メンマのとーちゃん。
前あしにハンディがあるワンちゃん
にじりちゃんのご家族に連絡を取りつつ、
「メンマのとーちゃん」の
森川幸人さんにお会いすることにしました。
ほぼ日では
「メンマンガ」でおなじみのメンマですが、
後ろあしが動かず、排尿排便が
調節できない女の子の猫です。
夜中に狸に襲われていたところを森川さんに発見され、
いっしょに暮らすことになりました。
森川幸人さんはグラフィック・クリエイター。
主な著書に『絵でわかる人工知能』や
『マッチ箱の脳』などがあります。
ほぼ日は創刊当初からお世話になっていて、
「猫が好きな人」という印象はありました。
怪我をした仔猫のメンマが
森川さんの家のすぐ近くで発見されたことを知り、
「猫が好きな人の近くでそんなことが起こるなんて」と、
その経緯をもっと訊いてみたくなったのでした。
メンマの写真は「ドコノコ」のブックで
たくさん見られます。
そもそもメンマの後ろあしが動かなくなったのは、
狸のせいなんですか?
森川さん
「結局はわからないんです。
夜中に緊急で病院に連れていったときは
まだあまりにもちいさくて
レントゲンが撮れませんでした。
だから原因はわからないままなんだけど、
たぶん、骨折です。
腰椎と脊髄のあいだに出っ張りがあるんで、
そこが折れてるんだと思います」
出会いは生後どのくらいだったんですか?
「先生の見たてでは3週間。
まだミルクをやんなきゃいけない時期です」
最近、東京でも狸やハクビシンが
猫を襲う話を聞きますが、メンマも
狸が食べようとしてたんでしょうか。
「たぶんそうでしょうね。
でもね、うちはわりと都心なので、
まさか狸が出るなんて思ってませんでした。
家のすぐ外に狸がいて、
『わ、狸だ! 写真撮りたいな』
なんて思っていたらスーッと逃げちゃった。
そのあとに黒いのが転がってて、それがメンマでした」
森川さんは、以前も猫といっしょに暮らしていたと
うかがったことがあるのですが。
「はい。もう6~7年前になります。
前の猫が亡くなったあと、
保護動物の里親にならないかと、
みなさんに何度かすすめられたのですが、
しばらく動物を飼うのはよそうと思っていました。
だから、メンマと出会うまでは
猫と暮らす気なんてぜんぜんありませんでした。
子どもの頃から実家にずっと犬や猫がいて、
動物の生き死には経験していたし、
寿命が来たら逝くということにも慣れていたから、
自分はまさかペットロスにはならないだろうと
たかをくくっていました。
でも、前の猫を自分の手の中で看取ったとき、
けっこうショックで、
『俺、こんなことで落ち込むんだ』と驚きました。
これはちょっとマズいと思って、
これ以上経験するのはやめようと思っていたんです」
そんなときに、メンマが現れて‥‥。
最初に瀕死の怪我からはじまったので、
きっと考える余地なんてなかったですよね。
「ないです。まったく余地はありません。
病院に行って処置をしてもらったあと、
『保健所に連れてくか、飼うか、どっちにします?』
って訊かれるんですよ。
保健所で里親が見つかることもあるでしょうけど、
保護できる期間が短いらしいので
下半身不随の猫がもらわれる可能性って、
もう、誰が考えても低いでしょう。
自分が家に連れて帰らないと、
この子の命が終わってしまう。
迷うとか計画するとかいうことはありませんでした」
メンマのあしが治るめどはあったんですか?
「発見したときからありえない方向に曲がっていたし、
つねっても反応がなかったので、
下半身が不随なのは最初からわかりました。
緊急の救急センターの先生は、
治るかどうかはわからない、とおっしゃっていました。
そのあとすぐに
かかりつけのお医者さんを決めて訊ねたら、
『おそらく無理だろう』という意見でした。
ミグノンさんで鍼治療もやってもらったけど、
歩けるまではぜんぜんいきません。
オシッコをしている感覚がなく、垂れ流しなので、
最初はシートを部屋じゅうに敷きつめて
生活していました」
そこからはもう、
ウンチとオシッコとの‥‥。
「闘いですね。
これはいまももちろん続いていて、
『この方法でOK』という結論はありません。
ふつうの動物用のオムツとは流す方向が違うので、
オムツもメンマ用に改造しなきゃいけません。
そもそも引きずるから脱げちゃうし。
メンマのオムツは、動物用のオムツに、
人間の生理用品を貼りつけて自作しています。
1回のオシッコの量がだいたい16cc、
1日3~4回するので、
1日のめやすは40~50cc。
最悪1日1回しか替えられないこともあると考え、
生理用品はパッケージに吸収量が書いてあるので、
そこから計算してつくります。
俺、改めて自分がかなり理科系だなと思いました」
やっぱり完全に理科系ですね(笑)。
じゃあ、オムツはぜんぶ手づくりなんですね。
「ぜんぜん正解は見つかってませんけど、
手づくりです。
ヒマがあるときにいっぱいつくって、
いつもキープしています。
ほんとに、通販がある時代でよかったです。
毎週のように生理用品を
買いにいくおっさんって‥‥(笑)」
あ‥‥そうですね、人間は月に1回ですが、
メンマは毎日ですもんね。
「自分が仕事上、不規則な生活をしてるので、
夜遅くまで帰れないこともあります。
どのなかで、どういうタイミングでオムツを替えるか、
いっそオムツはやめるか、
そうすると床をどうしよう、
いろんな組み合わせをひと通りやりました」
森川さんがTwitterかインタビューかで
1日1日をたのしくやっていくという意識で、
とおっしゃっていたのがとても印象的でした。
「最初は3時間おきに授乳しなきゃならなかったので、
それがすごくしんどかったです。
お医者さんに『しなかったら死にます』と
言われていたので、必死でした。
オシッコもどんどん垂れ流すし、
やっぱり深刻だったんだけど、
あまりにも深刻になっちゃマズイな、
これはもう笑うしかねぇな、と思いました。
そうじゃないと耐えられないでしょう」
メンマのかわいいところはどこですか?
「ふつうにかわいいからね」
そうですね。
「ツンデレで、意外と気性が激しいです。
白黒はっきりしていて、
人間の女性だったら苦手なタイプです(笑)。
嫌なことされたら瞬間に怒るし、ほかの猫にも厳しい。
でも、甘えてくるときはちゃんと甘えてきます」
どうやって甘えるんですか?
「あしが動かないから、ふつうの猫みたいに
歩きながらスッとスリスリするのは
できないんですよ。
そのかわり、ちいさかったときは
俺の横に来てパタンって、よく倒れてました。
いまは大きくなったから、
自分で体を傾けて、俺がなでるのを待ってます」
かわいいなぁ。
メンマがいることで、
森川さんが変わったことはありますか?
「何が変わったんだろう?
ちょっといま、
メンマがいなかったときに自分がどう生きてたか、
わからないくらいになってます。
ま、確実に、部屋がくさくなったのと(笑)、
ちゃんと家に帰るようにはなりました。
なるべく早くオムツを替えてやんなきゃいけないし、
おしりをふいてやんなきゃいけない。
寄り道しないで帰る、いいお父さんになりました。
ずっとひとり暮らしだったし、
たぶんいま、たのしいんだと思います。
『大変』と『たのしい』がくっついちゃってて、
どこまでがたのしくて、
どこまでが大変なんだかわかりません。
演歌をくちずさみながらメンマのおしりを拭いてて、
『何やってんだ俺は』とは思うけどね(笑)。
そんなことはいままでありえなかったですよ。
メンマのおしりを拭いている顔だけは
人には見せられないなぁ(笑)」
(つづく)
2018.08.19 SUN