友森さんと、光のない世界。
友森玲子さんは、
動物愛護団体ランコントレ・ミグノンの代表です。
ミグノンにはいろんな動物がやってきます。
友森さんは、動物愛護相談センターから、
ひきとり手を見つけるのが
ちょっと難しそうな動物たちも保護してきます。
そのためミグノンにはこれまで
いろんなキャラクターの動物たちがいました。
たとえば、
後ろあしが動かなかった、まわるくん。
お年をかなりめしてやってきた、ふわりちゃん。
迷い鶏の鳥男やモルモットのわけめちゃん。
カブトムシの高木。
年老いていても、からだが不自由でも、
あたらしい家族に出会う子たちがたくさんいました。
友森さんによれば、
そういう子たちのほうが早くもらわれる
傾向もあるのだそうです。
動物と一緒に暮らすことは、
世話をしたり看取ることも含めて
「自分とはちがう世界をもつものと空間を共有する」
という感覚を味わうことなのかもしれません。
そんな気持ちの流れで、自然と、
ハンディキャップがある動物や
年老いて世話が必要な動物とも
いっしょにいたくなるものかな? と思い、
ちょうどミグノンにやってきた、
目のない猫きょうだいに、会いにいってみました。
2匹に会う前に、
ミグノンの紹介ページを見てみました。
このようなことが書いてありました。
「目がない以外はいたって健康で
フレンドリーな2匹です」
「ヒモ遊びも大好き。
目が見えないので最初ゴハンや水皿に
ダイブしていましたが、
置き場所を決めたらあっという間に覚えて
避けて降りるようになった天才」
ミグノンに到着して、
カメラをかまえて近づくと、
気配がわかるのか、スッと寄ってきます。
なんだか、とってもやさしそうな
愛嬌のある猫たちです。
友森さん
「たとえば、以前ミグノンにいた犬のにじりちゃんは、
去年の8月にあたらしい家族に出会って
卒業していったんですけれども、
お手々が動かなくても、
車いすをつくってもらったりして、
たのしく暮らしています。
みんな、ほんとうにいい家族にもらわれていきます。
この、猫のポロリとコロリは、
多頭飼育の家にいて、
生後4か月くらいの時点で保護しました。
ミグノンに来たときは、まだ目はありました。
ある日、茶トラのコロリの眼のレンズが、
ぽろっと前眼房へ落ちてしまいました。
目の内側の角膜の裏側にレンズがあたって
炎症をおこして腫れてしまい、
とても痛い思いをさせました。
熱も出て、ごはんも食べられませんでした。
レンズをもとに戻す手術をすべきかどうか、
知り合いの眼科の専門医に相談しました。
『これはおそらく多頭飼育の結果の
近親交配の遺伝的な問題で、
もともと構造異常がある可能性が高い。
片目に症状が出たけれども
必ずもう一方も炎症を起こす。
視力もほとんどないはず』
という応えでした。
『もしも私の猫だったら、見た目はかわいそうだけど、
眼球ごと摘出して痛みを早く取ってあげると思う』
と教えてくれたので、
思い切って2匹とも、眼球を摘出することにしました。
それまで視力がほとんどなかったといっても、
全盲にいきなりなるのは衝撃だろうから、
最初は2匹とも1段づくりのちいさなケージに入れて
慣らしました。
そのうちよじ登ったり飛び降りたりするようになり、
狭い通路もサッと頭を下げながら
走っていけるようになりました。
見えていないのに、
いろんなものにじゃれて
さかんに遊んでるようすもありました。
だから私は、何か勘違いしていたのかな、
と思いました。
人間にとって、目は、
本を読んだり風景を見たり、
いちばんのたのしみの基だという
意識がありました。
だから猫たちが見ることができないのは
かわいそうだと思っていました。
でも、観察しているとなんだか違う気もする。
自分も家で実験をしようと思いたって、
時間があるときに、
目をつぶって過ごしてみることにしました。
家の中なら配置がわかりますし、
壁を伝って歩くこともできます。
足音もよくわかって、
『家族がうろうろしてるな、トイレかな』とか、
『いま猫がポンと降りて走っていったな』とか、
いろんなものの動きや位置関係もわかりました。
あとね、目をつぶってごはんを食べると、
ものすごくおいしいんですよ。
やってみたことあります?
食べものを口に入れて、噛むときに目をつぶると、
味や香り、食感、温度を
たいへんよく感じることができます。
それから、うちの猫を
目をつぶったままだっこしてみました。
すっごくやわらかくて、
ほんとうにつるっつるの毛で、
『ふわふわじゃん!』と感激しました。
そのまま目を閉じてなでていると、
頭で猫の形がイメージできて、
『うちのねこ、こういう形をしてたんだ』ということも
すごくわかりました。
あの猫たちは
ボヤンと漠然とした世界で生きていない。
すごくはっきりした世界で生きてるんです。
見えないことによって、
私たちとは違う、豊かな生活をしている可能性がある。
実感していることがたくさんある。
そう思いました。
かわいそうなんかじゃなく、
むしろ私にいいことを教えてくれたな、という感じで
2匹を見るようになりました。
目が見えてなくても生活には支障ないので、
お店の中に放したら、
チワワのタマオちゃんのおむつを
コロリが脱がせてしまいました。
タマオがキャンキャンと悲鳴をあげながら逃げたら
コロリがすごくうれしそうにひっくり返って、
おむつをケリケリしていて、
ふたたび追いかけておむつを脱がすから(笑)、
見えてなくても、ものすごい遊びができるんだなと
感心しました。
ケージの中で、上から下にいるねこを
ペンペンしてじゃれることもあります。
ほかの猫がちょっとしっぽを立てただけで
チョイチョイする。
目を取ったらこの子たちは
もらわれないかもしれないな、と思ったけど、
きっとそんなことない。
この、独特のいい世界で生きている猫と
暮らしたくなって、
『ぜひうちに』と言ってくれる人がいると思います。
ほんとうにほかの子より
先に決まっちゃうかもしれない。」
(つづきます)
2018.08.17 FRI