[糸井]
「過剰に興奮させない」というので典型的な例を挙げると、画面に昭和の有名人がちょこちょこ出てくるじゃないですか。
あのへんなんて、きっと三谷さんがおもしろくさせようと思ったらいくらでもできるじゃないですか。

[三谷]
はい(笑)。

[重岡]
(笑)



[糸井]
たとえば、高倉健が出てきたりとか‥‥
(話を聞いている乗組員たちに向かって)
‥‥あ、知らないだろうけど、ドラマのなかに、当時の人として、しょっちゅう有名人が出てくるんだよ。
それは、主人公たちがその人の舞台を観に行くっていうわかりやすいパターンもあるんだけど、おもに、通行人みたいにして、ちらっ、ちらっと出てくるんだ。
闇市で「ワカメはないの?」って言ってる人に
「長谷川町子」っていう字幕が出たりとかさ。

[一同]
(笑)

[糸井]
なんていうか、ちょっとくすぐってるだけ、みたいなことがたくさん仕込んであるんですよね。

[重岡]
はい(笑)。

[糸井]
で、高倉健も出てくるんだ。

[三谷]
学生時代の高倉健さんです。

[一同]
(笑)



[糸井]
その学生時代の高倉健さんと主人公の一家がたまたま九州から上京する列車に乗り合わせるのよ。
ただそれだけの場面なんだけど、そこで三谷さんがちょっとだけ遊んでるのはその人のセリフに「不器用ですから」
っていうフレーズが混じってるんだ。

[一同]
(笑)

[三谷]
ちょっとだけね(笑)。

[糸井]
ちょっとだけ(笑)。
で、お客さんとして観てるときに、まず、その青年が出てきたときに
「あ、これは誰かなんだろうな」って思うわけ。
で、なんとなく、
「高倉健かな?」って思いながら観てたら、そんなことをさらっと言うからクスッと笑っちゃうじゃないですか。

[三谷]
(笑)

[糸井]
でも、それだけなんですよ。
字幕で「高倉健」って出るだけで、それ以上のことはしない。
舞台でいうと、ライティングしないんですよね。

[三谷]
そうですね。



[糸井]
たぶん、そのへんは演出家の方もそうとう気をつかってるんだけど、遊びすぎない、強調しすぎないっていうふうにすごく配慮して描いている。
そこが、なんていうか、カロリーが高すぎなくていいんですよ。

[三谷]
いや、ほんとはね、遊びたくってしょうがなかったんですよ。



[一同]
(笑)

[糸井]
そうでしょうね(笑)。

[三谷]
あの時代の有名人ってたくさんいらっしゃいますからね。
美空ひばりとか、力道山とか。
それはもう、いろんなことをしてみたい。
でもね、あの時代をおもしろおかしく扱うっていうのは、まだちょっと難しいんですよ。
遺族の方もいらっしゃるし。

[糸井]
あああ、なるほど。

[重岡]
アイデアとしてはもっといろんな人が挙がってたんですけど、台本とプロットをお伝えして、お断りをいただいたケースもありますし。

[糸井]
ああ、そうですか。

[三谷]
そんななかで高倉健さんは、二つ返事でOKで。

[重岡]
そうなんですよ。

[糸井]
へーー(笑)。

[重岡]
三谷さんの台本を見たら
「不器用ですから」なんて書いてあって、こんなの許してもらえない、と思って。

[糸井]
ははははは。

[重岡]
うちの上の人間で健さんにルートがある人間もいたんですけど
「こんな失礼なこと、ぼくには聞けません」
みたいに言われてしまって(笑)。
しょうがないから私が正面から連絡して、
「はじめまして」っていうところからはじめておうかがいしてみたら、ご本人の了解をいただけて。



[三谷]
ほんとは、ご本人にお見せする台本だけ
「不器用ですから」を消しとこうかと思ったんですけど。

[一同]
(笑)

[三谷]
そんなことしなくてもOKをもらえて。

[糸井]
でも、その、「不器用ですから」だけっていう抑え方がいいんですよ、やっぱり。
力道山を演じた役者さんだってね、力道山の役だっていうことであればもっともっといろんなことができるでしょう?

[三谷]
できるでしょうねぇ(笑)。

[糸井]
それが、空手チョップひとつ、しやしない。

[三谷]
ははははははは。
(話を聞いている乗組員に向かって)
‥‥ぐっさん(山口智充さん)なんですよ。

[一同]
へーーー(笑)。
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