第2回: カードゲーム界の「最強チャンピオン」
- ──
- トランプって、
すこしミステリアスというか、
不思議な魅力がありますよね。
- 前田
- トランプの魅力のひとつに、
デザイン性の高さがあると思います。
「スタイリッシュさ」があるというか、
ファッション業界でも10年に1度くらいは、
トランプがモチーフになっています。
- ──
- たしかにトランプって、
ちょっとおしゃれなイメージがあります。
- 前田
- そもそもトランプって、
カードゲーム界の
「最強チャンピオン」ですからね。
- ──
- 最強チャンピオン?
- 前田
- これまでの長い歴史のなかで、
世界中の人々が
「トランプに代わるカードを発明する」と、
いろんなものをつくってきたんです。
でも、どれもこれもすぐに負けちゃう。
- ──
- あ、なるほど。
トランプが強すぎてしまって‥‥。
- 前田
- そうなんです。例えば、
トランプの数字を20に増やして
「もっと複雑なゲームができる」
と売り出した人がいても、
そういうトランプはやっぱり売れない。
「じゃあ、形を変えてみよう」と、
丸いトランプや
正方形のトランプをつくるんですが、
これもやっぱりダメ。
なにをどう変えても、
もとのトランプに勝てるものは、
いまのところないんです。
- ──
- 進化論みたいですね(笑)。
そういう話を聞いていると、
トランプがますます不思議なものに
思えてきました‥‥。
- 前田
- もともとトランプには謎が多い。
例えば「4つのマークがあるのに、
なぜ2色なのか」とか。
だって、マークが4つなら、
4色に分けたほうがわかりやすい。
- ──
- たしかに‥‥。
- 前田
- で、実際に4色に
チャレンジした人もいたんですが、
やっぱりダメだったんです。
- ──
- あぁ、ダメだったんだ。
- 前田
- というのも、トランプは、
あえて「記憶しにくい」つくりなんです。
つまり、4つのマークで4色にすると、
2色のときよりも記憶しやすくなります。
「7か8か忘れたけど、緑色だから‥‥」と、
カードの札を思い出しやすくなる。
そうなると記憶力が必要なゲームは、
ちょっとつまらなくなるんです。
- ──
- あぁ、なるほど。
- 前田
- だから、トランプって、
非常にいやらしくつくられています。
1枚覚えるのは簡単ですが、
2枚、3枚覚えようとすると、けっこう大変。
微妙に記憶がしにくいけど、
絶対無理というわけでもない。
- ──
- 「神経衰弱」とかって、
ほんとそれの連続ですよね。
13という数字も、
すごく中途半端で覚えにくい。
- 前田
- 13という数字についても、
いろいろな由来があります。
よくいわれるのが、
「暦(こよみ)を参考にした」という説です。
- ──
- 暦と聞くと、
13よりも12という気がしますが‥‥。
- 前田
- 13というのは、
「月」ではなくて「週」のことです。
1年間の3ヶ月って、
週で考えると13週なんです。
テレビ業界の方が「1クール」といいますが、
あれは3ヶ月、13週間のことです。
1つのマークを「3ヶ月」と捉えると、
トランプは4つのマークがあるので、
それぞれが季節を表していることになる。
- ──
- おぉ!
- 前田
- さらに、トランプの数を
「1+2+3+4‥‥」と、
52枚すべて足し算すると、364になります。
それにジョーカーを加えると、全部で365。
- ──
- さ、365! まさに1年じゃないですか!
- 前田
- 他にもトランプの発祥には、
いろいろな説があります。
1392年にフランスの
シャルル4世王の主治医が
「こういうカードをつくれば、
手も使うし、計算もするしで、
王様の物忘れ防止になるかも」
というのがはじまり、
という説があって、
ぼくはそれが有力だと思っています。
あとはタロットカードから
派生したという説。
- ──
- タロット。あの、占いで使われる?
- 前田
- 占いや超自然的なものって、
中世のころに暗黒時代があったので、
呪術や妖術の本を持っていたり、
占いを信じるだけで、
迫害されたり、殺されたりしていました。
- ──
- いわゆる「魔女狩り」というやつですね。
- 前田
- だから、トランプのようなものなら
「これはゲームで遊ぶものです」と
言い訳ができます。
なので、トランプは
タロットから派生したという説も、
けっこう信じられています。
世界のほとんどの呪術に関する本は、
そのころに焼かれてしまいましたが、
タロットとトランプだけが、
姿を変えていまに生き残った‥‥。
そう考えるとトランプが、
すこしロマンチックに思えますよね。
(つづきます)
2018-06-01-FRI