【面影】
おもかげ
[例文]
あなたがいま手にしているのは、ザ・ゴロニャンズの待ちに待った4年ぶりのサードアルバムである。
そう、ザ・ゴロニャンズは帰ってきたのだ。
ウェルカムバック・ゴロニャンズ!
全28曲入りのこの大作を解説するまえに、まずはゴロニャンズの経歴を紹介しておこう。
マイク・ゴロニャーことマイク・ジャイブスは1972年マンチェスターに生まれた。
ジャズピアニストだった父親の影響を受けた彼は、無類の猫好きとして町内で評判になる一方、幼いころから音楽に親しみ10歳にして早くも作曲をはじめる。
その後、マイクは多感な十代にポストパンクやニューウェイブの洗礼を受け、18歳の春にロンドンのアートスクールへ入学。
そこで、後にザ・ゴロニャンズのベーシストとなるミヒャエル・ニャンコと運命的な出会いを果たす。
ふたりは中古のMTRとリズムボックスを使い、8曲入りのデモテープを作成。
当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったヒマラヤン・レーベルにそれを送りつける。
レーベルのオーナー兼人気DJだったミケ・フリスキーは彼らのテープを聴いて爆笑。
自己のターンテーブルを売り払って彼らのために録音機材を買いそろえたという逸話は音楽ファンにとってあまりにも有名だ。
ロンドンに出てきたマイクとミヒャエルはドラマーのオーディションを開始。
ジョン・バウワウ&ドーベルマンズを脱退したばかりのドラマー、ダックス・ブルを第3のメンバーに加え、ついにデビューアルバムとなる『CAT&CAT』(邦題『ニャンとも☆キャット』)を発売。
ダイナマイト・キティー・チャートで4週連続トップテン入りのヒットを記録する。
楽曲のヒットを喜んだミケ・フリスキーがそのギャラでターンテーブルを買い戻した逸話は音楽ファンにもあまり知られていないだろう。
その後、ザ・ゴロニャンズはスコット・シュレーディンガーをギタリストに迎え、ダンサブルな新曲『キャット・ウォーク、キャット・ラン』(邦題『逃げろ、子猫ちゃん!』)をリリース。
全世界で300万枚を売り上げる大ヒットとなる。
ヨーロッパ、アメリカを回るツアーも大成功し、ザ・ゴロニャンズは満を持してセカンドアルバム『スマイリング・キャット』(邦題『猫が笑う‥‥不気味に』)を発売するが、これが、泣かず飛ばずの大撃沈。
全世界で3000枚しか売れなかったというから関係者の苦労たるやいかばかりか。
むろん、ミケ・フリスキーはすぐさまターンテーブルを売り払い、マイクは酒とギャンブルとモノポリーに溺れる日々。
バンドは活動を停止したまま4年の月日が流れ、誰もがザ・ゴロニャンズの名前を忘れた。
しかし、ザ・ゴロニャンズはいま帰ってきた!ウェルカムバック・ゴロニャンズ!
プロデューサーにソウル界の重鎮、ミスター・ゴッド・キャットを、ゲスト・ミュージシャンに新鋭バイオリニスト、アルフレッド・ニャーニャー・ネコネコを迎え、デジタル録音を駆使した本作には、まさにゴロニャンズサウンドの真髄があますところなく詰め込まれている。
マイクのつむぎだすメロディーはシャム猫のしっぽのようにしなやかで、ミヒャエルのベースは生まれたばかりの子猫の毛並みのように初々しい。
ダックスの刻む猪突猛進なリズムにスコットのバイオリン奏法がからむ一瞬はまさにニャンともスリリング!
この会心のアルバムに対して、マイク・ゴロニャーはつぎのように語っている。
「オレたちがオーディエンスを作るんじゃない。オーディエンスが缶詰を作るんだ。冬の日に窓辺で眠る猫が恐ろしく丸いようにね」
まさにこの言葉がすべてを物語っている。
さあ、これ以上の解説は猫に小判というものだ。
リスナーが待ち望んだ4年ぶりの新作、『ザ・メモリー・オブ・ザ・キャッツ』(邦題『ニャンコのおもかげ』)を心ゆくまで堪能してほしい!
すべての曲を聴き終えたあと、あなたの心に愛のマタタビが香ることを、私は願ってやまない‥‥。(ヒダマリ本郷/CATROCKMAGAZINE)
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