第7回 メチャクチャ回り道。



[斎藤]
お菓子づくりって、すごくたのしいものです。
ぼくの会社のスタッフなんて、みんなでワイワイ言いながら材料を混ぜてつくっています。
アメリカに行くと、たのしいキッチンウェアのお店がたくさんあって行くだけでワクワクドキドキするのに、日本の業務用のお店はあんまりたのしいところがありませんでした。

[糸井]
うん。買えることは買えるけど‥‥。

[斎藤]
プロ相手のお店は
「いらっしゃいませ」も言ってくれないようなところもありますから、ちょっと特殊な材料を買おうとするとそういうところに行くしかありませんでした。
つくるのはたのしいのに、買うのはたのしくない。
ぼくは、お菓子材料をたのしく買える店が世の中にあるべきだと思って、斎徳の高松営業所でお店をはじめることにしました。



[糸井]
高松で?

[斎藤]
徳島のお隣、香川県です。
そこの営業所は私が管轄していたので、棚をひとつ置いて、25キロ入りの業務用小麦粉を夜中に家内と2人で1キロずつに小分けして売っていました。

[糸井]
またホームページと同じ、
「夜」の作業からなんですね。

[斎藤]
そうです。粉が売れはじめたら今度は夜中に業務用のチョコレートのブロックをガンッと、ふたりで割りつづけました。
店のシールをインクジェットプリンターで出して貼り、ぼくが高松に車で運んで並べました。
チラシをコピーでつくって近所のマンションに投げ入れて、
「今日はお客さまが3人来ました」
そんな状態からはじめました。
それも1998年ぐらいです。

[糸井]
だけど、東京でなくて高松で、でしょう?
徳島香川あたりはおそらく、パンを焼いてる人は日本の中では少ない場所なんじゃないでしょうか。
それを逆算したら、東京にはそういう人がわんさかいるという計算ができますよね。

岡本太郎さんの、
「どちらかに行くか悩んだら 難しいほうに行け」
という有名な言葉がありますが、それはどうも本当だなぁと思うんです。
いちばん優しいところでやったんじゃ、摩擦熱が出ないんですよ。

[斎藤]
高松でやれればどこに行ってもやれるんじゃないかな、という感じはしましたし、高松でやれなくても東京ならできるんじゃないかな、とも思ってました。

[糸井] 夜中の作業は、その後も長い期間つづいたんですか?

[斎藤]
昼間は斎徳の社長をやり、ホームページを明け方までつくってお客様からの注文に返信するのは3年間やりました。
その間、1滴もお酒を飲まなかったし、1日も休みませんでした。
出張に行ってどこかで宴会するときでも、宴会を抜け出して、宴会場の事務所に入り込んで、
「ちょっとモデム、FAXにつながせてください」
とか言って。

[糸井]
あぁ、そういうことありましたよねぇ。
絶対無理だ、ってときにも
「公衆電話がここにあります」

[斎藤]
ドライバーセット持ってて、旅館の電話をばらしてクリップで線を留めてつなぎました。

[糸井]
ぼくも海辺の民宿で、やりましたよ。
パカッとカバーを外して、だけど、その現場を見られたらなんとなくまずいんで、背中で隠して。

[斎藤]
ええ(笑)、見られたらまずいんで。



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