[糸井]
社会という新しい世界を前にしてガチガチに緊張している人は、もう、たくさんの心配事があると思うんです。
そういう人にいろんなアドバイスをするよりもまずはその緊張感を取ってあげたいんですよね。
そんなにたいしたことはないんだぜ、というか、たかがしれてるんだぜ、というふうに。



[岩田]
そうですね。
まずは本当の自分を表現してもらわないとなにもはじめられませんからね。

[糸井]
だから、たとえば誰かとはじめて会ったり、面接みたいなことをするにしても、まずは、その人をほぐしてからしゃべりたいなと思うんです。

[岩田]
私の経験からいうと、面接官には2通りのタイプがあるんです。
相手をほぐしてからその人の本性を引き出して、そのうえで選びたいと思っている人と、
「ほぐれていないから話せない」というのもその人の社交性だったり力だったりするから、そのまま評価してしまうという人と。



[糸井]
ああ、なるほどね。
岩田さんはどちらのタイプですか?

[岩田]
私は、前者です。後者の面接官って可能性を一部しか見てないと思うんですよ。
だから、できるだけ、その人をほぐしてから話せたほうがいいと思うんですけどね。

[糸井]
そうですね。
まぁ、簡単にほぐせるわけじゃないですけど。

[岩田]
あの、私ね、世の中の面接って、どうして答えにくいことから訊くのかなって思うんですよ。

[糸井]
そうなんだよ、そうなんだよ(笑)。



[岩田]
なんで答えやすいことから訊かないのかなと思ってて。

[糸井]
クイズじゃないんだからね(笑)。

[岩田]
私はいま、時間的な理由から新人採用では面接はしてないんですが、世の中の就職活動についての話を読んだり聞いたりすると、なんか小難しいことを訊いて、それに対して差し障りのないことを答える、という技術論の話ばかりが出てきますよね。

[糸井]
いや、ほんとにそうなんですよ。

[岩田]
私は、社内での面談というのは人一倍やるほうなんですけど、面談のいちばん重要なことって相手が答えやすい話からはじめることだと思っているんです。

[糸井]
いわば、「いいお天気ですね」からはじめるってことだよね。

[岩田]
はい。だから、私は社内で初めての人と話すときは、
「どうして任天堂に入ったの?
 なんで入ろうと思ったの?」
という質問からはじめるんです。
それは、必ず答えられることですから。
どんな理由であろうと、必ずなにかあるはずだし、自分のことだから自分で答えられるはずなんです。
実際、いろんな答えが返ってきますよ。
「あんまりカッコいい話じゃないんです」
っていうものから、ものすごく熱い答えまで。
ありのままの事実を語ることができて、しかもその人の本当の姿を垣間見ることができる。
ところが、
「キミ、少子高齢化についてどう思うかね?」
「サブプライム問題で アメリカの景気はこれからどうなるのかね?」
なんて訊いても、答えられないかもしれない。



[糸井]
そうですね。
むしろ、すぐに答えづらいからこそ、
「困難な質問に咄嗟にどう答えるか」
ということを見るために、そういう質問をするんでしょうけど。
まぁ、その手のことがぜんぶいけないと言うつもりはありませんけど、そういうことばっかりやってるからみんなが戦々恐々としちゃうんじゃないかなぁ。
一方で、岩田さんの方法というのはとっても、わかりやすいですね。
相手の緊張感をほぐすというよりも、相手が答えられる質問をすれば、緊張してても答えられるだろうという。

[岩田]
自分が知らないはずがないことですからね。
どんなに緊張してても、あがってても、自分のことをしゃべってもらえば、その人のことがわかるじゃないですか。

[糸井]
なんていうんだろう、
「むつかしい質問に咄嗟に答える」練習をして、その場でうまくやったとしても、実際、仕事をはじめれば絶対にボロが出るわけだからね。

[岩田]
ええ。
会社に入るまでが勝負だっていうのは間違ってると思いますよ。
会社に入ってからのほうが圧倒的に長いわけだし。

[糸井]
うん。だから、やっぱり知りたいのは、この『はたらきたい。』という本のテーマである
「あなたが大切にしてきたことはなんですか?」
ということなんですよね。
どんなにその場で立派そうなことを言っても
「大切にしてきたもの」が違ったらいい関係は続かないんですよ。

[岩田]
そうですね。
私は、人と話す中で、
「なぜこの会社に入ったの?」
という質問のほかに必ず訊くことがもうひとつあって、それは、
「いままでやってきた仕事の中で いちばんおもしろかったことってなに?
 いちばんつらかったことってなに?」
ということなんですね。
これもね、自分のことですから、答えやすいし、なによりその人のことがわかるんです。
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