|
第3回 3つの動機と、ニコチンパッチ。
[永田]
1日80本を吸っていた糸井さんは、本格的な禁煙を決意し、禁煙外来に通うことになります。
治療を受けて、いかがでしたか?
[糸井]
うん。
なんていうのかな、どんな病気もそうかもしれませんけど、お医者さんに任せていれば自然とうまくいきます、というものじゃないですね。
[永田]
そうですね。
[糸井]
現実的なことでいうと、いちばん大きかったのは、ニコチンのパッチを処方してもらったことです。
[永田]
ようするに、タバコ以外のもので体にニコチンを入れていく。
[糸井]
そういうことです。
で、そのパッチをだんだん小さくすることで、徐々にタバコから離れていくという、そういうことを、お医者さんの立ち会いのもとにやったということですね。
[永田]
ぼくも治療に同行したので覚えてるんですけど、お医者さんの話すニコチンの害とか、タバコについてのデータに負けないくらい、糸井さんもタバコについていろいろなことを知ってるもんだから、治療も、最初は微妙にかみ合わなくて(笑)。
[糸井]
いや、やっぱり、何十年も吸ってるあいだに、タバコを吸う人としての理論武装みたいなものはものすごく上達してたからね(笑)。
あとは、さっきもいったけど、中毒という黒幕がなんとか吸わせようとして、あの手この手で自分を甘やかすから。
いま思えば、先生には、いろいろ屁理屈を言ったような気もします。
[永田]
なんか、最後は、友だちみたいになってましたよね(笑)。
あの、最初の診察を終えたあとの帰り道で、
「あれは効いたなぁ‥‥」としみじみ話したことがあるんですけど、覚えてます?
[糸井]
覚えてる。少年の写真だ。
[永田]
そう。
その、禁煙外来の最初の診察のときに、
「タバコを吸ってるとこんな害があります」
っていうことで、こう、肺が真っ黒になってる写真とか、いろんなものを見せられたんですが、そんななかで、ぼくらがいちばん
「うわぁ」って感じたのが、アジアのどこかの国の、男の子がタバコを吸ってる写真。
こう、背中を丸めて、おっさんみたいな顔で。
[糸井]
小学生になったかならないか、っていうくらいの歳だと思うんだけど、すごく老けてるんだよね、全体に。
完全に「タバコを吸う人」の雰囲気で。
あれは、ショックだったなぁ。
[永田]
ショックでしたねぇ。
[糸井]
もう、中毒になってるんだよね。
で、あれを子どもにさせるかっていったら絶対させないですよね。
[永田]
絶対させないです。
あ、それも、「灰皿を洗う人の話」と同じでここについてははっきり言えるぞ、っていうことのひとつですね。
[糸井]
言えることの1つだね。
どれだけタバコが好きな人でも、子どもたちに吸えって言えないでしょう。
[永田]
そうですよね。
実際、糸井さんも、ヘビースモーカーでありながら、自分のお子さんには、成人後もタバコを固く禁じたそうですが。
[糸井]
そう。
「吸ったら殺す」って言った。
[永田]
1日80本吸いながら(笑)。
[糸井]
ぜんぜんダメだよね、それじゃ(笑)。
それは、オレがタバコを止める動機のひとつなんです。
[永田]
あ、そうなんですか。
それははっきり聞いたことがなかったです。
[糸井]
それだけじゃないですけど、大きな動機のひとつでした。
子どもに「絶対やめろ」って言ってることを自分が「中毒だからやめられません」
って言うのは、やっぱりおかしいでしょう。
[永田]
なるほど。
[糸井]
やっぱり、そういうことが現実的にいくつか重なって、だんだん禁煙へ向かっていくんですよ。
もうひとつ、覚えているのは、タバコを吸わない人と、仕事で海外へ出かけたときのこと。
そうするとね、その人が、すごく上手に、旅のあちこちに「タバコを吸う時間」をつくってくれるわけ。
これがねぇ、申し訳なくて。
[永田]
あああ、わかります。
[糸井]
その人もかつて吸ってて、すっかりやめた人だったから、吸う人の気持ちがわかるわけ。
で、旅の流れを止めて、そういう時間をもうけてくれる。
オレが吸ってるあいだ、その人は待ってる。
この、「待たれてタバコを吸う」っていうのはけっこう、痛いんですよ。
なんていうのかなぁ、その人とは、仕事上でもいろいろ相談し合ってたこともあって、男どうしの勝負っていうと、大げさですけど、男らしい心というか、プライドみたいな部分で負けてる感じがするんですよ。
[永田]
迷惑をかけている感じがつらいんですよね。
[糸井]
つづきを読む