第4回 眠りながら、銃は取れない。

[井上]
睡眠の研究というのは、いま、非常に追い風的な存在なのですが、お役所が専門の研究機関を作るというのは、非常に時間がかかりますから、結果的にはまだ、公式の例えば国立大学で、申請したものを認めてというような形のちゃんとした研究室はないんですね。
ただ、ある時代に大学のシステムが変わって、寄附講座というのが、できたんです。
要するに企業なり個人なりが、お金を出して、それで研究費とか、人件費をまかなうと。
それは、期限付きで、だいたい5年くらいの期限なんですが、このお金で、この大学に、こういう講座を置いてくださいというと、それを文部省に問いかけるんですね。
そういう第1号が、滋賀医科大学に、2004年に、開設されました。

[糸井]
そんなに最近なんですか。

[井上]
はい。第2号の寄附講座はわたくしのいた東京医科歯科大学にできました。
ですけど、文部省のなんとか学部、何学科なんていうところで、公認の睡眠学の講座はまだひとつもないですね。
予算が国から支給されてほぼ半永久的に存続できるような講座なんて、ない。

[糸井]
ほぉー。



[井上]
ですけど、医学部のいろんな分野には、例えば精神科とか呼吸器科とかで睡眠を扱っていますね。
近頃は、呼吸と睡眠障害の関係など、いろいろありますから。

[糸井]
睡眠時無呼吸症候群というのがありますね。

[井上]
ええ。耳鼻咽喉科でもいろんな睡眠と絡んだ症例がありますし、小児科でもありますし、いろんな意味で、睡眠に絡むところが多いですから、大学の病院の中にも、睡眠に関する専門のお医者さん、というのは、ずいぶん増えました。
だから、研究してる人も、心理学とか、生理学、エンジニアもいれば、寝室環境専門の人もいるし、それから、家政学では、布団だとか、枕とか、被服の問題なども含まれますよね。
それとか、寝る前には何を食べちゃいかんとか、そういうこと研究するような人たちも増えてきました。
かように、研究する層は、ひじょうに厚くなっていますね。
ですから、看板こそかかげていないけれども、睡眠のプロとして活躍してる人というのは、非常に増えて、いま睡眠学会という、ちゃんとした組織の会員が、一昨年の時点で、2000人台の後半にありましたから、もう3000人くらいになってると思うんですが、まあ、そういう形で、世の中の後押しがあって睡眠を研究する場は、市民権を得たという感じでしょうかね。
もっとも、市民権そのものは、お墨付き的なものじゃなくて‥‥

[糸井]
世の中の変動相場制ですね。

[井上]
ええ。民意を反映してるという感じですかね。

[糸井]
そうですね。
でも、それは逆に言うと、民意としては高まりが非常に長いこと続いている、というふうにも言えますね。

[井上]
下ることがなくて、どんどん上がっていますね。

[糸井]
ぼくらも、睡眠に関するアンケートでは、3日間で、2万3千通が集まりました。

[井上]
関心を持ってる人がものすごく多いんですね。

[糸井]
よくぞ聞いてくれましたという感じで、待っててくれたというか。
ともだちと睡眠の話をするなんてことは、愚痴を言うくらいしかないと思うんですけど、ちゃんと考えたくてしょうがないんだと。
だけど、きっかけもなかったんだと。
言葉として合ってるかどうかわからないんですけど、
「高品質の眠り」というものを、多くの人が求めているんだと思います。
食べ物に対して、いい野菜があったり、いいブランド肉があったりするのと同じように、自分の生きるということに係わった品質のいい休み方とか、眠りというのが欲しい、という気持ちが、そうとう高いと。

[井上]
そうですね。
一面では、睡眠についての情報が、かなりいろんな意味で、手に入りやすくなってることがあると思うんです。
睡眠がいかに大事なものであるか。
いかに安上がりな健康法であるか。

[糸井]
そうか! そうですね!

[井上]
結局、睡眠不足が万病の元というならね、快眠は。

[糸井]
薬である。

[井上]
そうですね。

[糸井]
百薬の長である。

[井上]
百薬の長でして、ぜんぜんお金かからないし、それから、世の中の平和に貢献するようなたぐいですからね。

[糸井]
眠りながら銃は取れないですからね。

[井上]
そうなんです。
気も立ちませんから、いらいらすることもないし、キレるなんてこともしないし、のんびりできるんで、いろんな意味で非常に大事なことなんです。



(つづきます。)


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