[糸井]
BOSSをずっとやってる人っていうのは、要するに、自分の就職先を自分で決めて、人の就職先を作るわけじゃないですか。

[矢沢]
うん。

[糸井]
そこでの、事業主としての基準ってある?

[矢沢]
そうねぇ‥‥。
そもそもぼくは、まあ、食えなかったころにバイトしたりとかはあるけど、就職した経験はないんだよね。
ところがいまは、会社をやってる側にいる。
そこでの基準は、あるにはあるけど、あくまでも自分の尺度、フィーリングであって、人に押しつけるようなものじゃないよね。
若いころは、よく人にも言ったよ?
「こうじゃないのか?」
「根性持たないとヤバいよ、将来?」とかね。
けど、それはあくまでも、俺の流れであってね。

[糸井]
いまはそんなに言ってないんだ。

[矢沢]
最近はちょっとオトナになったのかね。
まあ、苦労したのか知らないけどね。

[糸井]
この歳になって(笑)。

[矢沢]
そうだねえ‥‥。
だから、最近よく思うんだけど、何がストレスって、「人との関係」だね。

[糸井]
あ、そう。永ちゃんでも。

[矢沢]
うん。
まあ、ぼくも経営者をやってるわけで、うちの会社も、なんだかんだいって、社員が30人くらいいるんだよ。
すると、たとえば、
「こんなことで辞めちゃうの?」
っていうやつが、いっぱいいる。

[糸井]
うん、うん。

[矢沢]
辞めていく。無責任にね。
でもね、俺から見たら
「無責任だ、こんなことで辞めるのか」
とか思うけどね、辞める彼らから見たら、十分それなりに、理由もあるんだよ。

[糸井]
そうかもしれないね。

[矢沢]
そういうことも、年をとるにしたがって、わかってきた。
だから、ぼくは、一概に、
「なんでこんなことわかんねぇんだ!」
ってことが、だんだん言えなくなってきた。
っていうくらいにね、まぁ、たいへんだわね。

[糸井]
たいへんだよね。

[矢沢]
うん、たいへんだよ。
そこは、ひょっとしたら、ぼくらの団塊の世代とは、考えることが絶対的に違うのかなと思ったりもするんだけど。

[糸井]
団塊の世代の生き方の指針のひとつをつくったのが永ちゃんでもあるわけだしね。
『成りあがり』っていう本は、そういう教科書になったところがあるでしょう?

[矢沢]
だから、よけいわからなくなるんだよ。
俺は、そういうふうに生きてきた。
それを、自分の話として、勝手にしゃべってるうちはよかったんだけど、歳もとってきて、人を使う側になって、ずっとやってくるとね。
だって、俺の会社に入って辞めていった人の数をぜんぶ数えたら、トータルで200人くらいいるんじゃない?
それだけ、人の出入りがあればさ、まぁ、人それぞれで、奥が深いなと思うよね。

[糸井]
人が辞めていくときに、さびしさは、当然あるよね?

[矢沢]
あるよ。
そのうちだんだんしらけちゃってさ、こんなもんかなと思うようになったきたり。

[糸井]
もう入れないほうがいいや、と思うときもあるでしょ。

[矢沢]
あったよ。
あと、俺が、いまでも歯がゆいのは、
「えらくなりたくない」っていう人が現実問題、いっぱいいるっていうことでさ。
俺には、考えられないわけよ。

[糸井]
うん。

[矢沢]
まあ「えらくなる」っていっても、とらえ方はいろいろだろうけど、簡単にいえば、あれでしょ、責任持たされたくないんでしょ、あんまり。

[糸井]
あー、そうだね。

[矢沢]
あんまり会社に縛られたくないんでしょ。
休みはちゃんと欲しいんでしょ。
自分の人生は楽しみたいと。
まあ、会社のこと以外でどうのこうの言われたくないというのはわかるんだけどさ。

[糸井]
まあ、誰もが出世したいわけじゃないにしても、
「やれることを増やしていきたい」という気分は誰にでもあるような気がしてた。
けど、「これ以上増やさないでください」
という人も、いるんだよね。

[矢沢]
そこなのよ。

[糸井]
25メートル泳げるようになったらつぎは50メートル泳ぎたいっていうような、
「できることが増えていく喜び」って、みんなあるのかなと思ったら、そうでもない。

[矢沢]
人によるんだよ。
じゃあ、いまの若いやつらは全部そうかっていったら、そんなことない。
やっぱり、いまの人でも、ぼくらの世代とあんまり変わんない感覚を持ってる人もいるし、団塊の世代のぼくらの時代だって、いまの人たちと変わらない人もいたと思うよ。

[糸井]
そうだろうね。
ただ、ぼくらの世代とちょっと違うのは、いまの人たちって、働くことのおもしろさを味わわないうちに‥‥。

[矢沢]
決めてる、自分で。

[糸井]
そんな気がちょっとするよね。

[矢沢]
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