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糸井 |
小川さんは、お休みの日なんかあるんですか。 |
小川 |
休みは、そうですね……
「奈良の家に一日いる時」
というのは、年に二日ですね。 |
糸井 |
やっぱり休まないんですか。 |
小川 |
正月にうちにいるのは、
無理しているんです。
あともう一日は、
二日酔いで頭があがらなくて寝てるぐらいだな。
無理しているから、
正月の一日は長いですよ……
それでもう二日から現場へ行きますね。
現場にいるのが一番ラクです。
気が休まりますよ。 |
糸井 |
気が休まるんですか。
「休みたい」なんていう欲望はないんですか。 |
小川 |
ないです。
仕事をしている時が
いちばんリラックスしていていちばんラクですな。 |
糸井 |
きっとみんな、
そういう気持ちで仕事をしたいでしょうね。 |
小川 |
自分もようこんな
いちばんいい仕事に入っているなぁ、
とは思いますけど。 |
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糸井 |
小川さんは
仕事を選ぶ時に直感で
「いちばんいい仕事」とわかってたんですか。 |
小川 |
そうでしょうな。
高校の修学旅行で法隆寺の五重塔を見て、
千三百年前に建ったものだという
案内を聞いたときから
「どういうふうにして材木を運んできたのか」
「相輪(塔の頂上部)をどうやってあげたのか」
と考えているのが楽しかったですな。 |
糸井 |
その気持ちが
ずっと途絶えなかったわけですか。 |
小川 |
だから高校を終わった時に棟梁を訪ねました。
しかしその時にすぐ入れなかったのが
よかったんでしょうな。
ようやく弟子入りが認められたのは
それから丸三年経った
四年目の春でしたからね。すぐに入れたら、
それほどの思いがなかったんじゃないですか。 |
糸井 |
ちいさい頃からの念願が叶って
プロ野球選手になった人も仕事を休みますよね。
そういう意味では、小川さんみたいに
仕事がいちばんラクという人は
珍しいと思いました。 |
小川 |
そんなことないでしょう。
うちの弟子も毎日のように
夜の十二時過ぎまでやっています。
「十二時だから寝ろ」と怒るぐらいですから。 |
糸井 |
それだけ魅力のある仕事なんですね。 |
小川 |
合っている子は、
ひとつも苦痛ではないでしょうな。 |
糸井 |
ぼくも仕事は楽しいし、
社員も夜中までいますけど、
休み方を大事にしないといけないと
思いはじめていますね。
休みがなかなかうまく取れなくて
「ただ何もしない時間」
「きつくてもやり続ける時間」
のどちらかしかない循環を
何とかしたいのですが、小川さんの話を聞くと、
休みは、仕事の中に含まれているみたいですね。 |
小川 |
そうですな。 |
糸井 |
それ、俺もできないものかなぁ……。 |
小川 |
できないんですかな? できると思うよ。 |
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糸井 |
小川さんがテレビ番組で大工の仕事を
「楽しいけど家族との関係は難しい」
と言っていましたけど、
小川さんの家族との関係は難しいなりに
何とかなっているんですよね? |
小川 |
難しいでしょうなぁ。
もちろん自分は毎日が楽しいですけど、
家にいないから子供のことは何もわかりません。
家内もいろいろな点で
ちょっと……イヤすごく
不満があるんじゃないですか。
それがわかったのは最近です。
三十年ぐらい一緒にやって、ようやく。 |
糸井 |
それまで、気づきもしなかった? |
小川 |
うん。
はじめの頃にヨメさんを捕まえて
「おまえも弟子と同じように
教育してやればよかったな」
と言ったら
「私は弟子じゃない!」
と怒ったよな、ハハハハ。 |
糸井 |
(笑)それ、小川さんは、
親切のつもりだったんですよね。
おもしろいなぁ。 |
小川 |
仕事はおもしろいことであり、
日常生活のことでありと思っていたけど、
相手はヨメさんとして来ているんですからね。 |
糸井 |
そもそも小川さんは
なんでおヨメさんをもらったんですか。 |
小川 |
面倒くさかったんです、生活するのが。
それで、ヨメさんでももらおうかなぁと。 |
糸井 |
仕事以外の生活が、
ぜんぶ面倒くさかったんですか? |
小川 |
そうでしょうなぁ。
ずうっと仕事をしていた方がいいのに、
やっぱり飯作りをしなくちゃならないとか。 |
糸井 |
(笑)すごい結婚の理由だ。 |
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小川 |
結婚した当時、
ヨメさんの寝相がすこし悪かったんです……
悪いと言ったって普通の人と
同じぐらいでしょうけど。
西岡棟梁や俺はものすごく訓練しているから
ピクリとも動かんで寝ているわな。
それに比べたらよく動くように見えたんだ。
だからヨメさんに、
「ちょっと悪いけど、緊張して寝てくれ」
と言うて……そしたら
「私は緊張しては寝られん!」と。 |
糸井 |
(笑)そのセリフ! 理不尽な……。 |
小川 |
悪いこと言ったよなぁ。
自分は西岡棟梁に弟子入りをしたけど、
棟梁はものすごい偉い人だから
物音ひとつ立てずに生活するわけです。
布団も下に置いたら静かに伸ばして
そこにすべりこんで朝まで待つという寝方で、
俺もそういう寝方を学んだわけだから、
いまだかつて目覚まし時計で
目が覚めるということがないんです。
目覚まし時計が鳴る寸前で起きますから。
何時と言えば
すぐに起きるクセがありますので。
徒弟とはそういうものなんです。
棟梁と同じ生活になります。
まぁ確かに普通の人は
緊張して寝られないわな。
でも自分たちは
そんな毎日の中で仕事をするんです。 |
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糸井 |
聞いていると、
ほぼすべての時間を
仕事に充てているんですね。 |
小川 |
そう生活してきたから
それしかないです。楽しいよ。
大きなお金をあずかって、
自分の思う通りのものを作らせてもらって、
最後にみんなが
「ありがとう、ありがとう」
と言ってくれるんです。
それでごはんを
食べていられるわけですからね。
そうでしょう? |
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(明日に続きます) |