MAEDA
緊急特集・前田日明インタビュー。
「リングスのマットを 降りる日は、
こんなイメージ」

前田日明が、リングスの選手としての
最後の試合をする。
7月20日。横浜アリーナ。
格闘家としての現役を引退する最後の試合は、
もうひとつある予定らしいが、
前田が、「いちばん強い者は誰か」を
決めようと試行錯誤してきた
リングス・ルールでの、一選手としての試合は、
これが見納めになる。

いつかくるとはわかっていたその日が、
いよいよ近くなると、
いっそそんな日は来ないでくれという
気持ちにさえなってしまう。
ひさしぶりに前田日明と、電話で話した。
むろん、その日の話題を避けるわけにはいかない。

ぼくとおなじような気持ちで、
7月20日を待つ前田ファンのために、
彼との会話を、取材ということにさせてもらって、
ここに再録させてもらうことにした。

ITOIへ

横浜アリーナでの前田のラスト。
オレはなんだかシミジミしちまったぜぃ。
前田がリングへの花道に現れる暗闇の中で、
オレは何十年ぶりかの涙ちゅうモンが流れて出てきて、
本当にあきれてしまうほどだったわい。
歳取っちまったのかなぁ・・・。

センチメンタルになってたワケではなかったし、
過剰なイメージももたないまま横浜にむかったんだけど。
火炎を見つめてきた眼玉から涙なぞ蒸発しちまったはずなのに。

格闘王前田のオシマイはあれでイイんだ。
試合が始まってからは、
もうオレの眼玉からは水気はこぼれなかった。
すがすがしく前田を観ていたよ。
イイ人生を持った男<前田>は、
またあたらしい前田となってオレらの前に現れるぞ、きっとな。

二次会に行こうと思っていたけど、
FINLANDのボケで車の中で
寝ちまいそのまま帰って睡ちまったわぃ。
明日からオレはとてつもない
デッカイ硝子を彫刻し始めるんだ。
オレの格闘の始まりだ。
今度は太陽や月や星の光りに
反応するゲージツだぜい。お楽しみに。

釣りも行かなきゃ。是非いつか鯛でも釣りに行こうかい。
バスのゲームフィッシングにはない楽しい緊張感があるゾ。

KUMA

1998-07-22-WED

「噂では、道場での練習が
ずいぶん多くなったらしいですね」

「いやぁ、滑川のデビューとかあったんで、
教えられること教えとこうってのもあって。
練習台として手伝ってただけですよ(笑)」  
「リングス最終戦っていうことで、
センチメンタルな気分とかあるんですか?
思い起こせば・・・みたいな」
「それは、引退を決めた頃のほうが
ありましたよね。
ロシアの選手とかとやってるときでも、
コイツには世話になったなっていうか、
一人っきりで旗揚げしたときに、
参加してくれた選手たちに、
感謝するようなね・・・
いや、それが、リングの上で瞬間的に 感じるんやね。
いかんいかん、と思ったりしてて。
闘う動機が弱ってきてるなって。
いまは、そんな時期は過ぎましたから」  
  前田日明
「どんな?」
「ランキングの返上もして、ただの一選手っていう状態で、
リングにあがるわけやし、守る姿勢よりも、
俺の考えているいい試合っていうのを、
山本(対戦相手の愛弟子)も俺に近いタイプやし、
やれたらいいですね」
「前田のおそろしさを知れって?(笑)」
「そんなんも、ないことはないけど。
強いとか、勝つとかいうのは、
だれかの持ち物じゃないんで。
力と、時期と、思いみたいなもんと、
こう、全部トータルして上回ったほうが
奪い取るもんだと思うんで、自分は、
その〈時期〉の点で、ハンデがあるし。
山本にも、まだ自分より弱い部分がたくさんあると思うしね。
それが、ちゃんとかたちになってぶつかりあえば、
納得のいくラストマッチになると思うんで」
「イベントっていうか、
セレモニーみたいなことは、考えてるの?」
「いやぁ、それ、相談でもあるんですけど。
リングスのテーマと、
儀式とかお祭りみたいなことは、似あわへんと思っててね、
会社の人間とかは、前田さんの花道をとか言ってくれて、
それはありがたいんだけど」
「花束贈呈とか、断髪式とか?(笑)」
「そうそう、そういうの。
たしかに、駆けつけてくれるお世話になった
人たちもいるわけやし、
礼儀としては、感謝の意味でにぎやかにするっていうのも
アリだとはわかるんだけど」
「・・・最後の試合をほんとに
いい試合にするほうが大事な気はするわ」

「そうですか。ファンとか、
周りのひとたちが、理解してくれるんやったら、
前田の選手として最後のわがままってことで、
イベントっぽい演出とかなしでね、
終わったほうが、自分らしいような。
気持ちと気持ちだけで、
つながったらエエやないかみたいなことにしたいんですよ」

「いろんな意味で、勇気のいることだけど、俺は大賛成。
それ、似合うの、前田しかいないような気がするもん。
例は悪いけどさ、葬式の案内状で、
『故人の生前の意志により、
香典献花等をご遠慮させていただきます』
ってあるじゃないですか。
あれって、結構、勇気のいることだと思うんだよね。
そうは言っても、とか親戚のおじさんが言い出したりして」
「まぁ、自分のわがままっていうか、美意識っていうか、
周りをまきこむのも悪いかなとは考えたんやけど。
自分らしくないことしたら、
かえって裏切ることになるし。
水着のおねぇちゃんいっぱい集めたりしてなら、
考えんこともないけど(笑)」
「巨乳の?・・・テーマがちゃうやろっ!」
「ほっんまに、なんにもないところから始めたし、
なんにも持たずに去っていくのが、ええかな、と」
「俺は、理解した。アイ リカイド ユー。
いわゆるどれだけ有名人が集まったかなんてところで、
勝負してほしくないもんね。
いなかの選挙運動じゃないんだから」
「そーっすかね。イトイさん的にはOKですか」
「リングの上にいる人が、いい試合をすることだけで、
ファンや支持者をつくってきたのがリングスでしょ。
最後の試合も、
ひとつのいい試合って考え方は、すっごく前田らしいし、
リングスらしいよ。それに(笑)この先、
田村だって、山本だって、
みんないつか引退試合するわけじゃない?
その最後の試合にいちいち
大イベントだショーアップだって考えたら、
アスリートの団体のイメージじゃなくなっちゃうよね」
「サッカーのワールドカップ、見てました?」

話は、えんえん続きますが、このへんで。
当日、7月20日。前田日明の最後の試合が、
どんなものになるのか?
また、前田の「わがまま」が通って、
いわゆるど派手な引退イベントを、
ほんとの意味で超えた
「なにげないドラマ」が実現するのか?
人間的にはエピキュリアンであるような気もするけれど、
格闘家としては、
ずっとストイックでありつづけた男の、
選手としての最後の日を見届けに、
ぼくは、横浜アリーナに行きます。
(ほんとは、放送席でなく観客席にいたかった!)

前田日明さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「前田日明さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

1998-07-14-TUE

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