[黒柳]
みなさんはご存じないでしょうけど、
「キオ」っていうロシアのサーカスがありましてね。
わたしが若いときは、「キオ」って言ったらロシアでいちばん、世界でも、とっても有名だったんです。
ライオンの檻の中に女の人が入ってドアを閉めたら、瞬間的にライオンが出てきて女の人はいなくなる、そういう出し物があって、それはもう、すごいんです。
そのキオっていう人のところにソビエットの時代、わたしはインタビューに行ったんですよ。
インタビュアーなのに、キオがしきりに、わたしにすすめるんです。
ああいう人って、ちょっと見たらわかるのかしらね、キオが
「やってみます?」ってわたしに言ったんですよ。
[糸井]
つまり「この人は敏捷である」とわかったんでしょうか。
[黒柳]
そうなの、フッ(笑)、それでね、わたしはかねがね、サーカスを見るたびに、ライオンの仕掛けはこうなってるだろう、空中で火がポンと燃えるときにいなくなるのは、ああなってるだろう、ってタネを思い描いていたわけです。
でも「キオ」のは、わかんなかったわけ。
自分がやれば、教えてもらえるでしょう?
[糸井]
知りたかったんですね。
[黒柳]
知りたかったの、もう、絶対に!
キオは、
「うち出し物のなかでは、 美女、ライオンになる、 美女、火中に消える、 美女、ついたてから出る、 この3つがいいやつなんです。
それをやってください」
って言うんです。
[一同]
(笑)
[黒柳]
「もしもテレビがいやになったら うちに来てくださいね」
と、キオがわたしに言ったくらい、うまくできましたよ。
[糸井]
「おまえの敏捷を買った」と。
[黒柳]
何が敏捷かっていうとね、サーカス団の人は、裸に近い格好でやってるのに、わたしは振袖着てやったんですから。
[糸井]
振袖の美女だったんですね。
[黒柳]
そうよ。日本から行ってるんだから、衣装は振袖がいいなと思って、お色直しのときに着るような振袖を着ることにしました。
しかも、下に綿が入ってるやつよ。
お色直しのちょっと‥‥フッ(笑)、中古みたいなやつ。
[一同]
(笑)
[糸井]
重みを感じるやつですね。
[黒柳]
そう、重みを感じる、すごくきれいな大振袖。
それに、派手な取りつけ帯をつけまして、頭は玉ねぎ結って、かんざしをさしました。
それで、身軽な格好の人と同じことやるんですから、そりゃあ、キオだって驚いちゃう。
[糸井]
器用な方だな、と。
[黒柳]
敏捷で器用(笑)。
「美女、ライオンになる」なんて、ほんとに、一瞬のうちにやらないとダメなんですから。
[糸井]
それは、ライオンと黒柳さんがスタンバイして一瞬で入れ替わるんですよね。
[黒柳]
そう。ザンザンザンってキオが3歩くらい、黒幕を引いているあいだにね。
ライオンはね、ものすごくぺったんこにして奥のほうにしまってあるんですよ。
[糸井]
ぺったんこ‥‥。
[黒柳]
ぺったんこになってて、バタン、ガラガラガラガラって出てきて、ガオー!
[糸井]
はぁあ。
[黒柳]
みんなびっくりしちゃうわけ。
[糸井]
でもその‥‥ライオンのぺたんこにも限りがありますよね?
[黒柳]
でも、ライオンってよく見てみたら、細いのよ。
毛がふさふさしてるんですけど、よーく見ると、あれは、体は痩せてます。
顔の幅が入れたら、どこでも入れますよ。
[糸井]
そして、黒柳さんも、振り袖のままで瞬間にどこかに隠れることができたというわけですね。
[黒柳]
それよりも、もっとすごいのはね。
[糸井]
まだある!
[一同]
(笑)
[黒柳]
だって、3つやったんだもん。
[糸井]
さらに敏捷なことが。
(サーカスで、もうひとつ。次回につづきます!)
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