[糸井]
でも、いまはすごく時間が限られているだろうし、忙しいという実感があるでしょう?
[有吉]
はい。
[糸井]
その間に次のこと考えるのはなかなか難しいですよね。
[有吉]
はい。難しい‥‥いつもそう思ってます。
だから、次のステップの準備ではなく、どちらかといえば落ちる準備をしてるんですよ。
[糸井]
ははぁー、そうなんですか。
[有吉]
はい。
金を使わないようにする、とか‥‥もともと、性格がそうなんですけど。
[糸井]
だけど、こんなに体力があるのに、落ちる準備をしたってしょうがないんですよ、ほんとうは。
[有吉]
どこかで臆病になっちゃうんです。
前回の経験が‥‥。
[糸井]
うーん。
[有吉]
いままで思いどおりに事が運んだ経験がないので、自分の明確な未来のビジョンを描かないようにしてるんだと思います。
[糸井]
それだけ心配性な芸人さんってそんなにいないんじゃないですか?
[有吉]
そうですね。
みんなやっぱり楽天的というか‥‥。
[糸井]
でも、それは取り柄ですね。
そこまでいくとね(笑)。
‥‥任天堂という会社が京都にあって、そこの前の社長さんが言ってたことでね。
[有吉]
ええ。
[糸井]
ぼくがその社長さんに
「経営が好きなんですね?」って訊いてみたら
「好きなんやない。得意なんや」
とおっしゃったんですよ。
[有吉]
ああ。
[糸井]
「好きな人が経営なんかしたらアカン。
好きな人は、好きやから、なんでもしよる。
乱暴しよる。
そしたら、その人の下にいる人が 不幸になるやないか」
[有吉]
はい(笑)。
[糸井]
得意なことが好きという場合もあるけど、どっちを取るかと言ったら、得意なことをしたほうが、人に迷惑かけないですよね。
[有吉]
そうですね‥‥そうなんですよねぇ。
[糸井]
そういう意味でオレは
「有吉」という人の持ってる資質は、作家性だと思うんです。
[有吉]
だけどやっぱり、もともと漫才がやりたくてこの世界に入ったので、ネタをやってないというコンプレックスがすごくあるんです。
M-1のチャンピオンとかにも、すごいコンプレックスがあるんですよ。
[糸井]
こう見えても。
[有吉]
こう見えても(笑)。
武器がちがうから、とは思うんですが、どこかでいつも負い目があります。
[糸井]
じゃあ、ネタつくっちゃったらどう?
[有吉]
ハハハハハハハ。
でも、演じるのがすごく苦手という、これまたやっかいな問題が(笑)。
[糸井]
ネタを書くのは放送作家の仕事だから有吉さんは、じつは得意ですよね?
だけど、「元漫才師」の放送作家って、じつはいっぱいいるんだよね。
[有吉]
そうですね。
[糸井]
どうして、有吉さんは作家にならなかったんでしょう。
[有吉]
それは、ひとえに人脈がなかったからです。
[糸井]
なるほど(笑)。
[有吉]
頭下げるスタッフさえいなかったです。
売れなくなったとき、いろんなところに頭下げれば、と思ったんですけど、どこに行けばいいのか、全然わかんなくて。
[糸井]
それは、いまになってみると、よかったですね。
[有吉]
はい、よかったです。
[糸井]
つまり、やる立場でしか物を考えられない放送作家なんていないからね。
有吉さんは、今後、こういうことがやりたい、という希望はあるんですか?
[有吉]
ぼく、何がやりたいんでしょうかねぇ(笑)。
[糸井]
ないな。
[有吉]
ないんでしょうね。
[糸井]
ぶらぶらしてた時期の、
「生活であり楽しい」という毎日がおそらくいちばんいいんですね。
[有吉]
それは最高ですね。
[糸井]
最高ですよね。
オレも、そうなんですよ。
[有吉]
ははははは。
[糸井]
そういう人はね、決めてやるしかないんです。
[有吉]
はい。
それはそうですね。
[糸井]
来ちゃったからやるわ、とかね。
やってると、今度は意地になるから引けなくなります。
[有吉]
そうですね。
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