[糸井]
岩田さん自身の就職というのは、ふつうに就職活動をして、というのとはかなり違いますよね。
[岩田]
違いますね。
私には、いわゆる就職活動の経験はありません。
いや、履歴書ぐらい書いて出しましたよ(笑)。
だけど、就職活動をしたという自覚はないです。
[糸井]
いまでいうベンチャーの人にプログラムの腕を買われて誘われて、アルバイトをしているうちにそのまま就職してしまったわけですよね。
[岩田]
はい。
アルバイトとしてやっていた仕事がどんどんおもしろくなって、
「大学卒業したらうちではたらく?」って言われて
「はい」って答えて、履歴書を出しました。
[糸井]
それは、判断とか選択というよりも、
「好きなこと」が「はたらくこと」とたまたま一致してたという。
[岩田]
そうなんです。
好きなことが近い人たちが集まって、自分たちの趣味は世の中に受け入れてもらえるんだ、ってことがわかりながら会社になっていった。
[糸井]
それは、ワクワクしますね。
[岩田]
ええ、ワクワクしました。
[糸井]
そのときに、親だとか親戚だとか、周囲の就職活動してる人だとかからなにか言われたりはしませんでしたか?
[岩田]
親はとても心配しました。当たり前ですよね。
私も同じ立場なら絶対心配すると思う。
だから、いまは親の気持ちがとてもよくわかりますが、当時はおもしろくてたまらないわけですから、当然、ほっといてくれって思いますよね。
周囲の友だちは、ある人は
「おまえは自分に自信があるんだな」
って言うし、ある人は呆れたように
「たいへんだねぇ」って言うし、ある人は、ちょっとさげすんだように、あるいはなにかに騙されている人を見るように
「本当にそれでいいのか?」
って心配してくれたり。
[糸井]
うん。どの反応も、ありそう(笑)。
でも、よくよく考えると、そうやって、岩田さんが選んだ道に否定的な忠告をしてくれた人の意見も、間違っていないわけですよね。
[岩田]
もちろんです。
その人たちの心配や忠告が的外れだったかというと、一概にそうはいえません。
[糸井]
岩田さんはおもしろかったかもしれないけど、役所や大企業なんかにくらべたら、その会社はやっぱり不安定だし、実際に、勤めたその会社も10年後くらいには経営が危なくなるわけだし。
[岩田]
そうですね(笑)。
[糸井]
まぁ、どっちがよかったかなんて、比べることはできませんけど、
「好きなことをやればいいんだ!」っていう乱暴な意見がすべてじゃないわけで‥‥。
あの、じつはぼく、この『はたらきたい。』という本の中で、ひとつ、うまく言えてないことがあって。
[岩田]
なんでしょう。
[糸井]
つまり、自分が就職活動をしてなくて、
「ぼくは面接を受けたりしなかったけど」
というところからスタートしているものだから、なんだか、まっとうな就職活動をしている人に反発しているようにも見えると思うんです。
そんなつもり、まったくないんですよ。
どっちの道もあるんだから。
[岩田]
ああ、そうですね。
私も、ふつうの就職をした大学時代の友人たちに対して自分のほうが度胸があるだの、自分の選択が正しかっただのって思ったことは一度もありません。
たまたま自分はそういう縁があったからその道を選んだだけで、縁がなかったらごくふつうの就職活動をしたに決まってるんですよ。
だから、べつに、就職活動をする人はカッコ悪いとか情けないなんてことはまったく思ったことがないし。
[糸井]
ぼくもまったくないですね。
だって、ぼくは、冒険したくて生きてるわけじゃないですからね。
たまたま、行き場がなくて、そっちの道だけがあった、というようなことが選択につながっただけでね。
[岩田]
そうですよね。
[糸井]
でも、こういうふうな話をすると、たとえば一般のお母さまがたは、
「才能のある方はそれでいいんですよ」
みたいな反応をなさるんですよね。
「でも、一般的には、 そうはいかないんですよ」って。
[岩田]
まあ、「糸井さんは特別なんですよ」
みたいなことですかね。
[糸井]
そうそうそうそう。そういう、尊敬されてるような蔑まれてるような反応をされることが多くて。
そのたびに、本当はどうなんだろうかってずっと考えてきたんですけど、いま、はっきりと断言できるのは、どっちへどう進もうと
「生きていく」っていうのは同じことなので、やっぱり、自分の力を最大限に活かすのが目的なんです。
[岩田]
そうですね。
私自身、振り返ってみても、自分がふつうじゃなかったから特殊な道を選んだのか、たまたま特殊な道を選んだからこういう自分でいるのかは、もう、よくわからないですね。
ただ、少なくとも、これまで過ごしてきた環境と自分は、とても相性がよかったんだろうなっていうそのくらいの感覚はありますけれども。
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