|
第4回 においと儀式。
[糸井]
吸わなくなってすぐに発見したことは、自分の車がタバコ臭かったってこと。
[永田]
ああー。
[糸井]
もう、吸わなくなって2日くらいでわかったね。
[永田]
やめたときに糸井さんが言ってたことですごく印象的だったのは、
「食べ物が美味しくなるっていうのはうそだ。
たしかに美味しいものは美味しくなるが、 まずいものはよりまずく、 臭いものはより臭くなる」
っていうことで。
[糸井]
それ、いまでもそう思ってる。
[永田]
はははは。
[糸井]
バランスからいうと、
「まずいものがよりまずく」のほうがずっと多かったと思うなぁ。
なにしろ、いろんなものが臭くてさ。
[永田]
タバコをやめると、嗅覚の変化はすぐわかりますよね。
なにがわかるって、いちばんわかるのが、
「タバコのにおい」。
[糸井]
わかるねぇ(笑)。
[永田]
「臭いものがより臭く」じゃなくて、いままでゼロだったものが、突然、現れるわけですから。
[糸井]
そうだね。
吸ってるときは、そのにおいはゼロに等しいからね。
[永田]
わかってるつもりではいるんですけどね、吸ってるときも、タバコのにおいに。
[糸井]
でも、ぜんぜんわかっちゃいないよね。
[永田]
はい(笑)。
[糸井]
ミーティングの前に、ささっとタバコ吸ってきた人とかさ。
[永田]
すぐわかりますね。
[糸井]
おまえ、いまタバコ吸ってきただろう、と。
[永田]
そうそう(笑)。
それがいまなのか、さっきなのかもわかりますよね。
[糸井]
わかる。
[永田]
でも自分が吸ってたときは、そんなことをいちいち気づかれてるなんてまったく思わないですよね。
[糸井]
むしろ、よく言われなかったと思うね。
[永田]
そうですね(笑)。
[糸井]
そう考えると、すごいよなぁ。
あと、まぁ、その、青春の思い出として語るとすればさ、よくタバコ吸ってた人間とキスしたよね。
[永田]
はははははは!
[糸井]
人々はさ。
もう、なにそれ、って感じだよね。
[永田]
はははははは。
[糸井]
信じられないよね。
[永田]
まぁ、美意識とかも、それこそ時代によって変わるというか、『赤いスイートピー』だと、
「タバコのにおいのシャツに そっと寄り添うから」ですから。
[糸井]
まぁねぇ‥‥。
でも、ひどいよね。
いやー‥‥‥‥申し訳ない。
[永田]
はははははは。
[糸井]
まぁ、こういう、くだらない話でも、やめようとしている人の背中を押すことにつながるかもしれないし。
[永田]
あ、けっこう、あると思いますよ、漠然とした正論をくり返されるよりも。
[糸井]
それはそうかもね。
[永田]
ちなみに、ぼくが禁煙したときになんとなく支えにしていたエピソードがいくつかあって。
[糸井]
ほう。
[永田]
ひとつが、知り合いが禁煙に失敗したときのエピソード。
その知り合いは、「やめるぞ」ということで妻と子どもと固い約束を交わしまして。
実際、1年くらいやめるんです。
ところが、あるとき、またはじめちゃった。
[糸井]
あらら。
[永田]
しかも、それを家族に隠してまして。
ずーっと言い出せなくて、家族に隠れてタバコを吸ってた。
つまり、家では、
「禁煙したお父さん」なんだけど、実際は、隠れて吸ってる状態。
そのギャップに苦しんだ本人は、あるとき、家族を呼ぶんです。
「ちょっと話があるから来なさい」と。
[糸井]
わぁ。
[永田]
で、正直に、
「すまん。お父さんは、吸ってた」と。
そしたら、子どもが泣き出しちゃったりして。
でね、ぼくがこの話のどこを支えにしてたかというと、
「そんな面倒くさいことは絶対したくない!」
っていうことで。
[糸井]
たしかに、たしかに(笑)。
[永田]
自分がちょっと吸いたくなるたび、このエピソードを思い出してました。
「吸うと、面倒くさいぞ!」と。
もう1コは、糸井さんは絶対覚えてないと思いますけど、ぼくが禁煙しているとき、
「今日のダーリン」にそのことをちらっと書いたんですよ。
「うちの会社の誰かさんが 禁煙してるみたいですね」って。
つづきを読む