ゲストキュレーター長野 陽一（ながの よういち）

福岡県出身。
日本の離島、人々の暮らしをフィールドに
ポートレイトを撮る写真家。
国内外で個展やグループ展を開催するかたわら、
雑誌、広告、CM、映画などさまざまな分野で活躍中。

隠さずに、堂々と

――

このゴミ箱は、どういったものなんでしょうか。

長野

ブラバンシアは、オランダの家庭用品メーカーで、
このゴミ箱は「ペダルビン」といいます。
ペダルを踏むと蓋が開いて、
足を離すと静かに閉まるんですね。
うちでは、台所と洗面所で使っています。

――

色と大きさがちがう２種類なんですね。
まずキッチンのほうを見せてください。
こちらは、大きいし、
ふたつ並んでいてすごく存在感がありますね。

長野

燃えるゴミと、燃えないゴミで、ふたつ。
それぞれ容量が30リットルで、
高さもありますから、まあ、目立ちますね。
ゴミ箱って、特に台所では、
シンクの下とかに収納されがちだけど、
隠してしまえばすっきりするけど
使うときにいちいち引き出したり、戻したり‥‥
それってけっこう労力を使うんですよ。

――

うん。アクションが多くなります。
長野さん、そういうのお嫌いですよね。

長野

そうなんですよ。
捨てたら、すぐ次の作業に入りたいのに、
本来の機能じゃないところに手がかかる。
なんでこいつに気を遣わなきゃいけないんだ、
って腹が立ってくるんですよ。

――

ああ、腹が立つんですね（笑）。

長野

そもそも、隠すことを前提にすると、
キッチンをつくる段階から考えないとならないし、
大変ですからね。
ぼくはジャストサイズが美しいと思うので、
収納場所にぴったり入るゴミ箱を探すことになる。
造り付けなら、ゴミ箱に合わせて設計する。
どっちも、かなりエネルギーがいります。

――

たしか、最初は隠す方向で考えてたって、
おっしゃってましたよね。

長野

そうなんです。
最初はもう本当に見せたくなくて。
とにかく目立たないのがいいって思ってました。

――

それが、何かで変わったんですか？

長野

取材で海外の家なんかに行くと、
ゴミ箱を収納してる所ってないんですよ。
広い家だからできるんでしょうけど、
黒い、ウレタンでできた、いわゆる「ゴミ箱」、
外にゴロゴロ引いていくようなのが、
無造作にボンと置いてあることが多い。
そういうのを見ていて、
ただゴミ箱としてドーンと置いてあるのが、
一番正しい在り方なんじゃないかと。

――

そこで「見せちゃってもいいんだ」っていう
気づきがあったんですね。

長野

何でも見えないようにする、っていうことに、
ちょっと疑問を持つようになったんです。
そういうときにゴミ箱を探していて、
探した挙句、これを見つけたんです。
「隠す」っていう選択肢はなくなりました。

――

これならデザインがシンプルだし、かっこいいです。

長野

そう。堂々と見せることにしたんです。
このブラバンシアのゴミ箱は、
収納せずにボンと置いてあっても、
見たとき、イヤな感じがしないんですよ。

――

たしかに堂々としてます。
キッチンの中心、っていう感じですね。

長野

ただ、統一性を持たせるようにはしました。
冷蔵庫も、シンクやガスコンロも、ゴミ箱も、
全部ステンレスの感じでそろえたんです。

――

ああ、なるほど。
なんだかプロの厨房みたいな風格もありますよね。

蓋があって、捨てやすい

――

こんどは洗面所のゴミ箱ですね。
こちらは、ちょっと小さめ。

長野

これは12リットルっていう大きさですね。
最初、子どものおむつ入れに使ってたんですよ。
つまり、においをさせないため。

――

それ、重要ですね。
ペットのトイレの始末にも、よさそうです。

長野

においがもれないことが、機能として大事だったので、
その意味でも「これがいいね」ということで。
蓋が閉まっちゃえば、においはほとんどしないんですよ。
台所のも、同じ仕様ですから、生ゴミがにおわない。

――

蓋は、はずせないポイントだった。

長野

ぼくは、ゴミ箱は絶対、蓋がついてるのがいいんです。
で、また「これがイヤ」の話になっちゃうんですけど（笑）、
蓋にもいろいろありまして、
ただ乗ってるだけの蓋もあるんですよ。
それだと手で開けなきゃいけないじゃないですか。
それもイヤなんですよね。
このゴミ箱は、両手でゴミを持っていても、
ペダルを踏めば開いて、すぐ捨てられて、
足を離せば勝手に閉まってくれて、におわない。
この機能があって、見えるところに置いてあってもいい、
っていういろいろカバーしてくれるのって、
なかなかないんですよ。

――

手で触れるところが最小限、っていうのは、
衛生の面でも、うれしいですね。
オフホワイトの色もかわいいです。

長野

赤ちゃんのためだったから、これにしたんです。
ミルクっぽい色。
なんとなく優しそうじゃないですか（笑）。

――

はい（笑）。
大きさもかわいいですね。健気な感じ。
なんか、仕事してる感がありますね。

長野

はたらくゴミ箱みたいな感じで。
今は息子も大きくなったんで、
洗面所で普通のゴミ箱になってます。

――

赤ちゃんが中学生になったんですから、
もう、ずいぶん長く使ってらっしゃる。
丈夫なんですね。

長野

洗面所のも台所のも同時期に買ったんだと思います。
13年、14年くらい前かな。
その間に、デザインとか色とか
変わってる部分もあるみたいです。
たとえば蓋が、うちのはわりと平らなんだけど、
今のは、角がもっと丸くなって、
アールがついてるイメージなんですね。
シルエットが違うな、とは思うんですけれど、
でも、もしまたゴミ箱を買い替えるとしたら、
今でもブラバンシアを選ぶと思います。
すごくシンプルで、視界に入ってもイヤじゃない、
こういう佇まいって、なんか、いいんですよ。

――

はい。
ここで、長野さんの３つのアイテムの紹介が終わりました。
「いいものリレー」は、お次の方に
バトンをお渡ししていただきたいのですが、
どなたか推薦していただけますか？

長野

はい。何度か撮影でおじゃましている、
とてもステキなお宅に住んでいる方が
いらっしゃるんですよ。
きっと、おもしろいアイテムを
紹介してくれるんじゃないかな。

――

おー。たのしみです。
ということで、「いいものリレー」、
お次の方へ続きます。
長野さん、ありがとうございました。

（つづきます）