法隆寺はヒノキで作ったから千三百年持つのであって、
杉なら千年、松やケヤキなら六百年ぐらいでダメになったはず。
ヒノキの強さを知っていた古代人というのはえらいと思います。
日本の国に合うような建物を数十年のうちに一気に作りかえた。
大陸の技術をもとに日本なりの工夫をしたから、持ってるんだ。
そこが日本のいちばんすばらしいところだと思う。
小川三夫

第二回 休みは仕事の中にある
糸井 小川さんは、お休みの日なんかあるんですか。
小川 休みは、そうですね……
「奈良の家に一日いる時」
というのは、年に二日ですね。
糸井 やっぱり休まないんですか。
小川 正月にうちにいるのは、
無理しているんです。
あともう一日は、
二日酔いで頭があがらなくて寝てるぐらいだな。
無理しているから、
正月の一日は長いですよ……
それでもう二日から現場へ行きますね。
現場にいるのが一番ラクです。
気が休まりますよ。
糸井 気が休まるんですか。
「休みたい」なんていう欲望はないんですか。
小川 ないです。
仕事をしている時が
いちばんリラックスしていていちばんラクですな。
糸井 きっとみんな、
そういう気持ちで仕事をしたいでしょうね。
小川 自分もようこんな
いちばんいい仕事に入っているなぁ、
とは思いますけど。
糸井 小川さんは
仕事を選ぶ時に直感で
「いちばんいい仕事」とわかってたんですか。
小川 そうでしょうな。
高校の修学旅行で法隆寺の五重塔を見て、
千三百年前に建ったものだという
案内を聞いたときから
「どういうふうにして材木を運んできたのか」
「相輪(塔の頂上部)をどうやってあげたのか」
と考えているのが楽しかったですな。
糸井 その気持ちが
ずっと途絶えなかったわけですか。
小川 だから高校を終わった時に棟梁を訪ねました。
しかしその時にすぐ入れなかったのが
よかったんでしょうな。
ようやく弟子入りが認められたのは
それから丸三年経った
四年目の春でしたからね。すぐに入れたら、
それほどの思いがなかったんじゃないですか。
糸井 ちいさい頃からの念願が叶って
プロ野球選手になった人も仕事を休みますよね。
そういう意味では、小川さんみたいに
仕事がいちばんラクという人は
珍しいと思いました。
小川 そんなことないでしょう。
うちの弟子も毎日のように
夜の十二時過ぎまでやっています。
「十二時だから寝ろ」と怒るぐらいですから。
糸井 それだけ魅力のある仕事なんですね。
小川 合っている子は、
ひとつも苦痛ではないでしょうな。
糸井 ぼくも仕事は楽しいし、
社員も夜中までいますけど、
休み方を大事にしないといけないと
思いはじめていますね。
休みがなかなかうまく取れなくて
「ただ何もしない時間」
「きつくてもやり続ける時間」
のどちらかしかない循環を
何とかしたいのですが、小川さんの話を聞くと、
休みは、仕事の中に含まれているみたいですね。
小川 そうですな。
糸井 それ、俺もできないものかなぁ……。
小川 できないんですかな? できると思うよ。
糸井 小川さんがテレビ番組で大工の仕事を
「楽しいけど家族との関係は難しい」
と言っていましたけど、
小川さんの家族との関係は難しいなりに
何とかなっているんですよね?
小川 難しいでしょうなぁ。
もちろん自分は毎日が楽しいですけど、
家にいないから子供のことは何もわかりません。

家内もいろいろな点で
ちょっと……イヤすごく
不満があるんじゃないですか。

それがわかったのは最近です。
三十年ぐらい一緒にやって、ようやく。
糸井 それまで、気づきもしなかった?
小川 うん。
はじめの頃にヨメさんを捕まえて
「おまえも弟子と同じように
 教育してやればよかったな」
と言ったら
「私は弟子じゃない!」
と怒ったよな、ハハハハ。
糸井 (笑)それ、小川さんは、
親切のつもりだったんですよね。
おもしろいなぁ。
小川 仕事はおもしろいことであり、
日常生活のことでありと思っていたけど、
相手はヨメさんとして来ているんですからね。
糸井 そもそも小川さんは
なんでおヨメさんをもらったんですか。
小川 面倒くさかったんです、生活するのが。
それで、ヨメさんでももらおうかなぁと。
糸井 仕事以外の生活が、
ぜんぶ面倒くさかったんですか?
小川 そうでしょうなぁ。
ずうっと仕事をしていた方がいいのに、
やっぱり飯作りをしなくちゃならないとか。
糸井 (笑)すごい結婚の理由だ。
小川 結婚した当時、
ヨメさんの寝相がすこし悪かったんです……
悪いと言ったって普通の人と
同じぐらいでしょうけど。
西岡棟梁や俺はものすごく訓練しているから
ピクリとも動かんで寝ているわな。
それに比べたらよく動くように見えたんだ。

だからヨメさんに、
「ちょっと悪いけど、緊張して寝てくれ」
と言うて……そしたら
「私は緊張しては寝られん!」と。
糸井 (笑)そのセリフ! 理不尽な……。
小川 悪いこと言ったよなぁ。
自分は西岡棟梁に弟子入りをしたけど、
棟梁はものすごい偉い人だから
物音ひとつ立てずに生活するわけです。

布団も下に置いたら静かに伸ばして
そこにすべりこんで朝まで待つという寝方で、
俺もそういう寝方を学んだわけだから、
いまだかつて目覚まし時計で
目が覚めるということがないんです。

目覚まし時計が鳴る寸前で起きますから。
何時と言えば
すぐに起きるクセがありますので。
徒弟とはそういうものなんです。
棟梁と同じ生活になります。
まぁ確かに普通の人は
緊張して寝られないわな。
でも自分たちは
そんな毎日の中で仕事をするんです。
糸井 聞いていると、
ほぼすべての時間を
仕事に充てているんですね。
小川 そう生活してきたから
それしかないです。楽しいよ。
大きなお金をあずかって、
自分の思う通りのものを作らせてもらって、
最後にみんなが
「ありがとう、ありがとう」
と言ってくれるんです。
それでごはんを
食べていられるわけですからね。
そうでしょう?
  (明日に続きます)

←前へ 戻る 次へ→

2005-07-06-WED