ふたりでラクな生活を探すんだ。
下半身が不自由な猫メンマを助け、
いっしょに暮らしている森川さんに
お話をうかがっています。
「ドコノコ」のメンマのブックを見ていると、
メンマの栄養状態がみるみるよくなって、
猫らしい貫禄とかわいい感じが
どんどん出てくるようすがよくわかります。
やっぱりすごくたのしそうです。
メンマがいると、一日があっという間に終わりそう。
森川さん
「いっとき、メンマの家族の
ふつうの猫もうちに来ていたんだけど、
ふつうの猫って、びっくりするぐらい
やることがないんですね。
ゴハンあげて、トイレ掃除して、
あとは遊んでなでるだけでしょう?
『あれ? 俺、何か忘れてるかな』って、
ちょっとびっくりしたんです。
メンマなら、オムツつくるところからはじめて、
オムツをはめる、はずしたらおしりを拭く、
床を掃除する、床にカーペットやシートを敷く、
薬を飲ませる。
オムツは1日に3回以上替えるし、
おしりを拭くのも、おなかの調子によっては
念入りに拭かなきゃいけない。忙しい。
特に仕事で出かけなきゃいけないときは
起きてから家を出るまで、すごく忙しいです」
おしりは、おしりふきのようなものを使うんですか?
「水を使わないシャンプーを使っています。
泡だてておしりを洗って拭きとるんです、
けっこういいですよ。
最初の頃はオシッコやウンチをさわるのが嫌だったから、
ビニール手袋をはめてやってたけど、
いまは平気。
もうなんでもなくなっちゃった(笑)。
おしりを拭くときに使ったタオルを洗うのも、
最初は洗濯機に入れるのに抵抗があったんで、
メンマの分だけ手洗いしてました。
でもいまはもう、ぜんぜん平気ですね。
自分と同じ洗濯機で洗ってます」
狸がわかっていて、わざわざ
森川さんちの前にメンマを置いていったようにも
感じてしまうのですが。
「あんまりそういうことを
考えないようにはしてるんですが、
もし発見したのがぼくじゃなかったら、
たいへんだったろうなと思います。
ふつうの勤めの人には、まず3時間毎の授乳はできない。
ぼくは無理すれば自宅で作業できたし、
外に出なきゃいけないときも
すぐ戻ってこれる生活スタイルだから、
そういう意味じゃ縁があったとは思います。
あの狸がメンマを襲っていた日、
ふだんならその時間、外に出ないんです。
でもたまたまその日だけはなぜか夜中に
ゴミを捨てに行ったんです。
たいがいゴミって朝出かけるときに出すでしょう?
自分でも、なぜあの日だけ
夜にゴミを出しに行ったのかはわからないんです。
もうちょっと遅ければ、食べられちゃったか、
狸に怪我をさせられていたでしょうね。
生後3週間だとしたら、
狸に負わされた怪我は致命傷になっていたと思います」
虫の知らせで、
森川さんにゴミを持たせたとしか‥‥。
メンマはほんとうにみるみる元気になっていきましたね。
「かわいそうという概念はまったくないです。
ユニークとは思うけど、かわいそうってのとは違う。
たぶんはじめてメンマを見る人は、
下半身を引きずりながら歩くから
気の毒に思うかもしれません。
でも、ずっといっしょにいると、
それはただの『彼女の歩き方』『ユニークな歩き方』
というぐらいのことでしかありません。
メンマ自身も、上のほうに登れないとか、
いろいろ不自由はあるんだろうけど、
悲壮感はまったくありません」
ハンディキャップのある子や病気の動物が家にいると、
経済的にはけっこうな負担だと思いますが。
「大変だと思います。
まず、医者に連れていく頻度がまったく違うと思います。
メンマは下半身が不随で、便意や尿意がなく、
常に垂れ流しているので、
どうしても膀胱炎になる確率が高い。
薬代、注射代がかかります。
シッターさんにみてもらわなきゃいけなくなったら、
ふつうのペットシッターさんからは断られます。
体に問題のある子でもOKなシッターさんを
ようやく一軒見つけて、お願いしています。
ふつうより料金は高いけど、
あそこがなくなったらほんとうに困っちゃう」
そうか、シッターさんを探すのが難しいのは
知らなかったです。
「エサも、膀胱炎を予防できる成分の入った
ドライフードを食べさせています。
そういう意味でもお金がかかるし、
日々のオムツ代もけっこうなもんです。
でもね、迷う時間がなかったのが
逆によかったですよ。
『こういう猫がいますが、飼いますか?』
と問われて、1週間くらい考える余裕があったら
だめだったかもしれない。
狸、救急の動物病院、
そこからはじまったことだから、
やるしかなかった。
それはよかったですよ」
森川さんちは、もともと猫が多いエリアなんですか?
「大通りからちょっと入ったところにあるんだけど、
家と家のあいだの塀が
どうやら猫の通り道になっているようです。
ぼくは都心に住んでますけど、
前の猫はちょっと外に出ることもあったので、
事故に遭わないように、
都会だけど車通りのない場所を選びました。
奥まった場所で、不動産屋さんが
『なぜそこを?』って驚いてました。
だからたぶん、そういうところは猫が多いと思います」
そもそも家も、前の猫のために選んだんですね。
もう、メンマが狙ったとしか‥‥(笑)。
メンマと出会ったのは、2016年ですよね。
「6月21日です」
ということは、2年ちょっと。
すごく濃密な2年でしたね。
いま、メンマはオムツをしてるから、
森川さんのおうちはもう、
シートは敷きつめてないんですか?
「最初はオムツがすぐにはずれちゃってたから、
全体的にシートを敷いてました。
大きいシートを敷いてたんだけど、
ちょっとオシッコしただけで替えると、
たいへん手間とお金がかかります。
だから『替えるべきか、もうちょっと我慢するか』なんて
すごい迷っちゃう(笑)。
ちいさいシートをテープでつないで敷く方式にしたら、
こんどは作業が大変になっちゃった。
床も汚れるし、薬剤を使って掃除をすると、
フローリングの塗装が溶け出してしまって、
一度ぜんぶ塗り直しになって10万くらいかかりました。
いまは、1.5畳くらいのカーペットをいっぱい敷いて
順番に洗う方式にしています。
でも、これも最終的な正解かどうかはわからない(笑)。
だぶんこれもいつか頓挫して、
また何かを発明しなきゃいけないんです。
ずっとその連続です」
メンマ、ジャンプしたりもしますよね。
「うん、急に飛ぶから、
そのときにもピッと出ちゃうんです。
何かにつけてピッと出ちゃうんだよ(笑)。
メンマと暮らすのは、
ほんとうに間違いなく大変なわけだけど、
それはつらいってことにはならないんですよね。
大変とつらいは、ぜんぜんいっしょにはならない。
たのしいかと訊かれると、掃除の作業は
さすがにたのしくはない。
ただ、つらいかと言われたら、つらくはない。
つらくてホロホロ涙が出るってこともぜんぜんない。
落ち込むこともない。
『もっといい方法があるんじゃないか』ってのを
探すのが先です」
それは、森川さんの
理科系的なお人柄によるものでしょうか。
「いや、たぶん最初の頃に、
自分でそういうふうに決めたんだと思います。
深刻になって
『障害のある子を育てるんだ、養護するんだ』
という気持ちでやっちゃうと、きっといつか
気持ちが沈むことがあるだろうから。
これはふたりでなるべくラクな生活を探すゲームだ、
という感じで
メンマといっしょにやっていこうと、たぶん決めた。
たまたまドコノコもはじまってて、Twitterもあったから、
愚痴も含めた研究発表みたいなことができて、
ありがたかったです」
糞尿の処理は大変だと思うんですが、
においに慣れるってことはありますか?
「家に帰って、最初の瞬間は
いつも気が滅入ります」
あ、そうなんだ‥‥。
「特に夏場はね。
ふつうの猫だって、砂のトイレだけでもにおうでしょ?
俺んちは『部屋じゅうがトイレ』だから、
そりゃすごいです。
でもまぁ、作業量が多いってだけの話です。
ちいさい頃から不自由だと、
自分で体の使い方を工夫するし、
そんなに深刻なことにはならないですよ。
メンマはまだ若いから免疫力もあって
腎臓まではバイ菌が入らないけど、
お医者さんには
6年目くらいから調子悪くなるかもしれません、
と言われてます。
猫によって違うだろうけど、
ふつうの猫ほどは生きられないかもしれません。
でもそれはしょうがないので、
自分にとっては最後の猫だと思ってます」
森川さんとメンマの大変&たのしい生活を、
これからもメンマンガと
Twitterとドコノコのブックで
読ませていただきます。
森川さん、メンマ、末永くなかよしで‥‥!
そうこうするうちに、
あのにじりちゃんを引き取ったご家族から
連絡が入りました。
場所は遠方ですが、会いにいくことにしました。
(つづく)
2018.08.20 MON