つなげる仕事。
クリエイティブはつながらなくちゃ。
クリエイティブな仕事というと、どうしても
職人さん的なイメージを持ってしまいがちですが、
いまは、いままで以上につなげることが重要になってる。
チームの動きをできなくちゃ、大きいことはできない。

そんなことを話していたときに、
まっさきに思いついた人が、「ほぼ日」でもおなじみの
キリンビバレッジの佐藤章さんでした。
時間をつくってもらって、すぐに話を聞きに行ったのが、
この企画の第1弾になりました。

第2弾は、いまほぼ日で流行中の
『木のいのち木のこころ』全3巻に学ぶ、ということ。
つなげる仕事にも「名人芸」って、あるのでしょうかねぇ。

第5回 老馬の智。



中国の故事成語に

「老馬の智」という言葉があります。



春秋時代の君主たちが、討伐の帰路に

迷って道がわからなくなった時のこと。

「この老馬の知恵をもちいるのがよいだろう」

と、老馬を放って、そのあとに従っていくと、

やがてほんとうの帰路を見つけるに至ったのでした。



老馬は、地形に関する豊富な経験を持っている。

君主たちが、経験がすくない自分の無知に気づかぬまま、

経験の多い老馬の知恵に気づかないままだったならば、

老馬の選んだ道には従わず、

自ら選んだ道を選び、迷いつづけたはずでしょう。



そのことから転じて、

「経験の少ないものは、誰が経験の多い

 知恵ものかを判断できないにもかかわらず、

 ともすれば自己の選択が最善だと思いこむ。

 しかし、無知を自覚して

 他人の選択を吟味する者こそ、知恵者なのだ」

これが、「老馬の智」という言葉の意味になっています。



老境に達してみなければ

わからないことは、たしかにあるかもしれません。



『木のいのち木のこころ』

のすごいところは、実はこの、

「まだ自分のわかっていないところ」

なのではないかと、このコーナーをつくる

ほぼ日スタッフとしては、感じているのです。



「わからないこと」とは、

どういうことなのか、と言いますと……。



『木のいのち木のこころ』が時代をかさね、

2巻目3巻目になるにつれて、

理解度は、非常に高まってきます。

実際に働きだしている人にとっては、

多くの言葉は、直に響いてくることでしょう。



しかし、最初の棟梁の

西岡常一さんの持っている関心だけは、

「いいものは、いい」ということから一歩超えて、

まさに老馬の智とも言うべき、

自然と人間との関係について、

本のなかのものすごい量を割いて語っているのです。



これを読んでいるかたや、

もちろん書いている側は、ほとんどの人が、

まだ、はっきりとした「老境」ではないと思います。

西岡さんは、本を記した時点で85歳。

この年齢差と、捉えていることの差が、

とても気になるのです。



自然に関して、かっこいい言葉ならば、

どんなに若い人でも言えることでしょう。

しかし西岡さんも、若い頃は、

おじいさんから何度も言われたことがわからなかった。

そして、自然について語ったすぐあとに、

「今まで説教してきたけれど、

 それをまねたらあかん。

 自分自身が生きていくんやから、

 自分自身で悟らないかんということでしょうな。

 そういうふうに

 自然を悟れということでしょうな」

と、実感のないきれいごとを、嫌っています。



この「つなげる仕事」西岡常一さん篇は、最後に、

ある程度老境に達してみないとわからないかもしれない

西岡さんの自然についての言葉を、引用したいと思います。

そして、この言葉は、

どこかで「つなげる」ということに

関係しているのではないでしょうか。







(※『木のいのち木のこころ・火』より)



自分だけで

勝手に生きていると思っていると、

ろくなことになりませんな。

こんなこと、仕事をしていたら

自然と感じることでっせ。



本を読んだり、

知識を詰め込みすぎるから

肝心の自然や

自分の命がわからなくなるんですな。

知識はあまり植えつけんほうがいいと思いますな。



仏の教えのなかには、

あらゆる世の中の現象は

人間の心のなかに納められている、

人間の心もまた自然のなかにある、というてますな。







もしかしたら、またいつか、

ほぼ日でこの本について触れるかもしれません。

今回のシリーズでの紹介は、ここまでにいたします。

読んでくださって、ありがとうございました。




(「つなげる仕事」第2シーズンおわり)

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2002-07-19-FRI

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いままでのつなげる仕事。
キリンビバレッジの商品開発部・佐藤章さん
2002-04-12 第1回 一気に仲よくなりたい
2002-04-22 第2回 おもしろい人どうしが、つながっている
2002-04-24 第3回 「ファイア」は最初の志なんです
2002-04-26 第4回 仕事の方法が変わってきている
2002-04-28 第5回 わたしも、つなげる仕事をしています
『木のいのち木のこころ』法隆寺宮大工棟梁・西岡常一さん
2002-07-15 第1回 仕事は、「してもらう」もの。
2002-07-16 第2回 darlingの談話。
2002-07-17 第3回 意志をつなぎ、仕事をつなげる。
2002-07-18 第4回 仕事の結果に学ぶ、ということ。