YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし
二膳目。

<第2回 「商売」と「おもしろさ」は矛盾するか。>

吉本 ぼくは、駅売りですべての新聞を買う、
というようなことをしてきたのですが、
その中で自分なりにわかることと言いますと、
いま、いちばん景気がいいというか、
活力がいい、活性があるということを
感じさせるのは、「読売新聞」ですね。
「ここはきっと、多くなってるな」と。

読者が増えている傾向なんだなと思います。
その次が「毎日」なんです。

あの、あとはですね、これはもう、
「ちょっと部数が落ちてきたかなあ」
というのが、東京新聞と朝日新聞なんです。

ぼくの判断は、ただ読んでいるだけで、
紙面だけからの判断なのですけれども、
持続的に読んでいるものですから、
何となくわかるような気がします。

日本経済新聞みたいなものが、
現在、何をしようとしているかといえば、
文化的な新聞のまねをしようとして、
扱う分野を、
広げようとしているように思います。

経済のことについて、わかりやすく、しかも
「縦」に詳しく掘ってあるものにしたほうが、
いいのではないかなあ、と、
ぼくなんかは読者としては思いますが、
日経の紙面としては、そうではなくて、
普通式の「横」に広げる方向に
行こうとしているように感じます。
糸井 別の客を取り込みたい、
と考えている感じは、しますよね。
吉本 ただ、新聞業界全般としては、
減っているのではないでしょうか。
糸井 部数が増えているところは、
あんまりないというか、現状としては、
日経がいちばん増えているんじゃないかなあ?
と思います。

企業が広告媒体として
選択をするかどうか、でいいますと、
いまは、単純に量としては、
朝日と日経が、すごいんです。
日経の精読率は、圧倒的に高いですね。
広告掲載は、やはり、
「どのくらい役に立つか」で選ばれますから。
吉本 その2紙は、掲載料も、高いんですか。
糸井 そうでしょうねえ。
日経では、広告掲載が、
「何ヶ月待ち」になっていますから。

早い話が、いまは、
企業から消費者に向けての
さまざまななアプローチが、ぜんぶ
うまくいかなくなっている時期ですよね。
そうすると、あらかじめ集金能力のある
企業どうしが取引をするというような状態に、
ならざるをえない・・・。
いわゆる「B to B」ですよね。
そうなっている現在の状態で
BがBを刺激するメディアとして使えるのが、
日経なのでしょう。

いまは、ぜんぶうまくいかなくなっていますよね。
そうすると、あらかじめ集金能力のある
企業同士が取引をするような時代に、
いまは、いわゆるB to Bですよね。

それになっちゃっていますので、
BがBを刺激するというメディアとして
使えるのが、やっぱり、日経なんですね。

朝日に広告を掲載するのが人気あるというのは、
「ステータスがあるということになっている」
というのが、いちばん
大きく機能しているのでしょうね。

そういう見方で見れば
朝日と日経がいい、と言えますが、
消費者として見る時には、
商売としてソツなくうまくなっちゃった、
というところよりも、
人気がないけれども自由にやっている
「おめこぼしのある」ところのほうが
読んでいても、おもしろいんですね。

そういう
「おめこぼし」のあるところで
個性が出たり、知らず知らずのうちに
新しいものが出たり自由さが入ったり、
という意味では、さきほど
吉本さんがおっしゃった順序で、
おもしろいというのがあると思います。

ですから、「商売としての儲かりかた」と、
「この新聞はおもしろくなるかもしれないぞ」
というニュアンスは、案外、
矛盾しているかもしれないですね。
吉本 はぁ、なるほど。
糸井 日経なんかだと、おそらく、
半年前くらいから企業が新聞広告掲載を
待っているという状態なんじゃないですか。
つまり「押さえちゃってる」というか・・・。
お客さんを直に刺激する力がないので、
企業どうしの取引が盛んになっているという。

いまは、ぜんぶなくなっちゃってきていますから。
その意味では、広告は企業どうしの話に。
吉本 前は雑誌という媒体が強かったけれども、
今は雑誌に広告を出したくてたまらない、
というところも少なくなってきたでしょうね。
ましてや、広告がそんなにも順番待ちで
たくさんのところが掲載を待っていて、
という状態は、ほとんどないだろうし・・・。
次は新聞もあやうくなるのかもしれないですね。
糸井 いや、たぶん、新聞のほうが、
実はそうとう深刻だと思います。
倒れる時に、並大抵の大きさではないですから。

企業はいま、みんな効率で動いていますから、
広告を出す時も、その新聞なりが
「何部、売れているか」を軸にしますよね。
読んでいる母数がこれだけあるから、
そのうち何%に効果がある、というデータから、
結局は、母数の大きいほうに行くという論理ですよね。

でも、消費者としては、そうは見ていないですよね。
たくさん売れているから、いいな、と、
読んでいるわけではないですもの。
母数は少なくても、毎日新聞は最近おもしろいぞ、
とかいう印象は、企業には届かなくても、
消費者には届いている、という状態なんだと思います。

ただ、おもしろいのは、
毎日新聞が、売れていないから
いろいろおもしろいことをやっているけれども、
それが今度売れてくると、またそれはそれで
違う競争に入っていきてしまうかもしれないので、
つまらなくなるかもしれない、とか、
その繰り返しになるのでしょうね。
吉本 はい。
傾向としては、とてもよくわかりますよ。


(つづく)

2001-08-03-FRI

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