つなげる仕事。
クリエイティブはつながらなくちゃ。

第4回 仕事の方法が変わってきている


キリンビバレッジの佐藤さんのお話を
ひきつづきうかがっているところです。

「商品開発チームをどう機能させるか?」

・・・今回特集する話題は、
このインタビューのキモにあたります。
「ドイツのギルドのような仕事のしかたがいい」
と佐藤さんはおっしゃるのですが、
それはなぜなのでしょうか?

「つなげる人々」というタイトルどおりの
インタビューになっていきますので、
ぜひ、じっくりと読んでみてくださいませ。





(※キリンビバレッジの佐藤さん)



ほぼ日 ファイアの開発チームが
一丸となって商品化に向かうことのできた理由は、
どこにあると思いますか?
佐藤 それは、はっきりと答えられるのですが、
「商品開発の従来のツリーを壊したから」です。

ふつうは、
メーカー(キリンビバレッジ)があって、
飲料の担当、容器を作る担当、
広告担当、営業担当、問屋担当、小売担当などと、
すべて細かい縦わりの中で作られるんです。

例えば広告担当は、代理店を通して
クリエイターやメディアへの関わりを決める。
そしてその情報はメーカーに伝わるのみで、
飲料や容器や小売にはその情報があまり伝わらない。
でも、お客さんにとってはそうではないですよね?
テレビでCMを見ることも、
お店でジュースを買うことも、
缶のデザインや味を楽しむことも、
すべて連動してひとつの商品への評価になるはず。
そして、いちばん大切にするべきなのは、
まさにその、お客さんにどう手渡されるか、
ということになるはずでしょう。

だからファイアの開発に関わる人たちについては、
縦わりの役目分担システムをやめました。
「お客さん」対「チームファイア」。
それで十分なはずです。
だから、ファイアづくりに関わる人は
全員がフラットな関係にしていきました。
一律に決まっているツリーの組織を壊して、
アメーバ状の、その時々にあっちにいったり
こっちにいったりするような組織にしたのです。

缶メーカーでファイアに関わる人は、
「チームファイアの缶責任者」です。
ここで大事なのは、例えばこの缶メーカーの人が
「こういう缶で作りたい」と自社に説得に行く時に、
かならずチームの中の違う分野の誰かも
一緒に行ってプレゼンテーションをすることです。

去年夏の参議院選挙でも、小泉さんが応援したら
議員さんは当選しちゃうじゃないですか。
そういうことが大事なんですよ。
容器の会社の人も上に話を通しづらいような
冒険的な容器だったわけです。
だけど、そうしなければいけない理由がある。
だったら、容器メーカーに、
ぼくたち商品部の人間やデザイナーが
一緒についていって、
「どうしてもこの容器にしたいんですよ」
「こういう画期的な製法で容器を作ると、
 きっと今後評判になって
 ほかの仕事もくると思いますよ!」と、
きちんと提案することが必要なんです。
容器メーカーの上司も事情がよくわかるし、
自分の部下がファイアのチームのなかで
かなり重要な役割を果たしたことも耳にする。

それぞれのチームメイトが属している組織に
みんなでアメーバのようにぐにゃっと移動して
プレゼンに行くことは、
すばらしい効果をあげましたよ。

直接マメに火をあてる案が出た時にも
その設備を飲料担当の人とぼくたちが
一緒に見にいって、ビデオを取ったりして
すぐにデザイナーに「直火仕上げ」とか
実際にビジュアルイメージを作ってもらって、
こういう風な効果が出るんですという様子を
飲料担当の人の所属する会社に見せる。
やはりそこの上司は
「おぉ、気合いが入ってるなぁ。
 だったら、乗りましょう」となる・・・。

こうやってそれぞれの担当の人が
チームの内部を車輪のようにまわる組織だと、
ひとつのところで問題が起きた時に
柔軟に対応できるんです。
そして、風通しがいいから提案が出やすい。

スティービー・ワンダーさんが
テーマソングを作ってくださったのも、
チーム内の相互作用から生まれたことでした。
アートディレクターと何度も何度も
丁寧に話しているうちに、
「この人、おもしろいですよ」
と映像プロダクションの社長を
チームファイアに連れてきてくれたんです。
その方が「スティービーにたのんでみようか」と
言ってくれました。

CMの曲なんて作らないと言っていた彼に
手紙を何度も書き、チーム一丸となって、
「これは商品を売るための歌ではないんです。
 落ちこんでいる日本人のひとりひとりの
 心に火をともしたい。あなたを待っているんです」
とコールする。

そこで、
「これは日本のお祭りのようなものなんだ」
とスティービーさんもわかってくれたんです。
日本人の心をよくするために参加するなら曲を作る、
ということで、作曲の話が通った。
ほぼ日 縦わりから、
フラットで協力しあう組織に変えたことが
ほとんどすべての局面に
ものすごいいい効果を生んだんですね。
佐藤 はい。ですから、その後の
生茶や聞茶のチームでも
このやりかたを実践しています。
ただ、ぼくはこういったチームのやり方が
「会社のすべてをそう変えましょう」というほどの
決まりにしてしまわないほうがいいと思うんです。

義務でフラットにするのではなくて、
やりたい人がフラットな組織を勝手に作って
「俺もこういう商品を作ったよ」
と次々にローリングをしかけるほうがおもしろい。

ぼくのような平民たちが頑張っちゃった結果が
全体のコミュニケーションに昇華していくという、
そういうボトムアップ方式のほうが、
きっと、いいのではないかと感じています。

ぼくはビールの開発をしている時に
ドイツのギルド社会を知りました。
(※ギルドとは、中世のヨーロッパで発達した
  職人どうしの互助組合であり、当時の
  都市の商業や行政の実権を握っていました)

これからの仕事は、ギルドのような形態に
なっていくのではないか、と思います。
ほぼ日 それは、
「手に職のある人どうしが寄りあって、
 対等に仕事をしあう」
という意味ですか?
佐藤 はい。
つまり、自分の腕は職位なのだから、
どの会社にいっても通用するという
誇りを持つことができますよね?
会社を変わるたびに技術もあがり、
ステータスもあがっていというか。

このやりかたをしていくと、
秘密主義ではなくなるんですよ。
「俺の持っているワザはこれだよ」
と明確に伝えるから、
マネしたり意味なく隠したりするのは
とてもかっこわるいですよね?
それぞれの人がそれぞれのワザを生かしたり
磨いたり、主張したりする・・・。

ある会社やある地域だけに埋もれていた才能が、
いろいろな場面で生かされるようになれば、
ほんとうにすばらしいですよね。
できればそれがビジネスになれば、
それぞれの職能が、必要な時に必要なだけ、
十分に生かされるはずです。

トップクリエイターたちと仕事をしていると、
実はその変化は、もうすでにはじまっていることを
ことあるごとに実感する機会が多いですね。
若い人と仕事をしていても、
そういう精神が浸透しはじめていることを感じる。
組織の縦わりがすでに崩れている様子は
「あとは表札のかけかえをいつ現状にあわせるか」
というぐらいの状態になっていると思います。

だから、フラットにやりたいのにやれないと
思っている若い人がいたとしたら、
大切なのは、変に開き直ったりスネたりしないで、
遠慮せずにやりはじめることではないでしょうか。
中にはわかってくれるオトナたちもいるし、
そういう奴・・・自分のことだけを
考えているのとはちょっと違うんだけど・・・
その気になって頑張っている奴を見ると、
助けたくなるのが人の常だと思いますし。

いまは分野を問わず、役職という意味ではない
ほんとうに才能がトップレベルの
「ひとかたまりの人たち」だけは
そういうやりかたで仕事を革新的に進めています。
だったら、ぼくは、そのひとかたまりの人たちと
なるべく多く仕事をする機会を持ちたいんです。

テーマはその時々でいろいろ違っていいので、
そのつど
「お客さんに好意を持ってもらうような
 すばらしい商品を作るにはどうすればいいのか」
を必死に考えていけば、
答えが見えてくるはずですよね。

たとえば、
飲料とアルコールの境界もなくなってきたし、
格闘技のトレーナーが
野球選手のトレーナーもやっているわけだし、
すべてにおいて垣根がはずれつつありますから、
なんか、おもしろい時期ですよ。
ほぼ日 1つの飲料を開発するのには、
どのぐらいの期間がかかるものですか?
佐藤 コンセプトの骨格は一瞬でできます。
「コーヒーか・・・ファイアだ!」
というのは、だいたい半日ぐらいでした。

「生茶」にしても、ぼくは常にそれまで
刺身、生ビール、生菓子といったような
日本人の好きな商品にあやかって、
「お茶か・・・生があってもいいじゃないか」
これも、一気にできたコンセプトです。

コンセプトの中のいちばん濃いエキスは
そうして一日とか一週間でできるのですが、
それをきちんとふくらませて、商品化しても
強いコンセプトのまま一貫して残せるか、
ということを考えたり調査したりすることに、
だいたい3か月ぐらいかかるんです。
そして今度はフィーズビリティースタディといって
コンセプトの原石の美しさを最終形に残しながらも
一般のお客さんが一瞬でわかるものになっているか、
採算が取れるか、大量に作れるかなどを
検証することに半年ぐらいかかりますね。

ですから平均して、
合計9か月ぐらいかかるというか。
もちろん途中で案がつぶされたり
失敗したりするはじめの一歩に戻るから、
それを商品化するには、また9か月かかる。

商品化の途中になると、もちろん
安全性や効果や効率や予算といったことには
かなりきちんとこだわりますけれど、
開発に着手するスタートラインの時には、
なるべく楽しいところからやりたいなぁ、
と思っています。

生茶や聞茶のように、
さまざまな現場に行ってほんとに
いちばんおいしいものを探すという
おもしろさを追求する場合もあれば、
「アミノ酸は元気になるんだよ!」と、
まるで遊びのようなアイデアを生かすことを
みんなで考えていくだとか・・・。

理屈っぽいことを言いすぎたり
発想をストップさせようとするような
変な異分子を入れないで、
好きなことだけを貫く力が強ければ強いほど、
一緒に商品を作る若いクリエイターは、おのずと
志しの高いクリエイターになっていきますよね。
ある種がんこで、ある種無邪気な、
そんな人たちと仕事をしていきたいなぁと思います。

 ※佐藤さんへのインタビューは、
  いったんここで終了いたします。
  次回日曜日更新のこのコーナーでは、
  みなさんからの反響メールを特集しまーす。
  
  あなたにとって、チーム仕事をするうえでの
  何らかのヒントが転がっていたでしょうか?
  「つなげる仕事」佐藤さんインタビューへの感想を
  postman@1101.com
  こちらにいただければ幸いです。 (メリー木村)

2002-04-26-FRI

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