糸井 |
文学とか活字の話って、教育の現場では、
「必要不可欠」であるように教えますよね。
そして、今もなお、活字に関わる人たちは、
ほとんど、
「これがなくなってしまったら大変だ」
「活字の衰退は、由々しきことだ」
という前提で話をしますよね。
だけど、その前提さえもが、
歴史の推移から言うと、もしかしたら、
無理なものなのかもしれないと思います。
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吉本 |
そうですね。
そうだと思いますねぇ。
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糸井 |
あ、吉本さんも、そう思うんですか? |
吉本 |
思いますね。
いろいろなところに、
その兆候が見えていると思いますよ。 |
糸井 |
ええと、そこを吉本さんに
ぜひ伺いたいのですけれども、
活字文化が衰退していくことは、
「人間がバカになっていくということ」
を意味しているのでしょうか。
例えば、逆に、
「知のかたちが変わって、人間の持っている
素晴らしさみたいなものが変化している」
と捉えるとしたら、今の変化に対する見方は、
ぜんぜん変わってくる、と思うんです。
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吉本 |
たとえば、学校の先生が
「このごろの学生は質が落ちてきた」
と、言いますが・・・。
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糸井 |
はい。よく言います。
そう言うのが、流行ってますよね?
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吉本 |
それはたぶん、先生たちは
「学校の勉強をすること」
いちばん大きい問題だと据えていて、
「それがだめになっちゃったんだ」
と、嘆いているんだと思うんですよ。
でもぼくは、
そういう考えは、ちょっと、
違うんじゃないかなあと思います。
見かけ上からでは、確かに
エンターテインメントみたいなものだけが
膨大になっている状況です。
いわゆる純文学のようなものが
あまり読まれなくなるし、勉強面で言うと、
学生の質が落ちてきた、と言われますが、
ただ、それを、よく
「文明が発達して、文化の質が落ちたんだ」
という言いかたをする人がいることに関しては、
ちょっと解せないなあ、と感じます。
ぼくは、だから、
質が落ちたというような言い方は、
しないんです。
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糸井 |
うん。吉本さんはいつも、
「最近はだめだ」
という言い方はしていないですよね。
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吉本 |
むしろ、今まで
「活字は面倒だから、読みゃあしねえよ」
というように思っていた人たちまでが、
今はもう、活字の領域に入ってきたという、
そのことが、まず、大切なこととして、
ひとつ、あるんじゃないかと思うんです。
だから、文化全体としては
ちっとも質が落ちてないと感じます。
やっぱり、質は高度になってるよ、と
言ったほうがいいのではないでしょうか。
メディアの質が、「落ちた」のではなく、
要するに「変ってきたぞ」ということであって、
それはそうとう前から顕著なことだと思います。
うちの子が大学の文学部に入ったのが典型だけど、
「おまえ、夏目漱石を、読んだか?」
なんて訊いても「読んでねぇ」って言うんです。
昔の見方からすると、それじゃあ、
ちょっと文学部に入るには成り立たねえよ、
とか思ってしまうのですが、そうじゃない。
「宿題で、漱石の本の感想を書け、
というのがあるから、本をかして」
というから渡して、読んだ感想を口で訊くと、
これが「けっこう言うなぁ、お前」と言うか、
「その読みは、なかなかいい読みだよ」と
感じさせられると言いますか。
つまり、ちっとも、質が落ちてはいない。
そういう実感からすると、
文学や活字の衰退、というのは、
いままでだったら何かをしようと思って
文学に行っていたような資質の人たちが、
結局今は、音楽や芝居や映画とか、
そういう方向にのびたと考えたほうがいいと。
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糸井 |
ジャンルが、横にひろがった。
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吉本 |
ええ。それだけのことだと思います。
ちっとも質が落ちてるって風は、ねえぞと。
一見質が落ちたかに見えるけど、ちょっと、
そういうことは成り立たないぞ、という感じが、
ぼくとしては、するんですね。
だからぼくはやっぱりそこは、
「変わってきた」んだよと言いたいなあと思います。
決して、質が落ちてきたとは、思わないんです。
確かに大学の授業科目なんかを勉強する奴は、
今は、いなくなってきたかもしれないけれども、
全体として見れば、質は徐々に変化していって、
メディアが変化してきていていると考えます。
学校の先生は、よく、学力低下と言いますが、
ぼくは「それは、ちがうんだ」と言うか、
「そういう意味での学力は低下していいんだ」
とまでは、言いませんけれども、
もっと、文化が横に伸びているんだよ、
と思うんですね。
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糸井 |
わかるなぁ。
吉本さんのおっしゃった言い方だと、
いわゆる学力低下をなげいている人からは、
「吉本は何を脳天気なことを言ってるんだ」
と思われるのでしょうけど、
ぼくも、吉本さんに近い実感を持ってるんです。
確かに、昔のように、
「ひとにぎりの知識人が
おおぜいの大衆をひっぱっていく」
というかたちに比べると、
傑出した個人としての競争力は
減ってきているのでしょう。
ただ、総量としての豊かさは、
明らかに、アップしているんじゃないかと
ぼくは思おうとしているし、思っているんです。
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吉本 |
はい。
「結局、質があがっている」んだと思います。
質があがっていることと、
変化していることとが
両方、混じっているのでしょう。
「このごろの学生は質が落ちている」
とか言っちゃう人、というのは、
大学程度の授業ばっかり見ていると、
そう思うことになるんだと思います。
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糸井 |
(笑)「大学程度」ですねぇ。
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吉本 |
ぼくは、そういう理解のしかたをしています。
決して「落ちた」とか、
「学生に失望した」とかは思わないです。
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