糸井 |
僕、正直に何回か言ってるんだけど、
矢野顕子最初に聴いた時に、やだったの。 |
坂本 |
不愉快だった?
僕もレゲエ不愉快だった。
非常に不愉快だった(笑)。 |
糸井 |
だから、そんなに音楽で
不愉快ってことを感じるのって、
あんまりないから、 |
── |
最初って、いつ頃ですか。それは。 |
糸井 |
最初はね、「GORO」って雑誌が主催したね、
渋谷公会堂ですよ。
矢野顕子っていう、
俺らの知りもしない奴が、
天女様扱いっていうか、天才少女日本に現る!
みたいに扱われてて、
リトルフィートがバックやったんだとかね。 |
坂本 |
山下洋輔さんとかにかわいがられてたからね。 |
糸井 |
俺はそっち知らなかったんだよ。 |
坂本 |
うん。 |
糸井 |
とにかく、よくわかんないこの子が、
すごいんだってことを、
みんなが言い過ぎるような気がして。 |
── |
その時は、まだちゃんと聴いてなかった? |
糸井 |
聴いてない。 |
坂本 |
観音菩薩みたいな扱いだったもんね。 |
糸井 |
そうよ。いや、天から降ってきた天才!
みたいな。そりゃ、言い過ぎだろうって
気持ちがありますよ。当然(笑)。
そうしたらさ、
「♪おらおら達者でナ」
(註:デビュー時の矢野さんは、
三橋美智也の「達者でナ」を
歌っていました)
みたいなこと言うからさぁ。
そりゃ俺だって。 |
坂本 |
(笑)不愉快(笑)。 |
糸井 |
子供の時にさ、そういうのが嫌でね。
群馬からさ、東京に行きてー、
だとか思ってたのにー、 |
坂本 |
(笑)! |
糸井 |
せっかく東京に来て、
ビートルズとか聴いてたら! |
坂本 |
矢野顕子がいいもんだって
みんな言ってる(笑)。 |
糸井 |
うん。どうなんだ、俺の立場は! みたいな。
で、みんなは、前から
「♪おらおら達者でナ」が
よかったみたいな顔してね、
素晴らしい! とか言うからさ。
もう、まいっちゃって。 |
── |
すごく否定したいわけですよね(笑)。
糸井さんとしては。 |
糸井 |
したいんだけど(笑)、
その、“うずまく”んですよ。
あのね、いっぱいあるんですよ、
“うずまく”もんって。
貸し本屋に入った時もそうだった。
昔の少年サンデー、マガジンていうような、
メジャーの雑誌にないマンガが
いっぱい書棚に並んでる。
抜くと汚い絵が描いてある。
でも、“うずまく”んだよ(笑)。 |
坂本 |
うん。 |
── |
汚いと言っちゃいけないんですよね。
簡単に言えないものがある。 |
糸井 |
そう。で、ちょっと勉強の
できない子が借り始めるんだよ。
で、おもしろいって言うから、
俺も見てみたい。 |
坂本 |
“うずまく”ね、それはね。 |
糸井 |
そうするとね、水木しげるが
もっと絵が下手だった時の
『墓場の鬼太郎』なんてマンガ
見てる時の自分てね、
見ちゃいけないような? |
坂本 |
それレゲエと同じだ。
うずまく、うずまく。
不愉快(笑)。 |
糸井 |
同じでしょ?
で、矢野顕子もそうなんだよ(笑)。 |
── |
矢野顕子さんもそうなんですか(笑)! |
糸井 |
だったのよ。
で、貸し本屋マンガに
自分が親しんでいくように、
もっとおもしろいものが
見えてくるんだよ。 |
坂本 |
ああ。 |
糸井 |
そうしたら、矢野顕子っていうのを
嫌ってる自分が、すごい小者に見えてくるわけ。 |
── |
すごい努力を強いる‥‥。 |
糸井 |
努力を強いるっていうのも変だけどねー(笑)。 |
坂本 |
時間かかってるじゃないですか、
やっぱり(笑)。
同じようなもんですよ、それは。 |
糸井 |
かかった。で、本人に会ってれば
もっと簡単だったんだよね。 |
坂本 |
うん。でも、会って幸せな人とね、
不幸な人がいるよね。
なんか、僕はさ、会っちゃうと、
きっと友達になっちゃうだろうなと思って、
なるべく会わないできてる人も
何人かいますけどね。 |
糸井 |
ああー。 |
坂本 |
誰かは言えませんけど(笑)。 |
糸井 |
なるほどね。 |
坂本 |
だってさ、会うとさ、
たいがいおもしろい‥‥、 |
糸井 |
たいがいおもしろいですよ。 |
坂本 |
なんですよね。 |
糸井 |
やだと思ってる人の方が、
おもしろいですよ。 |
坂本 |
でしょう? そうすると、
おもしろくなっちゃうとまずいんで(笑)、
会わない。 |