[糸井]
聞けば聞くほど、マニエル監督のことが好きになりますね。
[田口]
おっかしいなぁ‥‥。
でも、たしかに憎めないんですよね。
[糸井]
ちなみに、ほかの控え選手は、赤鬼に対してどうだったんですか?
[田口]
ぼくと同じ感じですね。
文句のあるやつは監督室に行くんですよ。
「出してくれ、つかってくれ」って。
で、そのたびに、
「またアカンかったわ。我慢せぇ、言われた」
って帰ってくるんですよ。
で、いつの間にか文句を言う人もいなくなって。
[糸井]
「父」の人柄ですねぇ。
[田口]
なんなんですかねぇ。
[糸井]
でも、少なくとも、監督室に行けるムードはあるわけですね。
ピリピリしてたりはしてない。
[田口]
あ、してないです。それはないですね。
[糸井]
ぼくはちょっとだけ、ジャイアンツのベンチ裏の雰囲気を知ってたりするんですけど、やっぱりね、監督室に選手が乗り込むって、けっこう、ありえないことですよ。
[田口]
ああ、日本の監督の場合はそうですね。
ぼくも日本にいたときは、監督室なんて、呼ばれる以外は行ったことないですね。
[糸井]
あ、そうですか。それは仰木さんのときでも?
[田口]
仰木さんとしゃべれるようになったのは、監督と選手の関係が終わったあとですから。
その点、マニエル監督とは、日本の話ができることもあって、最初からずいぶん打ち解けて話してました。
[糸井]
日本で長く野球をやってたんだから、田口さんとは野球観が合わなかったとはいえ、日本野球の影響だって、受けてますよね。
[田口]
そうですね。
たとえば、練習量なんかはすごく多いんですよ。
[糸井]
そこは日本野球なんだ。
[田口]
ええ。基本的に、休まないんです。
メジャーリーグの野球って、日本じゃ考えられないほど連戦が続くんで、
「今日はバッティング練習、なし」とかあるんですけど、必ず外で打たせますから。
もう、時間があったら、必ず外でバッティング。
[糸井]
日本流。
[田口]
ええ。あるときなんかは、監督がやってきて、
「ソウ、バッティングの調子が悪い選手は どうしたらいいのかなぁ」ってぼくに訊くんですよ。だから、
「そんなん練習しかないでしょう」って言ったら、
「やっぱりそうだよなぁ」って。
「でも、日本人はなんで あんなに練習するんだ?」って言うから、
「疲れてきたら体が思い出すんです」って答えたら、
「それはそうだ。
Body knows everythingだ」とかって言いだして、調子の悪いやつに、みんな打たせはじめたんです。
[糸井]
「Body knows everythingだぞ!」って。
[田口]
ええ(笑)。
[糸井]
憎めないなぁ。
[田口]
いまとなっては、憎めないです。
[糸井]
でもね、真面目な話、マニエル監督の野球ってぼくは本当に、有効なんだと思いますよ。
それは、ワールドシリーズに勝ったからじゃなくて。
ある種、これからの時代に求められている組織論なんじゃないかなと。
[田口]
そうですか。
[糸井]
たとえば、サインがないほうが盗塁が増えるなんていい例ですよね。
つまり、個々の選手が考える野球をせざるをえないわけでしょう?
これまでの組織論でいうとね、組織全体に対して脳はひとつでよかったんです。
脳はひとつで、あとは脳からの指令を忠実にこなすボディであれ、と。
ところが、赤鬼ことマニエル監督は、脳を分散して、それぞれの選手に乗っけたんです。
相手からすると、そっちのほうがずっとイヤな野球だと思いますよ。
[田口]
ああ、そうかもしれません。
[糸井]
もっというと、スクイズを前から思ってたのといま思いついたのとの違いって、なんなんでしょう。
サインがあってヒットエンドランしたことと、自由に走るやつと打つやつの組み合わせでヒットエンドランになっちゃったことの違いって、相手からすると、ないですよね。
「長いシーズンを戦ううえで、 成功の確率が違う」という言い方を日本の野球ではするのかもしれませんけど、そもそもその確率って、ぼくは野球の素人ですけど、ちょっと疑ってるんですよ。
ぜんぶが疑わしいとは言いませんけど、
「結果から逆算してあとで言ってる」ことがずいぶんあるんじゃないかと思っていて。
[田口]
なるほど。
[糸井]
もっとわかりやすくいうとね、なんでぼくがこんなに赤鬼派なのかといえば、赤鬼派じゃない仕事のしかたが、世の中でことごとく行き詰まってるからです。
たとえば、いまの日本の野球のセオリーが染みついてる人が監督になったら、だいたい、同じような野球を目指すと思うんです。
それはね、やっぱり、もろいと思う。
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