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[糸井]
ことあるごとに監督室に乗り込んでいた田口選手は、そのあと、どうなるんですか?
ずっとその調子でシーズンが終わったわけじゃないでしょう?

[田口]
そうじゃないですね。
だから、いま思えば、監督の作戦にハマったのかなとも思うんですけど、オールスター明けくらいから、
「試合に出られないなら、どうすればいいか」
っていうふうに考えはじめるんです。



[糸井]
おお。

[田口]
最初のころ、監督室に乗り込んでたころは、監督やコーチの考えをぼくが変えてやろうと思って行ってたんです。
絶対、ぼくの考える野球のほうが正しい、という思いでいたんです。
でも、相手はまったく変わらなかった。

[糸井]
「正しい」ということだけにしか拠り所がないときって、弱いんですよね。

[田口]
ああ、そうかもしれないですね。

[糸井]
たとえば、マニエル監督はチームの「父」だっていう話が出ましたけど、お父さんが子どもに対して確信をもって怒れるというのは、
「正しい」以上のものを持ってるからですよね。

[田口]
そうですね。そう考えると、ぼくの思う「正しい」にはあまり重みがなかったかもしれないです。

[糸井]
互いが「正しい」と思ってることを言い合うだけの場所って、そんなにたのしくもないですし。

[田口]
ええ。



[糸井]
その「オレは正しい」というモードから、オールスター戦のあとに変わったっておっしゃいましたけど、なにかきっかけのようなものがあったんですか。

[田口]
うーん‥‥なんでしょうね‥‥オールスター戦の休み中、ゴルフをしていたときに、
「やめた」って思ったんですよ。急に。
「ムダな努力はやめとこう」って。

[糸井]
へぇー、おもしろいですねぇ。

[田口]
どうしてそう考えたのか、よくわかりませんけど。
とにかく、自分が正しいと思うことを通そうとするのは「やめた」と。

[糸井]
で、「どうしたらいいのか考えた」と。

[田口]
はい。
まず、チーム状態がこのままなら、おそらく出場機会はほとんど得られないだろう、と。
そういう前提でどうしようかと考えたとき、
「笑うしかない」ということをまず感じたんです。



[糸井]
「笑う」。

[田口]
はい。
ベンチに入れる選手は25人しかいないんです。
そのなかのひとりでも変な顔して野球をやってたら、それはたぶんチームに影響が出るだろうなと。
あのチームで、たぶんぼくが25番目の選手で、試合がどういう展開になったとしても、おそらく、いちばん最後にベンチから出て行く選手が、ぼくなんです。
ということは、チームをパズルにたとえたら、25番目のピースがぼくで、最後の最後にきっちりはまらないといけないピースだと。
これがふつうにつくられたパズルなら、きっちりハマるようにできてますよね。
でも、人間がやることですから、ぼくは最後の隙間を埋められるようなピースにならないといけない。
‥‥という勝手な、偉そうな解釈に至って、そこからすごく自分が楽になったんです。



[糸井]
「正しい」と思ってた自分の形をもっと曖昧にすることで、楽になったんだ。

[田口]
はい。ですから、もう、いろんなとこに入っていって、みんなを気持ちよくさせてあげたら、それがぼくの仕事かなと。

[糸井]
それと同じような話を、ぼくは現役晩年の中畑清選手から聞いたことがあります。
晩年の中畑さんは、試合に出られないことが多くて、チームのリーダーなのにベンチで腐ってるような状態だったそうです。
それが、当時の監督の藤田さんと話すなかで、すねてた自分がひっくり返っちゃって、
「ベンチのなかから試合に参加してやる」って決意したんだそうです。
中畑さんの場合はきっかけが藤田監督で、それ以来、「一度は監督をやってみたい」って中畑さんは思うようになったらしいんです。
田口さんの場合は、たぶん、マニエル監督とは関係なく、ご自分で決意されたんだと思うんですけど、そうはいっても、監督という存在が影響していないわけはないと思うので。

[田口]
そうですね。
マニエル監督も、選手とよく話をする人なんです。
ふだんも監督室じゃなくてクラブハウスにいるし、そういう空気は影響してると思います。

[糸井]
さんざん愚痴をおっしゃってる反面、嫌いじゃないっていう感じもひしひしと伝わりますしね(笑)。

[田口]
そうですね、憎めないです(笑)。



[糸井]
(笑)

[田口]
野球の考え方とか理論でいくと、ぼくと監督の理論はちょっと違うな、というのがあるんですけども。
でも、野球理論の違う人なんていっぱいいますから。
それまでのぼくは違う理論の監督の下でやってきたから最初はちょっと苦しかったんですけど、そういうなかで、自分がどう振る舞うべきなのかとか、ベンチの最後の選手の気持ちはどういうものなのかというようなことがわかって、そういう意味ではすごく勉強になりました。
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