第12回 睡眠を使って何かを覚えたいときは。

[池谷]
さきほどの、ネズミの歩行実験の話でお伝えしたように、昼間起きている間に起こったことが、次の睡眠中に再現されます。
再現される確率は、寝入りの時間に近ければ近いものほど高いんですよ。
そして、再現されたものの記憶の定着も、寝入り直前の経験のほうが、いいんです。
夢では、時間をさかのぼっては、あまり思い出せないようです。
ですから、睡眠を使ってものを覚えようという企みを持っている人は(笑)
覚えたいことを、朝にやるんじゃなくて、睡眠直前にやるほうがいいんです。

[糸井]
それはいいことを聞きました(笑)。

[池谷]
ということは、睡眠前の時間は、ものすごく貴重な時間なんです。
私の場合は、仕事のことをしたり、アイデアが欲しいときにはぜんぜん関係ないことをしてから、ベッドで横になっています。
この時間帯に多くの人はテレビの深夜番組を見たりしてますよね。
まあ、それを覚えたいんだったら話は別ですけど。

[糸井]
深夜番組の、語彙とかが残る(笑)。
例えば、池谷さんは昨日、寝る前に何をしたんですか?

[池谷]
昨日は論文を読んでました。
哲学書を読むこともありますよ、アイデアを得たりすることもあるだろうし、言葉どおり「身になる」から(笑)。
私はこの時間帯を、かなり大切にしています。



[糸井]
僕はこれまで、寝る前は落語をイヤホンで聴いていました。
しかし、このところ1年ぐらいは吉本隆明さんの講演を聴くようになりました。

[池谷]
それは、きっと糸井さんのなかに、知らないうちに・・・・・・。

[糸井]
ええ、吉本さんと一緒に暮らしてるような気がします(笑)。
寝る前の記憶が定着しやすい、ということは、深夜番組がゴールデンの時間帯に移ってちょっと印象が薄くなったり、
「オールナイトニッポン」のパーソナリティが親しみを増して人気が出るようなことも関係あるかもしれませんね。

[池谷]
ああ、たしかに関係ありそうですね。

[糸井]
寝る前に機嫌をよくする、ということを昔の人はよく言います。
寝る前に嫌なことを考えるのではなくいちばんいいこと考えてよく寝るように、と。

[池谷]
悩みながら寝ると、それが定着しちゃうからかな。

[糸井]
人がダメになる時期って、その循環をしているような気がします。

[池谷]
お酒を飲む場合にも似たようなことが起こると思います。
楽しいときにお酒を飲むのは楽しいですが、悩みながらお酒を飲むと、だいたいいいことはないですね。
言われてみれば、僕は寝る前にはあまり悲しい小説を読まないです。
糸井さんが落語を聴いていらっしゃることはすごくいいんじゃないでしょうか。

[糸井]
落語はいい。
でも、落語は知ってる話を楽しむところがあるから、驚きの要素が入っているという点で、いまは落語より講演がいいですね。
寝入る瞬間をもっと大事にするようにしよう(笑)。

[池谷]
はい。
ですから、私個人の睡眠についてまとめると長い短いはこだわらないですが
●寝入る前の時間を大切にする
●できる限りいつも同じような時間に寝る
●いつも同じような時間に自然に起きるということになります。

[糸井]
池谷さんは睡眠を常に大切にしてる、ということですね。
そのレベルにみんながなるといいね。



(つづきます。次回は最終回!)


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