか、ってのが大切だと感じました。
レコード会社の営業をやっている友人がいて、曰く、
「ファンはね、最初何を知りたがるかっていうと、
そのアーティストの『歴史』なんだよね」と。
宇多田ヒカルが米国でデビューだとか、尾崎豊の家出とか、
サザンが茅ヶ崎から青山学院大だとか、そういうことです。
「歴史を知れば、音楽性とかキャラが理解しやすいから」
ライブ前の数分間で歴史は言いえませんが、
「人となり」を伝えることは可能だと思います。
一人だけそれに成功している人がいました。
「福井から来たんで、言葉とかちょっと共通語っぽく
喋ってるんですが」とバリバリの福井訛りで話す、
その名もウィリアム君(日本人)。
やがて会場は大爆笑の渦。
そうして歌い始めたら、これが凄い。
アマチュアの歌で久々に泣きそうになりました。
これは何だろうと考えたら、「ギャップ」なんですね、
最初に見せた「人となり」と「歌の上手さと迫力」との。
塾長の久世さんがよく言っていた、
「泣かせるためには笑わせろ」
とはこのことかと、しみじみと思いました。
つまり、脚本で大切なのは、泣かせるシーンではなく
その直前にある笑わせるシーンなんだということです。
まさにギャップの演出ですね。
あと、そんなこと言いそうもない人がポロッと
泣かせる台詞を言うとか、
それをここで言うかって場所で意外な言葉を吐くとか。
そういうシーンでこそ、登場人物の人間味が出て
見る人をほろっとさせるのだなあって思うわけです。
これって「スイカに塩」「カレーに砂糖」と似てません?
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