つなげる仕事。
クリエイティブはつながらなくちゃ。

第1回 一気に仲よくなりたい


あなたはいま、どのような仕事をしていますか?

小説家のように
「最初から最後まで、
 すべてじぶんひとりのチカラで仕上げていく」
というタイプの仕事をしていますか?

それとも、
映画制作チームのように、
「必要とされる能力や技術に応じて、
 さまざまな人のチカラを集めて仕上げていく」
というタイプの仕事をしていますか?

おそらく、後者の映画制作チームのような
「チームプレーとしての仕事のやりかた」
を日々重ねているというかたが、ほとんどだと思います。
(ミーティングや打ち合わせと名前のつく時間がゼロだ、
 という人を、あまり見かけたことがないからです)

では、いいチームプレーとは、何でしょう?
また、ひとりでやるものではないチーム仕事を
おもしろく育てていくとは、どういうことでしょう?

それをわかりたい・・・そこでほぼ日は、
「人と人とをつなげるタイプの人」に
インタビューをしていきたい、と考えました。

おもしろいアイデアどうしを組みあわせて
刺激的なアイデアを生み出すクリエイターがいるように、
おもしろい人どうしを出会わせたり
ミーティングの雰囲気を作りあげることで、
チームに活気や連鎖反応を生み出す人がいます。

「あの人と一緒に仕事をしたいんだ」と、
誰もが思わずつながりたがってしまうような人。

あたらしい仕事のやりかたが、
その人のまわりでは、
もうはじまっているかもしれません。

そんな仮説をもとに、これから、
「つなげる人々」たちに登場していただきます。

最初に話をうかがうのは、
キリンビバレッジの商品開発部・佐藤章さんです。
ではさっそく、インタビューをお楽しみください。



(※キリンビバレッジの佐藤さん)


ほぼ日 キリンビールからキリンビバレッジに転籍された
佐藤さんは、チームづくりから企画をはじめて、
「ファイア」という缶コーヒーを誕生させました。
(※ファイアは、発売後4か月で
  3億本を売りあげた記録的なヒット商品)

キリンビバレッジ内部の志気をあげるだけではなく、
缶メーカーや飲料工場にもかけあって
従来とは違う飲料を作り上げたという
そのチームづくりの過程を
ぜひ伺いたいと思っています。
佐藤 ぼくのしている仕事は、
小説よりも映画に近いつくりだということは
言えると思いますが、チームでやる仕事なだけに、
それだけ結果を読めないということでもありますね。

だから、その時その時に
「これがいちばんいいな」
という答えが変わっていくと言ったほうが
仕事をする方法としては正確かもしれません。

「こっちのほうがおもしろくないですか?」
という提案ひとつで一気に現場に乗りが出て、
うまくいく気運が高まっていきます。
ぼくはそういう予定調和じゃない開発が
とても好きだし、おもしろいと思うんです。
チーム内のやりとりが高じてくると、
「そこでそんなアイデアを出されたら、
 こっちはもっとこういうものを出すぞ」
という楽しい競争になってくる。

バード・ビューというか、
「高い所に舞いあがって、俯瞰的に見て、
 どこにいちばんおいしそうな池があるの?
 実がある場所はどこなのか?」
を探すことが、まずはいちばん大切ですよね。

そして次は「神は細部に宿る」と言うか、
すごい細かな所でのすばらしいアイデアを
形にすることが好きな人たちと組んでいく・・・。

開発のおもしろさと完成度は、
そういったところに尽きると思っているんです。
ほぼ日 一緒に組んでチームをつくりはじめる時に、
佐藤さんなりに大切にしているのは
どのようなことですか?
佐藤 ぼくはイケイケドンドンの人間に見えますが、
割とねちっこいところがあるつもりなんです。
何に対してねちっこいかと言うと、
チームメイトとしては、
「理屈抜きでわかってくれる人だけ」を
最終的にはピックアップしているような気がします。

「説明はできないけれども、これはいけそうだ」
と思える人間が集まらなければ
うまくいく予感もまったく出てこないだろうし、
「これがいいんじゃないでしょうか」
と言った時に、説明的にではなくて、まずは
「好き嫌い」で話してくれる人が好きなんです。

「この場所にはもういちど旅にくるだろうな」
「ここにいる人とはうまくやれるだろうな」
とか、そういった予感があります。
だいたい、すごくいいなあと思う人は
その人なりの情報ネットワークがユニークだから、
話をしているだけで魅力的だし、すぐ仲よくなれる。

「あ、仲よくなろうっと」と決めたところから、
仕事のやりかたも決まっていくんです。
・・・仕事はいちばんいいものを目指すけれど、
オールオアナッシングでいこう、
冒険的に行くのだから、失敗しても「なしよ」だと。

お互いに「意味をわしづかみにする」というか、
ズバッと一発でわかってくれた人とは
ずっと仕事が続くんです。
「この部分はいいけど、でも・・・」
とかいうところからはじまったら、
アイデアの出しあいではなくて、
理屈の出しあいになってしまいます。
「それじゃあ開発の意味がないよ」と思う。

ぼくの開発の方法は、
帰納法ではなくて、明らかに演繹法なんです。
市場の動向から逆算すると・・・
というよりは、こうだ!と直感で
結論を決めたところからスタート。
そして、定住型ではなくて移動型です。
行った先々でいつも変わりたい。
ロゴを決めて仕事を進めるというよりは、
「ファイアは火なんだ」
「生茶は葉っぱなんだ」
とか、シンボルを出したくなる。
そして、ロジックに長けた人よりも
勘がいい人と仕事をやりたくなる。
ほぼ日 昔からそういう仕事のやり方を
されていたのですか?
佐藤 こうなるまでには苦い経験があるんですよ。

ぼくは30歳の頃から、
ビールの商品開発をしはじめました。
それまでは営業マンだったんです。

営業マンは
何を特技にしないといけないかというと、
「行間を読む」だとか、
相手の気持ちがいまどのような状態であるだとか、
いままでのしきたりはこうなっているということや、
日本人特有の「その場を読む」という技術・・・。

30歳になるまでの10年近く、
そういう世界で過ごしていましたので、
「ビールを作れ。開発しろ」
と言われた時には、妙に難しく感じたんです。

ぼくは、何をのぞまれているんだろう?
当時はまだ、何をやりたい、ではなくて、
「のぞまれていること」を一生懸命探していた。

市場の動向の調査の仕方がわからず、
それでも今までのやり方に
むりやり自分をあわせようとしていたから、
うまくいかない日々で・・・。
ちょっとノイローゼになりかけたり、
ノイローゼを解消するために
北海道をひとり歩きしたり。
こう見えてそんなこともしていました。

でも、そのうち、もう無理なものは無理だ、
と気づいたんですよね。
横文字だらけのマーケティングには
自分はぜんぜん向いていない。

「佐藤くん、この開発商品の
 クライテリアを決めておいてくれ!」
と言われたって、カタカナ語辞典を調べて、
「あ、クライテリアって優先順位のことか。
 ヨークシャテリアか何かだと思った・・・」
という素朴な状態でしたから。

とにかく、めんどくさいことを
無理してやることは向いていない。
だったら、自分っぽくやれる方法を
はじめてみたほうが、自分も楽しいし、
自分が不景気な顔をしていると、きっと
相手もつまらないだろうと思いました。
相手がつまらないなら、いい開発はできない。
そう思ってから、すこし楽になりました。

そうすると、少しずつ
「あなたの話は信じられるよ」
と言ってくれる人が出てくる。
しかもそれは、ぼくが無理矢理に
市場の動向にあわせた話を喋ったものではないから、
すごくうれしい一言になるんです。

こちらは嘘を言っていないんだから、
自分の言うことをきっちり実現したくなる。
そして、それをいいと認めてくれた相手を
裏切りたくなくなってくる・・・それは、
ぼくにとっては、好循環のはじまりでした。

(※佐藤さんの話は、次回につづきます。
  このページはみなさんの意見をくみながら
  人と人とをつなげることやチームワークについてを
  特集していきたいと考えております。
  「ここらへんに興味を持った」というような
  率直なご感想をいただけると、たいへん嬉しいです)

2002-04-12-FRI

BACK
戻る