[糸井]
脚本も、演出も、役者さんも、遊びすぎないように、抑えて、抑えてってやってるなかで、ひとりだけ、自由だった方がいますよね。

[三谷]
ああ(笑)

[重岡]
はい(笑)。



[糸井]
西田敏行さんなんですけど。

[一同]
(笑)

[重岡]
あれでも、だいぶ自由さを削った編集をしたつもりなんですけど。

[糸井]
つまり、もっと自由だった?

[重岡]
もっと自由でいらっしゃいました(笑)。



[一同]
(笑)

[糸井]
あの、この前の三谷さんの映画、『ザ・マジックアワー』のときに三谷さんは脚本優先ということで、西田さんにアドリブを禁じられましたよね。

[三谷]
はい。
ラストの10分以外は台本どおりやってくださいと。

[糸井]
そこで抑えたぶん、今回は‥‥。

[三谷]
おっしゃるとおりです。
反動が出てしまったんです。

[一同]
(笑)

[糸井]
(話を聞いている乗組員に向かって)
あの、ネタばれっていうんじゃないけどさ、西田さんと佐藤浩市さんがわりとシリアスなやり取りをする場面で、西田さんがね‥‥ものすごく佐藤さんに近づくんだよ。

[一同]
(笑)

[三谷]
あの、部屋が狭いんですよね(笑)。



[糸井]
狭い(笑)。
だからといって、あの近づき方はない。
あのシーンは笑ったなぁ‥‥。

[重岡]
おかしいですよね(笑)。

[糸井]
大げさじゃないんですけどね。
だからこそ笑っちゃう。
あれ、あの場でやってるんですよね?
あんな指示しないですよね?

[重岡]
そうですね。
あれ、佐藤浩市さんが相手だからぎりぎり成立するっていうか他の、そういことに慣れてない人だったら、たいへんなことになっちゃうと思います。

[糸井]
佐藤さん、まったく避けませんからね。

[一同]
(笑)

[三谷]
いや、西田さんは、佐藤さんが避けないこともきっと計算済みなんですよ。

[糸井]
そうですよねー。

[三谷]
この人なら大丈夫だっていう西田さんなりのたしかな計算があって、それがまた腹立たしいんです。



[一同]
(爆笑)

[糸井]
ははははははは。
まぁ、でも、自由に動ける場所を用意しているのは三谷さんなわけで。

[三谷]
それはそうですが、あんまりおもしろくされると腹立たしいですよ、嬉しいけど。

[一同]
(笑)

[糸井]
ほかにもそういう場所がいくつかあって、中井貴一さんと佐藤浩市さんがいわばヤクザどうしとしてやり合う場面があるんですけど、あそこは、三谷さん、書いてて楽しかったんじゃないですか?

[三谷]
おもしろかったですけど。
ただ、あれも腹立たしいことがあって、佐藤浩市さんが拳銃を出して
「これで、俺を撃て」
みたいなこと言うじゃないですか。

[糸井]
うん。

[三谷]
で、僕の脚本では、中井さんがその銃を持って、
「なかなかおもしろいやつだ」
と言っておしまいだったんですよ。

[糸井]
え?

[三谷]
ところが、あがってきたのを観てみたら、中井さんがほんとに拳銃を撃ってる!

[一同]
(笑)

[糸井]
あれ、台本じゃないんですか。



[三谷]
あれは中井さんのアイデアです。

[重岡]
そうですね。

[糸井]
演出家の指示でもなく、俳優さんが。

[重岡]
中井さんがやりたいんですけどということをおっしゃって。

[糸井]
あの場面は、なんというか、三谷さんの脚本にしてはめずらしいと思うんですけど、中井さんと佐藤さんが役者を超えて勝負しているような場面で。

[三谷]
そうなんです。
だから、ぼくとしては真剣すぎてちょっと恥ずかしいところなんですよ。
しかも撃つとは思わなかったから。
「そこまでやるか!」みたいになっちゃって。

[糸井]
でも、ぼくは、よかったですよ、あそこ。
あのくらいのことがあったからこそ、中井さんのその後の行動も腑に落ちる。

[三谷]
うん。
ま、結果的にはよかったと思うんですけど。

[糸井]
つまり‥‥腹立たしい結果に。

[三谷]
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