[糸井]
やっぱり、いまの若い人たちって、
「就職」とか、「働く」っていうことを前にして、なんか、本来の力を発揮できずにいると思うんですよ。
永ちゃんは、それについてどう思いますか。

[矢沢]
うーん‥‥さっきも言ったように、ぼくは勤めたことがないから、はっきりした就職論というのは、正直、わからない。
俺は言いたいことを言って、やりたいようにやってきたから。
「絶対、上に行くんだ」っていうのしかなかった。
でも、いまの人たちは、
「えらくならなくてもいい」とまで言うわけだよね。
プライベートを大事にしたいとか、会社に縛られたくないって言う。
それもまあ、ひとつの人生だとは思う。

[糸井]
そういう生き方もあるよね。

[矢沢]
あると思うんだよ。
ただ、ね、これは矢沢が勝手に言ってることだと思って聞いてほしいんだけど。
その人が、40になっても、50になっても、果たして同じスタンスを貫けられるんだろうか?
‥‥ここだけよ、問題は。

[糸井]
ほう。

[矢沢]
いまは、独身だよな。
もし彼女がいたとしても、お互い若い二人で、子どももいないし。
で、オレ、べつにえらくなりたくないし、それよりも、定時にちゃんと帰りたいし、土日は絶対会社に振り回されたくない、と。
それはそれで、いいと思うんだよ。
実際、欧米なんかもそういう社会なんだから。

[糸井]
うん。

[矢沢]
OK。じゃ、そういう形でいくと。
そんなにたくさん給料もらえなくてもいいと。
もちろん食っていくには必要な金がいる。
でもそんなに莫大な金は、いらない。
BMW乗らなくていい。それでいいやって。
ただ、ほんとに40になっても、50になっても、そのスタンス変えなくていいんだな? ってこと。
最後までいくんだったら、それはそれでひとつの生き方だよ。

[糸井]
うん。

[矢沢]
だけど、ほんとにそこまでいけるかなと思うんだよね。
そこに現実というものがある。
現実はなにかっていったら、結婚すりゃ、当然いつか、子どものひとりくらい欲しくなるわな。
子どもができたら、いろんなことが始まるよ。
オギャーオギャーのうちはまだいいけど、ちょっとよちよち歩くようになったら、着るもんだ、乳母車だ、幼稚園だ、滑っただ、転んだだ、学校入ったら、塾だ、イカの頭だの、いろんなことがぼこぼこ出てきて、部屋は1Kじゃしょうがないから、2Kくらいいるだろうって話だったら、当然家賃も上がってくるわと。
それでも、同じこと言う?

[糸井]
うん、うん。

[矢沢]
「わたしたちグレイトだったね」ってまちがいはないと言い切れる?
その人は、俺に言うかもしれない。
「放っといて、自分の人生だから」
そう言われると、俺も、もうこの歳だから、いろんな生き方を見てるし、いろんな生き方があっていいと思う。
でもね、ただひとつだけ、ぼくが思うこと。
これは、ただのぼくのポリシー、ぼくの持論だと思って聞いてほしい。
ぼくはこういう人間だからという意味であえて言うけど、
「それを絶対あとで、人のせいにしちゃダメだよ」
というのは、言っておきたい。
あとで、国のせいにしたり、周りのせいにしたり。
わかる? これはダメだよって。
これは約束違反だからねって。
それは、彼らにだけ言ってるわけじゃなくて俺、自分にも言ってるの。
後で自分の生き方に対して後悔しちゃダメだよ、と思ってる。
そのうえで、いろんな生き方があって、いいんじゃないかなと思ってるのね。
いろんな生き方があっていいよ。
自分の時間を大事にするのもわかるよ。
わかるけど、将来結婚するかもしれないでしょ。
子どもができるかもしれないでしょ。
子どもができたら、金かかるよ。
それでも、そのスタンス変えないんだったら、それも立派なひとつの生き方だと思う。
だけど、条件は、人のせいにしちゃダメだよ。
周りのせいにしちゃダメだよ。
そして、いま言ったことは、俺もそっくりそのまま、自分に問いかけるから。

[糸井]
うん。いや、すばらしい就職論だと思う。

[矢沢]
言いたいのは、それひとつだよ。
その生き方を人のせいにしちゃダメだ。
オレも、人のせいにしないから。自分で処理する。
だから、君も自分で自信を持って処理してもらいたいと思うし、決して国が悪いとか、会社が悪いとか、世間が悪いとか言っちゃダメだぞって言いたい。



(続きます!)


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