動物は気にしてない。
目のない2匹の猫は、
自分たちとは違う豊かな生活をしているようです。
そして、はっきりと実感のある世界で生きている。
そんなふうに、友森さんは
2匹と過ごして気づくことがたくさんあったそうです。
友森さん
「ものは眼球を通して見えるんじゃなくて、
注意を向けるということ自体が、
見るということなんでしょうね。
だからきっと、目玉はあまり関係ないんですよ。
この2匹は、
ゴハンもお水もじょうずに摂るし、
トイレも失敗しません。
狭いところもちゃんと伝って歩く。
むしろきょうだいの、両目が見えてる子のほうが
あしをふみはずして落ちたりするから、
運動神経がいいんじゃいなかぁ。
ほかのきょうだいはシャム柄なんですが、
みんな何度も目の検査をしました。
けれども異常はありませんでした。
この2匹のトラ柄だけが、
目が見えなくなってしまった。
でも、それがかわいいんだと思います。
ふつうの猫を飼うより、たのしみが
何倍にもなるかもしれませんね」
一緒に暮らすにあたって、
気をつけることはありますか?
「家具や食器の配置を記憶するから、
無許可で模様替えをしないこと、かな?
2匹への許可取りはね(笑)、
『これをこの場所に変えたよ』って、
連れてっていっしょに確認するといいと思います。
目はないけど、とても積極的で明るい子たちです。
完全に見えなくなったら
前向きじゃなくなるかな、と思っていたけど、
ぜんぜん変わりませんでした。
だから、新しいおうちにもすぐに慣れると思います」
こうして短時間いるだけで、
彼らが見えていないことが気にならなくなりますね。
こっちがなじんでいく、というか‥‥。
「いろんな選択肢がある状況で
動物と暮らすことになったとき、
もしもこういう子たちを選べたら、
より自分と違う世界観を学べると思います。
動物と暮らすたのしみってなんだろう?
と考えたとき、
まず私たちには「お世話をしたい」という
欲求があると気づきます。
でもそれは、子どもや人間の家族でもいいことです。
そこでなお、別の動物と暮らすことを選択する理由は、
やっぱり、自分とは違うものと一緒にいたいという
欲求だと思います。
ハンディキャップのある子が人気なのは、
むしろ自然なことなのかもしれないと思います。
猫ってね、目がかわいいと思ってたんですけど、
目がなくてもほんとにかわいい。
目があったところのくぼみがかわいい」
目のないコロリとポロリのほかに、
この日のミグノンにはたくさんの犬猫がいました。
そのなかに、センターからやってきたばかりの、
はだおくんがいました。
「これが今日の新入りです。
今日は愛護センターに3頭の老犬がいて、
そこから選ばなきゃいけなかったんですが、
いちばん難しそうなこの子を出してきました。
今年の夏は暑いし、これなら涼しそうでしょう?」
毛が、うすい‥‥んですよね?
「まだ検査してないからわからないんですが、
ブルーの被毛部分だけ脱毛する疾患があるんです。
トリミング代もドライヤーの時間も節約できるし、
胸のほうの毛はほんとうにふさふさしてますから、
つるつるとふさふさ、両方たのしめますよ。
性格がほんとうにかわいいから、
この子も早めに家族が見つかるんじゃないかな」
不自由や病気があったり、高齢で、
家族を見つけるのが難しいのかな、という犬や猫は
どういう人たちにもらわれていくんですか?
「こういう子たちは、たいていそろって、
ほんとうにいいおうちにもらわれていきます。
運があるのか、魅力があるのか‥‥または、
家族になったあとに結びつきが強くなるから、
ということもあるのかもしれません。
いまちょうどそこにいるクキくんも、
後ろあしが脱臼か骨折していたのを
放置されていたみたいで、
関節がはずれたままになっていました。
うまく立てなかったので、手術をして、
脚が曲がった状態で歩けるようになりました。
ずっともらわれずにシェルターにいるかな、
と思っていたら、
『前に家にいたビーグルに似てる』と、
譲渡を申し込んでくれた方がいました。
術後リハビリしている段階で譲渡したんですが、
一所懸命やってくれて、
筋肉が左右対称について
どんどん歩けるようになりました。
すごく大切に飼ってもらっています。
特別なケアが必要だということは、
飼い主さんとの結びつきを
強めることになるのかもしれません。
あとね、なんていうのかな、
目が見えなくても、後ろあしが伸びなくても、
動物はそんなの気にしてないんです。
元気でいれば、どんどん性格がすばらしくなります。
いろんな身体トラブルを抱えた保護動物は
これまでたくさんいましたが、
そういう子はみんなもらわれました。
最初にお話したにじりちゃんは、
両手首がくにゃくにゃで踏ん張れないので
手首の骨で、出血しながら歩きました。
だからミグノンでは保護マットを
敷き詰めていたんですが、
にじりちゃんを迎えたおうちは
おんなじマットを買ってくれて
「喜んで歩くようになった」という報告がありました。
車いすをつくったりどんどんお出かけしたり、
犬といっしょに工夫するのを
たのしんでくれているように思います。
エイズの猫もいたけど、みんなもらわれていきました。
みんな、トラブルがあったら
まめにここに連れてきてくれて、
すごく大事にしてもらっているのがわかります。
ハンデがある子の魅力に気づく人が、
もともと動物をよく見られる人である、
ということもあるかもしれませんね」
なるほど。
友森さんの話を聞きながら、
私は「にじりちゃん」の家族に
会いたくなってきました。
聞けば、にじりちゃんの前は、
片目のないキャバリアの老犬を
引き取ったら人たちらしい。
いったいどんなご家族なんだろう。
友森さんが連絡を取ってくれることになり、
この日はミグノンをあとにしました。
そしてまた、
私の頭にもうひとり、
別の人の顔が浮かんできました。
それは、メンマのとーちゃんです。
「ドコノコ」で「メンマンガ」を連載している、
そうです、森川幸人さんです。
(つづく)
2018.08.18 SAT